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第182話 お花見デート2

(新星歴4819年3月13日)


今日俺は白のタキシードで真っ赤なバラの花束を携え、白馬にひかれる馬車に乗り魔国王の城であるガイナファルン城へとダラスリニアを迎えるため向かっていた。


昨日の雨でデートが1日延期となっていた。

馬車を引く馬が水を嫌がり道を蛇行する。

馬車がたまに『がたっ』と音を鳴らし揺れる。


もう間もなく到着するようだ。

俺は改めて昨日のやり取りを思い出した。


※※※※※


「転移ではだめか?」


俺の問いかけは皆のジト目で相殺され、こういうのは形が大切だと女性陣に強く言われていた。

まあ、分からなくもない。


お花見デートのはずが、なぜか普段聞き分けのいいダラスリニアが一度でいいからこういう事をしてみたいと激しくおねだりされた結果だった。


「……わたしの夢……ノアーナ様……お願い」


顔を赤く染め上目遣いで目を潤ませ頼まれてしまえば、断るわけにもいかないだろう。

しかもネル含め、多くの神たちに既に許可を取っていた。


ネルが昨晩ため息交じりに俺に教えてくれて判明したことだ。


エリスラーナなどは「ズルい。私もそうすればよかった」とか言っていたし。

まあ、彼女は今回のデート、非常に満足してくれていたため冗談みたいな感じではあったが。


茜の目が怪しく光っていたことは気づかないふりをした。

楽しみではあるがあまりハードルを上げないでほしいものだ。


ただ、ダラスリニアの手回しが広範囲だったことで、アルテミリス、モンスレアナ、アースノートにも今回のデートの事がばれた。


勿論隠していたわけではない。

だが少し後ろめたい気持ちになったのは事実だ。

穴埋めが必要だろう。


……正直楽しみで仕方がないが。


※※※※※


そんなことを考えているうちに馬車が城の門を潜り抜け、正面玄関にたどり着く。


何故か魔国王のバルザード、ダラスリニアの父であるルドルク、さらにはギルアデスまでもが膝をつき、大勢の使用人や騎士が整列し花道のようになっていた。


そして奥から、まるで花嫁衣裳のような真っ白なウエディングドレスの様なものに包まれた美しいダラスリニアがしずしずと俺の前へと進んできた。


周りからどよめきが伝わってくる。


俺はダラスリニアにバラの花束を渡し、そして跪き、白魚の様な可愛らしいダラスリニアの手をすっと取り、手の甲にキスを落とす。


そして「……演技で良いの。……お願いします」と言われたセリフを口にする。

まあ、オーダーされたのは皆の前でちゃんと「愛してる」と言ってほしいと言われたのだけれど。


もちろん俺だって楽しみにしていた。

そしてダラスリニアを愛しているのは本気の俺の気持ちだ。

せいぜいアレンジしてやろうじゃないか。


「ああ、なんて美しいんだダニー。可愛いダニー、どうか俺と一緒に来てほしい。俺はお前しか見えない。愛している。もうお前を誰にも渡さない」


ダラスリニアを抱きしめる。

彼女の目が驚愕に開かれ、大粒の涙が零れ落ちた。


「っ!?……はい。……ああ、ノアーナ様……もう死んでもいい」


そしてベールの様なものを優しく上げて、彼女の可愛らしい唇に本気のキスを落とした。


「んん♡…あ…んふ、…ん♡…あう♡」

「可愛いダニー、死ぬなんて冗談でも言うな。俺が寂しくなってしまうぞ」


ダラスリニアの体から力が抜ける。

俺はおもむろに彼女を優しく抱え、並んでいる皆に宣言をする。


「ダラスリニアはもらっていく。ダニーは俺のものだ。いいな」

「「「はっ、仰せのままに」」」


全員が臣下の礼を取った。

ルドルクが涙ぐんでいた。

うん。

後でちゃんと説明するから今日は勘弁してほしい。


俺たちは馬車へと乗り込み、しばらく馬車の旅を楽しんだ。

馬車が揺れて体が触れ合い、隣に座るダラスリニアの視線が熱を帯びてくる。

どうやら気に入ってもらえたようだ。


「ダニー、ああ、なんて美しいんだ。……はあ、可愛い」


俺は改めて彼女を見つめる。

美しい薄っすら発光する深紫色の髪を丁寧に結い上げ、白いうなじが色香を放つ。

肩まで出ている純白のドレスは胸を強調させているが、デザインが秀逸なため卑猥さは感じられない。


細い腰に、ゆったりとしたレースのスカートからは白い美しい足が覗いている。

彼女の白い肌がうっすらと桜色に色づいていた。


「…ああ、ノアーナ様……うう、もう……好き♡」


溜まらず俺に抱き着いてくる。

彼女の蠱惑的な体と魂を震わすような魅力的な匂いに包まれた。


俺は優しく彼女の頭にこつんと自分の頭をぶつけ、超至近距離で美しいダークブラウンの瞳を見つめ、そして信愛の表情を思い切り瞳に乗せてささやく。


「喜んでもらえたかな?お姫様」

「…うん。……とっても。……嬉しかった♡」


これでダラスリニアのオーダーはクリアーだ。

彼女の満足げな顔はとても美しかった。


馬車の旅を終りにし、俺たち二人は極東へと転移した。

さあ、お花見を楽しもう。


※※※※※


