アルテミリスに格好悪いところを見られた俺は、お礼を兼ねて彼女を誘い、秘境巡りツアーという言い訳の元、しっぽりとデートを楽しんだ。
再度怪しい場所をこの目で見るために二人きりで回った訳だが……
野外というのはやばいな。
うん。
何がとは言わないが。
まあ、デートの時間の方が長かったのはしょうがない事だろう。
そして同じようにモンスレアナとアースノートとも二人きりのデートを行った。
皆とのデートは、それはもう最高に楽しかったのは言うまでもない。
俺の彼女たちは全員メチャクチャ可愛い。
俺と7人の彼女たちの絆は今最高に高まっている。
俺は本当に幸せ者だ。
嫉妬や妬みという感情を持ちながらも許してくれている彼女たちは俺にはもったいないくらい、素晴らしい女性たちだ。
まあ、たまにネルや茜が怖い時もあるが。
でも俺はそんな彼女たちが大好きだ。
言っておくが俺はドMではない。
ないったらないんだからな!!
俺はできる限り精一杯彼女たちを愛すると決意を新たにしていた。
※※※※※
(新星歴4819年4月25日)
今日は久しぶりにグースワースの7人の部屋に転移してきた。
今は応接コーナーで寛いでいるところだ。
あれからいくつかのカップルができ、グースワース内は何だか浮ついていたがどうやら落ち着いてきたようだ。
ガルナローは少し可哀相だったが。
まあ、完全にダメというわけではないと思いたい。
きっとチャンスはあるだろう。
……あるよな?
「ノアーナ様?今日はグースワースにいらっしゃるのですね。嬉しいです」
そう言ってルイーナがニコニコ顔で俺に声をかけてきた。
頭を近づけてくることも忘れない。
俺は優しく頭をなでてやる。
気持ちよさそうに目を細める。
可愛い。
この子ははじめ俺に対しきつく当たっていたが、本人曰く照れ隠しだったそうだ。
「性格可愛くないんですわたし」と、その時一緒に打ち明けてくれた。
「ルイーナ、今日はオフか?」
最近ベッドにいる事が減った彼女たちの部屋には大きなテーブルが設置されていた。
ノニイとカリンが座っている。
「はい。そうしたらノアーナ様がいらしたんで、お話ししたいなって」
「光栄だ。……だが俺の話は面白くないだろうに」
かぶりを振るルイーナ。
そして立ち上がりこちらに近づいてくるカリンとノニイ。
「ノアーナ様、私もお話し参加してもいいですか?」
「わ、私も」
「ああ、そうだな。俺一人の話じゃせっかくのルイーナのオフが無駄になってしまうからな。よし特別にご馳走しよう。魔国王にもらった旨い紅茶があるんだ」
俺は手を数度振る。
いつもよりもかぐわしい匂いが部屋に立ち込めた。
美味しそうに紅茶を飲む3人を眺めながら俺は思っていたことを口にする。
「お前たちが来てグースワースは本当に華やかになったよ。辛い中頑張ってくれたお前たちのおかげだ。ありがとう」
3人は紅茶を飲む手を止める。
そして真剣な顔で俺を見つめてきた。
ルイーナが口を開く。
「ノアーナ様、ここは自由恋愛なのですよね?」
「ん?ああ、そうだぞ。……好きな人ができたのか?……ああ、良かったな」
俺は心から喜んだ。
彼女たちは酷い目にあっている。
心のダメージは計り知れないんだ。
「お前たちが幸せになってくれることが俺は一番の幸せなんだ。でもな、焦らないでくれよ。ゆっくりでいいんだ。……でも、そうか。ああ、今日はいい日だな」
俺はニコニコ顔でルイーナを見つめた。
しかしルイーナの瞳からは涙があふれてきた。
「っ!?お、おい、どうした?……すまない、俺が軽率なことを言ったばかりに」
「ちがうのっ!!」
一瞬の静寂が支配する。
そして再度彼女は決意を胸に打ち明けた。
「私は……私は、ノアーナ様が好き」
