神々と人間が共に歩んでいた古の時代。
だが、人々は信仰を捨て、神の存在を疑い始めた——。
それが、すべての始まりだった。
人間界と神界の絆は、やがて完全に断たれ、
時を経て、神界そのものが混乱と戦乱に包まれる。
その混乱は人間界にも波及し、
神々と人の血が交わることで、
新たな存在――神子しんしや半神が生まれ始めた。
——これは、そのすべてから遠く離れた一人の少年。
エデン・ヨミの物語である。
ジリリリリリリリッ!!)
アラームのけたたましい音が、静寂を破った。
エデン「……ん、うるさ……もう起きる時間か……?」
寝ぼけまなこを擦りながら、エデンは布団から体を起こした。
制服を手に取り、鏡の前で髪を整える。
窓の外はまだ夜の名残を残していた。
エデン(心の声)「はぁ……また退屈な一日の始まりか……。
授業、勉強、宿題、何も面白いことなんて起きやしない……。」
???「エデン〜、朝ごはんできてるぞ〜!」
エデン「はーい……今行くよー……」
階下から響くのは、どこか陽気な老人の声。
エデンは眠気まなこをこすりながら、ゆっくりとキッチンへ向かった。
テーブルに着いた瞬間——
エデン「……ん? なにこれ?」
目の前には、ホールサイズのケーキが鎮座していた。
デコレーションも完璧。こんな朝食、見たことがない。
ゲン「ほら、今日はお前の誕生日だろ?」
エデン「あ……そうか……最近忙しくて、すっかり忘れてた……」
ゲン「だから今くらい、ちゃんと祝っとけ」
エデン「いや、でも準備とかしてたらまた遅刻するかも……!」
ゲン「ふふっ、心配いらんよ。時間はたっぷりあるさ」
エデン「いやいや、今何時だと思ってんの……って、え?」
壁の時計に目をやると、短針は「5」の上に。
午前五時。
エデン「……ちょっと!?なんで目覚まし鳴ったの!?7時半のはずでしょ!?」
ゲン「あ〜……それな、ちょっと時間いじっておいた」
エデン「このクソジジイ……またかよ!!」
ゲン「感謝しろ、普段お前遅刻ばっかりだしな。
今回は優しめだぞ。十歳の誕生日、覚えてるか?」
エデン「……あの時、なぜか動物園で目覚めたやつ?」
ゲン「そうそう! あれは面白かった〜。
ライオンと仲良くなれたか?」
エデン「冗談じゃない!!
空腹のライオン家族の真ん中で起きたんだぞ!?
今でもトラウマだよ……!」
ゲン「蛇の檻の方にしようと思ったけど、鍵閉まってたんだよなぁ〜」
エデン「どこがマシなんだよそれ!
そんなサバイバル訓練、誰が誕生日プレゼントで喜ぶか!!」
ゲン「他の孫が弱いだけさ。
お前は違う。お前には特別な何かがある……」
エデン「……それ、褒めてるつもり?むしろ不安しかないんだけど」
ゲン「とにかく、今日は特別な日だ。
さあ、じいちゃんからの『初めてまともな誕生日プレゼント』、ちゃんと食え」
(チャイムが鳴る——キーンコーンカーンコーン)
エデン「うわっ、また遅刻だっ!」
バタバタバタッ(足音)
制服の裾を整える暇もなく、エデンは全力で走り出した。
風を切りながら、角を曲がるたびに誰かとぶつかりそうになる。
エデン「間に合えーっ!」
(校門を駆け抜ける)
レオ先生「ヨミ君、もう——」
ヒュンッ(紙が宙を舞う)
エデン「すみませーん!手紙読んでおいてくださいー!」
レオ「……またか……学ばない奴だな……」
(ガラッ)
エデン「失礼しますっ!遅れてすみません!」
ミヤ「誰に謝ってんの?先生まだ来てないぞ」
エデン「……まじで?ラッキー……」
ミヤ「最近ギリギリばっかだな、お前」
エデン「うん……最近さ、変な夢ばっか見るんだよ。
なんか、でっかい存在?天使みたいだったり、人じゃなかったり……
どんどんリアルになってきててさ。でも、今朝は見なかった」
ミヤ「アニメの見過ぎだろ、それ」
エデン「かもな……」
(ガラッ)
メイ先生「すみません、ちょっと遅れました」
全員「おはようございます、先生」
メイ「おはよう。ヨミ君、レオ先生からこれを預かってます」
(紙を手渡す)
ミヤ「なになに?ラブレターか?」
エデン「バカかお前……!」
ミヤ「はいはい〜」
メイ「はい、全員ノートを出して。授業始めますよ」
全員「はーい」
——数時間後
(カンカンカンカン)
エデン「ふぅ〜、ようやく終わった……」
ミヤ「今日は特に長く感じたなー、時間止まってたんじゃね?」
エデン「同感……」(グ〜〜〜)←お腹の音
ミヤ「昼、行く?」
エデン「でも、金持ってきてないんだよな」
ミヤ「任せろ、今日は俺のおごりだ」
エデン「マジ?優しいな〜」
ミヤ「でも、次はお前な?ちょっとだけ利息付きで♥」
エデン「うわ、最悪〜」
メイ「ヨミ君」
エデン「はい?」
メイ「今日はヨミ君とチバ君の掃除当番ですよ」
エデン「あっ……先生、今はちょっと……今日、部活の試合が……」
メイ「申し訳ないけど、交代はできません」
ミヤ「先生、代わりに俺がやります」
エデン「えっ?ミヤ?でも一緒に——」
ミヤ「今日、試合だったろ?忘れてたのか?」
エデン「……あっ、そうだ!やっべえ!」
ミヤ「誕生日プレゼントってことで、行ってこいよ」
エデン「ミヤ……ありがとな。ハヤトには謝っておいてくれ!」
ミヤ「任せろ!」
(ダッダッダッ)
(グラウンドの近く。タッタッタッ……!)
