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第33話 事情を話した

 馬車に乗って戻ってきたマシューと一緒に、草薙たちはエルケスの街へと向かっていた。


 その道中、草薙はステータスを確認する。


『身体強化レベル十一

 短地レベル七

 自己防御レベル十

 放出魔法レベル七』


(放出魔法スキルがめっちゃレベルアップしてる……。あの必殺技を使ったからか? それとは別に、短地も自己防御もそれなりにレベルアップしてるな……)


 先の暗殺者との戦いは、草薙のスキルにとって有益なものだったらしい。


(結果的に戦いやすくなってればいいや)


 草薙はステータス画面を閉じ、そんなことを思うのだった。


 やがて馬車は、太陽が地平線の向こうに沈むと同時にエルケスの街に到着した。一行はそのまま冒険者ギルドへと直行する。


「よくぞ無事に戻ってきた。怪物化の件、ご苦労だった」


 ギルド長が出迎えてくれる。


「情報もだいぶ集まったようだな」

「はい。しかし、分かったことは氷山の一角でしかありませんわ。他の地域や他国からの情報も合わせないと、分からないことばかりで駄目ですわ」

「そうだな。他国からの情報はギルド総長より預かっている。これを使ってほしい」


 そういって複数枚の紙の束を、受付嬢がナターシャに渡す。


「ありがとうございます。早速整理します」

(ここだっ)


 会話が途切れた瞬間を狙って、草薙が口を開く。


「あのっ、話しておきたいことがあるんですけど……」

「なんだい? 話しておきたいことって」


 ミゲルが草薙に尋ねる。


「今日襲ってきた暗殺者を倒した時から考えていたんです。もしかしたら、自分って皆さんにとって厄介な存在なんじゃないかとか、迷惑をかけているんじゃないかって。自分が皆さんと行動を共にしている間は、常に暗殺者の脅威に曝されているじゃないですか」


 その場にいる全員が、草薙の主張を聞く。


「それならいっそのこと、パーティも解散して自分一人で行動したほうがいいんじゃないかと思うんです。その方が皆さんは安全ですし、自分も気兼ねなく戦うことができます。……どうでしょう?」


 草薙は同意を得るような言葉で尋ねる。


 最初に言葉を返したのはギルド長だった。


「それは十分に検討を重ねた上、ここにいる誰かに相談して決めたことなのかね?」

「いえ……。でも決断は早いほうがいいと思って……」

「確かに決断は早いほうがいい。しかし、短時間かつ自分一人のみで検討した考えは、考えとは言わない。もちろん、自分一人で決めることは多い。だが、それは個人で完結する話の場合であって、他人と共に動く場合はそれに限らない。他者と協議し、考えをすり合わせ、最適な提案を採用する。それをしてから提案してほしかったぞ」

「す、すみません」


 ギルド長からの思わぬ説教に、草薙はビビる。そこにミゲルも加わってきた。


「ギルド長の言う通りだ。少なくとも僕は迷惑だとは思っていない。そういうことならどんどん相談してほしいし、僕たちもなるべく解決策を提案するよ」

「ミゲルさん……」


 ミーナも口を開く。


「そうですよ。私たち、せっかくパーティになったんですから。こういう危険な場面なんて今までもいっぱいあったんですよ」

「ミーナさん……」


 さらにジークとアリシアまで出てきた。


「タケルってまだC級冒険者なんだろ? 俺たちはA級だから、タケルのことを守るのは当然のことだよ」

「そうなのです。タケルだけでいるより、皆でいたほうが安全なのです」

「ジークさん……、アリシアさん……」


 そして最後にナターシャが出てくる。


「タケルはタケル一人で生きているわけじゃないわ。皆一緒になって生きてるの。一人で生きていくなんて寂しいこと言わないで」

「ナターシャ……」


 こうも説得されると、自身の考えを改めざるを得ない。


「ごめんなさい、独りよがりなことを話してしまいました。今後も皆さんと一緒にいてもいいですか?」

「「「もちろん!」」」


 皆の発言が揃う。


「しかしそうなると、今までの状態だと何かと面倒なことになる。場合によっては、冒険者同士で談合を働いたとして処罰の対象になる恐れがある」

(だから相当近代的な制度しているのなんなんだ……)


 相変わらずの制度に、草薙は首をかしげてしまう。


「それならやることは一つだろう」

「そうですね」

「アレしかないな」

「アレ?」


 ジークの同意に、草薙は疑問に思う。


「決まっているだろう。合併だ」


 ギルド長が決め顔で言う。


「合併って、もしかしてパーティ同士をくっつけるってことですか?」

「その通りだ。たまにあるんだが、スポンサーの打ち切りによってパーティの存続が危うくなった場合などに認められる。今回は特定人物が危険に曝されることによる合併だな」

「でもこの場合、『金剛石の剣』側のスポンサーが離れたわけじゃないですよね? どうするんですか?」

「いや、今は僕らにスポンサーはいないよ。A級パーティになった時に自立したからね」


 さわやかにミゲルが答える。それはすなわち、今は自分たちの収入でなんとかしているということである。


(それはそれで憧れるなぁ……)


 そのように思う草薙であった。


「しかし、そっちは大丈夫なのかい? カルナス子爵の出資が負担になると思うのだが?」

「あっ……」


 草薙は忘れていたという表情をする。


「別にいいぞ?」

「え?」


 アーノルドにお伺いを立てたところ、あっさりと承認してくれた。


「ん? 何か不満でもあるのか?」

「い、いえ! 何もありません……」


 こうして草薙たちはパーティを再編。新パーティ『ヘイムダルの剣』として再出発するのだった。

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