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第19話 達成した

 二時間ほどかけて森から脱出した草薙たちは、ラトニ村へと帰還した。


 村の入り口にいた村長が出迎える。


「おぉ! お二人とも、無事でしたかい?」

「えぇ、なんとか」

「それで……、そちらはマニモストアの残骸ですか……?」

「はい」


 そういって草薙は、村長にマニモストアが怪物のようになっていたことを伝える。


「……なので、何かしらの参考になればと思い、こうしてマニモストアの一部を採取してきた訳です」

「なるほど……、食人植物の怪物化ですか……。それは奇妙な話ですのう」


 村長は顎に手をやり、何かを思い出す。


「そういえば最近王国内で、植物の怪物化や魔物の怪人化が進んでいるという話を聞いたことがありますの」

「そんな話が……」

「とはいっても、出現している数が少ないこともあって、調査が進んでいないとかなんとか。この話も各町村の長に伝わっているだけで、実害も少ないとのことで……」

「うーん、でもこうして出現しているのだから、何かしらの原因があるわけですよね?」

「それが分かれば苦労はしないものですがのぉ」


 結局、ここにいる人だけで理解するのは困難であるということになった。


「とにもかくにも、マニモストアの駆除には成功しました。確か、村長さんが何かするんでしたっけ?」

「うむ、そうだの。クエストの紙を貸しておくれ」


 そういって村長は、クエストの紙に依頼内容が達成されたことを示すサインを書く。


「これをギルドに提出すれば、クエスト完了ですぞ」

「ありがとうございます。それじゃあ自分たちはこれで……」

「あぁ、待ってくだされ」


 村長が草薙たちのことを呼び止め、何かを取ってくる。


「これ、少しばかりだが感謝の気持ちです」

「これがクエスト報酬ってことですか?」

「いや。それとはまた別の、ささやかな感謝の気持ちですぞ」

「そんな……! 悪いですよ」


 草薙は受け取りを拒否しようとした。しかし、村長に押し切られる。


「まぁまぁ、そう言わずに……。納めてくだせぇ」


 結局、人の善意に逆らえずに物品を受け取った。


「それでは、自分たちはこれで失礼します」


 翌朝。馬車を出し、ラトニ村を出発する草薙とミーナ。村人たちは総出で見送った。


「なんだか、よく分からないままクエストが終わりました……」

「そうですねぇ。マニモストアのサンプルも持って帰ってきたのはいいものの、この後どうすればいいのやら……」


 草薙はそんなことを思いながら、村長から貰った「ささやかな感謝の気持ち」の袋を開ける。中には村で採取されたと思われる草が入っていた。


「なにこれ……?」


 草薙は試しに一つの草を取り出してみる。得も言われぬ独特の香りが漂うだろう。


 その匂いを嗅いだミーナが気づく。


「これ、ナンヨウボウケンソウという薬草だと思います。数百年前の冒険者や旅人たちがこぞって重宝したと言われる逸品です」

「そんな大層な品を貰っちゃっていいものだろうか……」

「それとは別に、冒険者に対する贈与問題もありますね。冒険者は武力省の特殊官僚なので、贈与一つで賄賂扱いになることもしばしばあります。今回は感謝の意を込めた物品の受け渡しなので、賄賂になることはないでしょう」


 そのようにミーナが解説する。


(本当になんでこんなに近代的な国家体制しているんだこの国は……)


 そして草薙の懐疑的な考えが加速していくのだった。


 夕方過ぎにエルケスに戻ることが出来た。まずは冒険者ギルドに向かい、クエスト達成の報告をする。


「クエストの達成を確認しました。こちらが報酬になります」


 受付嬢はカウンターの下から金貨を数枚取り出す。これで四百セイル。しばらく食いっぱぐれになることはない。


「あぁ、あと一つ報告があります」

「何でしょう?」

「今回のクエストの討伐対象が、怪物と化していたんです」

「怪物……? 少々お待ちください」


 その言葉を聞いた受付嬢は、カウンター裏の部屋に消える。すぐにギルド長がやってくる。


「やぁ、タケル。例の怪物化を確認したようだな」

「はい。サンプルもここにあります」


 そういって怪物化したマニモストアの一部を提出する。


「これは……、デカいな……」


 口のような葉を見て、そのように呟く。


「これがヒト型のようになって動いていたと?」

「その通りです」

「やはり、何か異変が起こりつつあるのか……」

「起こりつつある?」


 草薙はギルド長に尋ねる。


「あぁ。この怪物化の現象が始まったのは今から二十年ほど前からだ。最初は小さな変化だったが、次第に大型化と狂暴化を繰り返していった。そして四年前に大規模なスタンピードが発生した。エルケスに匹敵する街が地図から消滅したのだ。それ以来、ギルド本部や国の機関が調査をしているが、最近はどうも先行きが怪しくてな……」


 そんな身の上話が出てきてしまい、草薙は困惑する。


「さて、怪物化の話だな。結局、これの原因が何なのかというのは分かっていない。未知の魔法現象によるものなのか、進化が加速した結果なのか……。それすらも考えあぐねている状態なのだよ」

「そうなんですか……」

「それでなんだが、このサンプルをギルド本部に送ってもいいか?」

「えぇ、問題ないです。これを屋敷に持ち帰っても、持て余すだけですし」


 ギルド長がそのようなことを尋ねてきたので、草薙は了承する。


 とにもかくにも、草薙の初めてのクエストは無事達成で終了した。

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