「ふう、……お前たちも知っているだろ?……俺は7股の最低男だぞ?」
「関係ない。もう好きなの。何番目とかどうでも良い。…好きなのっ!!」
確かに彼女たちの瞳に俺に対する恋慕の情が育っていることには気づいていた。
でも、だからこそ、俺は距離をとっていたつもりだったのだが。
すっとカリンが立ち上がる。
「私も大好きです。……ノアーナ様……」
ノニイが俺の腕に抱き着いてくる。
「ノアーナ様、もう無理なの。好きすぎてもうおかしくなっちゃう。私も……」
3人の目から涙が溢れ、覚悟が俺に伝わる。
俺は彼女たちの事をどう思っているのだろうか。
真剣な彼女たちに対しいい加減な対応はできない。
簡単に関係を持つなど論外だ。
「ありがとうみんな。だが待ってほしい。すまないな、お前たちは本当に可愛いと思う」
俺は紅茶でのどを湿らした。
視線をむけ座るように促す。
「きっと凄く葛藤したのだろうな。……だからこそ俺も真剣に考えたいんだよ」
「時間をくれないか?……必ず返事をさせてもらうから」
3人はこくりと頷いてくれた。
「今日はゆっくり休みなさい」
俺は執務室へと転移した。
真剣にネルと相談するために。
段階が進んでしまうのかもしれない。
※※※※※
時間は少しさかのぼる。
ノアーナが3人と話をする少し前。
ギルガンギルの塔では久しぶりに呼び出されたネルを含め、俺と関係を持っている5柱の神々と茜が重苦しい雰囲気の中会議を開いていた。
「皆、ありがとうですわ。招集に応じてくれて。……ネル、真核は大丈夫かしら?一応結界は構築しましたけれど」
アースノートがいつもと違う真面目モードで問いかけた。
「はい、ご配慮ありがたく」
「もう、良いのよ普通にしてくださる?今更でしてよ」
「……わかりました」
「アースノート、今日はいったい?……特に聞いていないのだけれど」
モンスレアナが問いかける。
アースノートは珍しく歯切れ悪く話し始めた。
「ふう、……ノアーナ様と茜、そして世界を守るための手段の説明とお願いがありますの」
「「「「「っ!?」」」」」
「えっ、わたし?」
「本当はネルには言わない予定だったのだけれど……でもノアーナ様を心から愛している彼女に知らせないわけにもいきませんでしょ?……ネル」
名を呼ばれビクリと肩をはねさせるネル。
明らかにアースノートの魔力の質が普段とは違う事に、恐怖を感じていた。
「は、はい……」
「ごめんなさいね。酷い事を言いますわ。今から」
静寂に包まれる。
アースノ-トは全員を見回し、ぐるぐる眼鏡をはずし瞳に力を籠める。
「生贄を増やしますわ。……ノアーナ様に儀式を行っていただきます。多くの女性たちと。もちろん私たち以外の」
「「っ!?」」
「「「「………ふう」」」」
茜とネルは驚愕で目を見開く。
神々はあきらめの表情を浮かべた。
創造されているかいないかで対応が異なっていた。
「アースノートさん、ちょっと待って。どうして?今だって……ほんとはもう嫌なのに」
茜は目から涙を零す。
「ノアーナ様が他の女の子と……嫌……もうヤダ……まだ増やすなんて」
「当然ですけど誰でもというわけにはいきませんわね。儀式の条件が整わなければ意味がないですもの」
「感情の揺らぎと想いやるお互いの心……つまり相思相愛でなければ成立しない」
アルテミリスがつぶやく。
「ええ、グースワースにおりますでしょ?ノアーナ様ごのみの可愛らしい女性たちが」
「っ!?……まさか?」
ネルが思わず立ち上がる。
居る。
数人条件を満たしてしまう女性たちが。
「ふう、勘違いしてほしくないのだけれど……あーしだってできるなら、あなたたち全員殺してでもノアーナ様を独占したいのですわ。まあ、そんなことできませんし、ノアーナ様は悲しむでしょうしね」
