(新星歴4819年3月9日)
「ねえ、光喜さん、ちょっといいかな」
ギルガンギルの塔での訓練を終え、隠れ家で休んでいた俺を訪ね茜が転移してきた。
少しハードな訓練だったためベッドで横になっていた俺は意識が朦朧としていた。
だから反射的に茜の腕をつかみベッドへと引き込み甘えるように茜に抱き着いた。
「きゃっ!あう、ちょっと、光喜さ…」
茜の感触と優しい匂いに、俺は真核が癒されるのを感じながら本能の赴くままさらに強く抱きしめる。
ああ、服が邪魔だ。
肌を感じたい……俺は夢中で彼女の衣服を乱れさせる。
彼女の滑らかな肌を感じる。
とても気持ちがいい。
「やん♡……ん、もう♡……」
俺は茜の胸にまるで幼子のように顔をうずめ、彼女の柔らかさ求めるように手を動かした。
茜の感度の良い体が、ビクンと跳ねる。
そして甘い吐息を漏らし始めた。
そしてそのまま、俺は意識を手放した。
安心しながら。
「…えっ?……寝ちゃった?……真核、ボロボロだね……もう、光喜さん……」
抱きしめられ、服をはぎ取られ、際どい所に手を這わした状態で意識を失うノアーナを、優しく見つめ、彼の頭を撫でながら涙を浮かべた。
空間が軋み魔力があふれ出す。
ダラスリニアとエリスラーナの二人だ。
まるで事後のような茜の乱れた服装に、ダラスリニアはジト目を向けた。
感覚が伝わっていないので『いたして』いないことは分かっているが、顔を赤らめ涙を浮かべ、際どい格好でノアーナに組み敷かれている茜に思わず問いかけた。
「……茜……説明して」
「っ!?えっと……その…、し、してないよ!…ほんとだよ」
「むう、ズルい。茜、早くベッドから降りて」
エリスラーナが口をとがらせ茜を睨む。
何とかノアーナを動かし、いそいそと衣服を整え、茜がベッドから降りてきた。
「…ごめんなさい」
赤い顔でおずおずと謝る茜。
二柱がため息をつく。
「……もう、……うん」
「はあ、不可抗力。許す」
「……うん」
そしてダラスリニアが、目を瞑り意識を失うようにぐったりしているノアーナを愛おしそうに、心配そうにのぞき込んだ。
いつも強く覇気のあるノアーナの弱々しく儚い姿に、思わず『きゅん』となってしまう。
恐る恐るノアーナの髪を撫でた。
ぴくりと反応するノアーナ。
ダラスリニアはベッドに入って膝枕をしてあげようとノアーナの頭を持ち上げさらに近づいた。
「っ!?……あう……ん♡」
突然ノアーナがダラスリニアに抱き着く。
そしてほぼ無意識で、体中をまさぐり始める。
茜と同じように余りにもスムーズに服をはぎ取られ、まるでぬいぐるみのように抱きしめられる。
敏感なところをまさぐられ、顔を真っ赤にするダラスリニア。
茜とエリスラーナに見つめられている状況に、普段とは違う興奮に包まれた。
「…あう♡ノアーナ様…」
起きているんじゃないかと思うほどダラスリニアを求めるノアーナ。
無意識だけに普段ある節制がまるで働いていないようだ。
目の前で繰り広げられる抱擁に、見ている二人まで体の芯が疼いてきてしまう。
「ちょっと、ダニーちゃん、ズルい、ああ、もうっ!」
「ダラスリニア、だめ、ふ、不敬」
「…ああ…あう♡…」
おもむろに覆いかぶされるダラスリニア。
無意識の絶対者様はどうやら臨戦態勢が整ったようだ。
「だめっ!!もう!!」
溜まらずエリスラーナが飛び込む。
ふらりと倒れ込むノアーナ。
そのまま微動だにせず、呼吸音だけが響き渡る。
腰が抜けたように何とかダラスリニアがベッドから避難してきた。
「……やばい……危ない、ノアーナ様…」
二柱と茜は三人で見つめ合う。
そして全員が同じことを考えていた。
