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第66話 終わった

 その後、大陸軍の応援が駆け付け、魔王城の内部を捜索した。だが魔王の姿は見当たらず、その反応らしきものもなかった。


 これに関して「ヘイムダルの剣」が、魔王は草薙によって打ち倒されたことを証言したため、魔王は討伐されたということになった。


「魔王の討伐、ご苦労だった」


 魔王討伐から一週間後。王宮の謁見の間にて、国王と謁見する草薙たち。


「もったいないお言葉です。これをやり遂げたのはタケル一人であり、我々では太刀打ちできなかったのは事実です」

「うむ。改めてタケルよ、魔王の討伐、大義であった」

「お褒めに預かり光栄です」


 草薙は深々と頭を下げる。


「ついては何か褒美をやろうと考えている。何がいいか申してみよ」


 国王からそのようなことを言われ、草薙は少し焦る。


「自分は言われたことをやったまでです。褒美を頂戴するほどのことはしていません」

「いいや、それだけのことをやってくれた。それに、褒美の一つでも与えないと国民に示しがつかないと言うものだ」

「そ、そうですか……。しかし、富も、名声もそれなりにあると自負しています。これ以上のものを求めるとなると……」


 草薙は語尾を濁しつつ話す。実際、ギルドの口座に入っている金額はそれなりにあり、名声もそこそこある。他に欲しいものがあるとすると、一体何になるだろうか。


「うむ……。ならば我が娘のクリスタシアはどうだろうか?」

「えっ?」

「クリスタシアを嫁に迎えるということだ。それなら富と名声とはまた別の褒美となるだろう」

「いっ、いや! それは王女殿下がどのように言うか……」


 草薙は思わず拒否しようとする。しかし、ある人物がタケルの言葉を遮る。国王の後ろから途中で入ってきた王女自身だ。


「私はそれでも構いませんわ」

「王女殿下……! それはつまり、王家から離れて一般の民衆に加わるように言われているのと同じです!」

「えぇ、構いません。私、一度自由の身になってみたかったのですわ」


 王女はそのように言う。その様子を見た草薙は、説得は無理であることを悟る。


「いいじゃないか! 王族を家族に迎えることなんて珍しい以上のことだぞ」

「実際タケルはそれだけのことをしたのだからな」


 それに賛同するミゲルやジーク。


(あー、ナターシャになんて言えば……)


 何故かナターシャのことが脳裏に浮かぶ草薙。どうしてそんなことを思ったのか分からず、草薙は混乱する。


 しかしそんな草薙のことなどお構いなしに、王女は草薙のところまで来て、腕を組む。


「うふふ! これで自由の身ですわ!」

「ちょ、待ってください国王陛下! 跡継ぎのことは考えないのですか!?」

「それなのだが、我が妻が王宮を離れていたのは身ごもった子を出産するためでな。立派な男児を産んだのだ。だから心配はいらんぞ」


 それを聞いて、草薙は思わず眩暈がする。


 こうして草薙は嫁カッコカリと共に王宮を出た。


「良かったな、タケル。これで一生困らないぞー?」

「すでに困っているんですよ、こっちは」

「私はいらないと言うのですか……?」


 そういって王女はヨヨヨ、と泣き出してしまう。


「いやいやいや! いらないとは言ってませんけど……」


 語尾が怪しくなる草薙。


 するとタイミングが悪いことに、そこへナターシャがやってきた。


「タケルー! 陛下との謁見はどう……」


 ナターシャは草薙の横にいる王女を見て固まってしまう。


「タケル……? なんで王女殿下がいるの……?」


 ナターシャの目は笑っていなかった。


「あー……、まぁ色々あって……」

「タケル様のお嫁さんになりましたわ!」


 王女殿下からの爆弾発言に、ナターシャは涙目になってしまう。


「~っ! タケルの馬鹿!」

「ちょ、釈明をさせてくれぇ!」


 そんなこんなで、魔王は討伐され、草薙たちは無事大役を果たした。


 そして草薙たちはエルケスの街へと戻り、そこで冒険者として活躍する。


 それから一年後。草薙は王国と連邦の国境沿いにいた。


「タケル殿。今回の戦争に参加していただき、感謝します」


 大陸軍第八師団の師団長に礼を言われる草薙。


「今回は融通政策で来ましたが、全力で戦いたいと思います。それが国家に報いる方法の一つですから」

「心強いです」


 その時、斥候が戻ってきて、状況を報告する。


「現在、連邦軍がシンジア渓谷を横断中。まもなく我々と接敵します」

「よし、分かった。魔法兵準備を開始せよ!」


 そのように合図を送る師団長。草薙も準備を整える。


「俺を殺してみろ……!」


 草薙の冒険は続く。

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