ピリッと空気が殺傷能力をはらむ。
アースノートの言葉は本気だ。
「何となくわかるけど……説明しないのは不敬」
エリスラーナが殺気を纏う。
ネルは思わず蹲ってしまう。
真核が消耗していく。
「……もう……落ち着いて」
ダラスリニアが結界を構築した。
優しい闇がネルを中心に構築され、エリスラーナの殺気を中和していく。
「そうですわね。エリッち、抑えてくださいな?話が出来ませんわ」
「っ!?……むう」
包まれていた殺気が霧散していった。
「おそらく近い将来最悪の危機が訪れる。その時に時間を稼ぎたいのですわ。たとえ誰が犠牲になったとしても。……あーしはノアーナ様と茜だけは絶対に守りますわ」
「漆黒を保有する女性を増やすこと。最低条件ですわね」
全員が固まってしまう。
アースノートは涙を浮かべながら続ける。
「悪意は恐ろしいほど悪辣なのですわ。まさに想像がつかないほどに。……躊躇してノアーナ様を失いたくない」
気付けば全員が涙を浮かべていた。
皆の気持ちは一緒だ。
ノアーナを失いたくない。
「茜はあいつらに対する切り札ですわ。あなたを守ることにもつながりますの。耐えてくださる?」
アースノートは真っすぐに茜を見つめる。
「……ほかに方法はないの?」
「ええ……あ―したち全員が嫉妬心に耐えればいいだけですわね。……今と変わりませんわ」
「……でも……うん」
「ネル、あなたに頼みがありますの」
「……なんでしょうか」
アースノートは怪しい色を放つポーションが入っている瓶を取り出した。
「ノアーナ様に飲ませてほしいの。そして関係を進めてくださるかしら」
「っ!?」
アースノートはため息をつき諦めた表情で遠くを見るような顔をした。
「あの方は優しすぎるのです。きっと理解されても手は出さないのでしょ?もうあの娘たちは夢中だというのに。まだ傷があるとかなんとか言い訳をして」
確かにノアーナは手癖の悪いクズ男で大きな愛を持っている。
7人を全力で愛してくれている。
そしてもう1年以上一緒にいても、リナーリアにすら手を出していない。
「媚薬でしょうか」
「ええ、まあとても弱いものですけどね。……背中を押す程度ですわ」
ネルは天井を見上げた。
正直覚悟はとっくにしていた。
絶対にノアーナの特別な女の子は増えると最初から確信していた。
でも、心が引き裂かれるほどつらかった。
ふとよぎるカナリアの言葉。
「貴方だってわかっているじゃないの。もうあなたの心次第ですよ」
「必ずあなたのところに戻ってくるわ。信じていいのよ」
覚悟を決める時が来た。
ネルは決意を込めた目をアースノートに向ける。
「アースノート様、媚薬はいりません。……わたくしが責任をもって必ず儀式を行わせます」
「ちょっ、ちょっと待ってよネル、いいの?……だって……」
茜は思わず駆け寄りネルの肩に手を置いた。
肩が震えている。
涙が止まらない。
「わたくしも嫌です。あの方の優しいまなざしが他の女の子に捧げられるなんて、愛をささやくなんて…でもっ!!………わたしもノアーナ様にいてほしいの。ずっとそばにいたい。グスッ、……ヒック……うあ…うあああああ……」
茜に縋りつくネル。
茜はネルを優しく抱きしめながら、自分のわがままに、情けなさを感じていた。
「うん。ごめんね、うん。分かったよ、ネルも辛いもんね…ヒック…ぐすっ」
そして涙をこらえながらアースノートを見つめた。
「アースノートさん。分かったよ。……うん、わたしも覚悟を決める」
「……ええ、ありがとう茜。ネルもありがとう。……全く罪なお人ですね。ノアーナ様は」
全員が涙を流し嗚咽を解き放つ。
会議室にいつまでも美しい女性たちの泣く声が響き渡っていた。