極東の宿屋の一室を押さえていた俺たちは着替えを済ます。

二人でおそろいの極東風の着物の様な衣装を纏う。


俺は紺色で、ダラスリニアはベージュ。

スタイルの良い彼女は何を着ても可愛らしい。


「ダニーとてもよく似合っている。可愛いよ」

「…ノアーナ様も……かっこいい♡」


俺たちは指を絡ませあい町を散策した。

にぎわう街は笑顔に包まれ、俺たちのテンションは上がっていった。


昨日雨が降ったせいか、道にはびっしりとピンク色のじゅうたんが敷かれたみたいになっていた。

桜の時期は短い。

きっと一週間もすれば葉桜になるのだろう。


途中団小屋でお茶を飲みながら休憩を楽しんだ。

相変わらずこの極東の町は活気にあふれている。

お祭り期間だ、観光客も多い。


明らかに外国から来たであろう一団が多く見かけられる。


「…すごい人…いっぱい…」


俺の肩にコテンと頭を預け、ダラスリニアがつぶやくようにささやく。

可愛い彼女の熱を感じながら、俺は空を見上げる。


キレイな青空に、舞い踊る花びらが美しい。


「そうだな。ありがとうなダニー。俺と一緒に来てくれて」

「っ!?…ううん、わたしの方こそ……ノアーナ様?」

「うん?」


そして赤く染まる顔で俺を見上げるダラスリニア。

そして見る見るうちに目に涙があふれ出してくる。

俺はハンカチを取り出して優しく涙をぬぐう。


「……幸せ過ぎて……怖い……だって…いつか…」


俺は彼女を安心させるよう優しく包み込むようにハグをした。


「すまないな、いつも心配ばかりかけて。でもな、俺にも意地があるんだよ」


そして額にキスを落とし俺は立ち上がる。


「俺はダニーを失いたくない。……ずっと守りたいんだ。……格好つけさせてくれ」

「……はい。……もう、これ以上カッコよくなったら……ずるい」


俺たちは手を取り合い、お祭りの会場へと進んでいった。

緑の葉が混じり始めた桜でさえ、俺たちの目に、とても美しく映ったんだ。


※※※※※


魔国で思ったより時間を費やしたようだ。

あたりがだんだん暗くなってきた。

気温が下がり始める。

俺は彼女を温めるよう密着しながら、桜の花びらが儚く散る様を見ていた。


「……ううっ……少し寒い…」

「ああ、すまないなダニー。俺はお前が温かくて。……相変わらず気が利かないな俺は」


そして強めに抱きしめる。

彼女の感触に胸が熱くなる。


「ん♡……ノアーナ様………その……」


欲情を浮かべた彼女はたまらなく魅力的だ。

俺は彼女の可愛らしい唇にキスを落とし、ささやいた。


「俺はクズだが……良いのか?……もう我慢できなくなってしまうぞ」


俺を見つめこくりと赤い顔で頷くダラスリニア。

ああ、やばいな。

もうだめだ。


「ダニー、愛しているよ。……行こう?」

「……いっぱい……可愛がってほしい♡」


俺たちは押さえている宿屋へと飛んだ。

普段と違う衣装の魔力はとんでもないものだ。

我を忘れるほど、可愛くて美しいダラスリニアと心を通わせあった。


ああ、本当に可愛い。

ずっとおぼれていたい。


何度感じても、経験を重ねても、俺の可愛いダニーはいつまでも最高だった。


※※※※※


もう深夜に近い午後11時、俺はダラスリニアをギルガンギルの塔へと送り、隠れ家で休んでいた。

明日は茜とのデートだ。

連日のデートだが俺の心は高鳴る一方だ。


美しく可愛い彼女たちとの楽しいデートは、俺の真核を強くしていく。


※※※※※


空間が軋み、魔力があふれ出す。

茜だ。


「こんばんは。……光喜さん、今良いかな」

「いらっしゃい。ああ、問題ないぞ」


俺はソファーへ移動し、紅茶を出す。

二人で紅茶を飲み、ほっと一息ついた。


「もう、光喜さん、エッチ。ネルもエリスちゃんもダニーちゃんも……もう」


ジト目を向ける可愛い茜。

本音が出てしまう。


「ははっ、可愛いな茜は」

「むう、子ども扱いして。……まあ、みんな可愛いもんね…はあ」


俺は紅茶を飲みのどを潤した。


「明日はどうするんだ?俺は年甲斐もなく浮かれているのだが」

「えっ?……うん。嬉しい♡……えっとね、明日はさ『ノル』になってほしい」

「ん?かまわないが、良いのか?」

「うん。……だって、あの時に好きになったんだもん。……振られたけど」


顔を赤らめながらジト目をする。

俺は思わず天井を仰ぐ。


「まあ、な。……俺も青かったな」

「うん。意地悪だった。………ヘタレだったし」


二人ふと目が合い笑い合う。

ああ、なんかいいなこういうの。


「分かった。どうする?『ノル』で迎えに行くか?」

「ううん。ここから一緒に行きたい。極東の検問所に並んでさ、美味しい和食食べよう」

「っ!?……携帯食料用意しておくか?」

「ん、もう、イジワル」


俺たちは自然にじゃれ合い、楽しい時を過ごした。

日付が変わる頃茜が転移していくまで。


俺たちは朝、会議室に集まる約束をして別れた。



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