次は一人で来ようと。
絶対に。
※※※※※
なんだかとても気持ちの良い夢を見た気がして俺は目を開けた。
心なし神格のダメージが回復したように思えた。
「???」
俺は取り敢えずベッドで伸びをし、近くの人の気配にだんだん意識が覚醒していく。
「おはよう、茜、ダニー、エリス。すまないな、気が付かなくて」
ソファーで紅茶を飲んでいる三人に俺はベッドから起き上がり声をかけた。
何故か三人の顔が赤い。
「ん?どうした?…顔が赤いが」
「な、何でもないよ、それより光喜さん、真核大丈夫なの?」
「ああ、良く判らないが回復したようだ」
何故かエリスラーナがジト目で俺を見つめるが。
「エリス?…おいで」
良く判らないが何となくそれが正解のように思った俺はエリスラーナに声をかけた。
弾かれるように急いで俺に飛びついてくるエリスラーナを優しく抱きしめる。
「ああ、エリスは可愛いな。癒される」
「ん、ノアーナ様、大好き♡」
「ああ、本当に可愛い、はあー」
俺の真核が癒されるのを実感した。
エリスラーナに手を引かれ、俺は二人が待つソファーへと腰を掛けた。
茜が淹れてくれた紅茶からいい匂いが立ち込める。
「それでどうしたんだ?何か用事があるのだろう?」
「うん、ほら春じゃんね。極東がさ、奇麗なんだよね」
「ん?……ああ、そんな季節だな」
俺は極東がサクラに包まれている情景を思い起こした。
「それでさ、たまには二人きりで、お花見デートしたいな、なんて……」
顔を赤らめモジモジする茜。
可愛すぎかっ!
「ああ、良いなそれ。ん、でもお前ら三人だが……一緒に行くか?」
「だめっ!」
「……いやっ!」
「ん、二人きり、三回行く」
あまりの熱量に思わず腰が浮く。
「お、おう。……じゃあ順番に、という事か」
こくりと頷く二柱と茜。
「そうだな、うん、そうするか。じゃあ段取りは任せていいか?決まったら教えてくれると嬉しい」
「「「まかせて!!」」」
こうしてよく考えたらまともなデートは初めてだったことに気づいた俺は、心が躍るのを感じていた。
「ああ、頼んだ。俺は一度グースワースに戻るよ。流石に今日は勘弁してくれ。せっかくのデートだ。俺も体調を整えたい」
「うん。分かった。また連絡するね」
俺はグースワースへ飛んだ。
※※※※※
グースワースの自室に転移してきた俺にネルが気づいて、ほぼ同時に転移してきた。
俺は自然にネルを抱きしめる。
まだ真核にダメージのある俺は自室という言い訳をしながら、二人きりであることを確認し彼女に甘える。
「ノアーナ様、お疲れ様です。……たくさん甘えてくださいませ♡」
ネルの膝枕は至高だ。
ああ、俺は最高の幸せ者だ。
優しく髪を撫でられ、真核のダメージがどんどん癒されていく。
聖母のように慈しんでくれている俺の女神に声をかけた。
「ネル、二人きりでデートしないか?極東の桜が満開らしいんだ。まあ、俺の考案ではないのだがな。でも初めてはお前と過ごしたい」
ネルの頬が桜色に染まる。
「よろしいのですか?……嬉しいです♡」
「ああ、茜たちに誘われたが、俺は最初にネルと行きたいんだ。すまないな、俺は気が利かない。それにクズだ。彼女たちとも行く約束をした」
ネルの表情に呆れたような色が浮かぶ。
「もう、ムードを考えてくださいな。ふふっ、でも正直なあなた様は、わたくし大好きですよ。最初をわたくしにくれることで許してあげます♡」
「俺の可愛いネル。ありがとう」
こうして俺は四人とお花見デートに行く事になった。
まあ当然だが、四人では終わらないのだが。
俺はこの時そのことには考えが及んでいなかった。