エデン(心の声)「なんで俺って、いつも遅刻してるんだ……っ!」
(角を曲がる——ガンッ!)
エデン「うわっ、ごめんなさ——」
???「ああ、大丈夫だよ、坊や」
エデン「すみません、本当にすみません!」
???「気にするな、また会おう」
エデン「え? また……?」
(エデン、グラウンドに到着)
アキノ監督「遅いぞ、エデン!」
エデン「すみません!監督アキノ……すっかり忘れてました!」
アキノ「……おい、レオ先生から手紙もらってなかったか?」
エデン「えっと……それも読んでないです……へへっ」
アキノ「バカかお前は……。でも、フィールドに立つと別人になるんだよな」
(ギュウウウウン——!)
突然、地面が揺れた。
ドンッ!!!
(眩しい閃光。次の瞬間——)
エデン「っ、何だ……?目が……見え……」
(煙と火の中、校舎が崩れ落ちていく)
???「ほう……まだ生きてるのか。やるじゃないか」
(倒れているアキノ監督)
アキノ「……エデン、にげ……ろ……」
エデン「せ、先生!?……っ」
バシュッ!!
???「あー、うるさいヤツだ。ヒントなんて与えるなって」
エデン「っっ……誰だ、お前……何が目的だッ!!」
???「はは、落ち着けって坊や。そんなに怒鳴ったら……」
(グサッ)
???「喉を裂いて、内臓を引きずり出したくなるだろう?」
エデン「……ッ!」
(ズッ……!)
???「おいおい、やめとけよ、リュウ」
(静かに現れる青年)
エデン「さっきの人……!」
???「うん、会ったね。改めてよろしく。俺はカイ、こいつはリュウ」
カイ「お前が今後どうなるかは……まあ、そのうちわかるさ」
エデン「……どうしてこんなことを……!」
リュウ「俺のせいだ。ちょっと試したかったんだよ……やりすぎたかもな」
エデン「試した……?人を殺してまで……?」
カイ「はっきり言うぞ、エデン。俺たちには、お前の大切な人間なんて……どうでもいいんだ」
(ゴゴゴゴゴ……)
エデン(心の声)「冷たい……この男の目、まるで命なんて無価値だって言ってる……!」
カイ「じゃ、そろそろ——」
エデン「ふざけるなァッ!!」
(ドシュッ!!)
エデンの周囲から、真っ黒なオーラが噴き出す。
リュウ「お……これは……」
(ヒュン!)
リュウの腕に、何かが突き刺さる——剣だ!
リュウ「がッ……!?な、何が——」
???「エデンーーーッ!!!」
カイ「……ほう、これは……?」
(風を切って、老人が現れる)
エデン「おじいちゃん!?な、なんでここに……逃げて、こいつらは普通じゃない!」
ゲン「ははっ、ワシを誰だと思ってるんだ?」
エデン「な、でも……後ろッ!!」
(ザッ)
リュウ「死ねッ!!」
ゲン「……ぬるい」
(スパッ!)
リュウの腕が宙を舞う。断末魔の悲鳴。
カイ(心の声)「すげぇな……。あの速度、正確さ。こいつ……本物の殺し屋だ」
ゲン(心の声)「この男……やばい、殺気がまるで獣だ。油断すれば即死だぞ」
(カイの手が、ゲンの右手をつかむ)
カイ「アンタすごいよ、ジジイ……今までの奴とは格が違う。でも——」
リュウ「カイ……何を……」
カイ「お前の獲物、もらうぜ」
(ズオオオ……)
黒い霧のような闇がカイから広がっていく。
エデン(心の声)「なんだ……この圧……身体が、動かない……」
「俺は……何もできないのか……目の前で、大切な人が殺されるのを……見るだけなのか……?」
「ダメだ……絶対に、守るんだ……!!」
(ドォン!!!)
黒いオーラが爆発的に広がる!
リュウ「ヤバい……カイ、逃げろ!!」
カイ「っ……!」
ゲン「エデンーーーッ!!」
(空間が揺れ、光と闇が交差する)
ズドォォォォォォン!!!
謎の声「……神の加護……」
——暗転——
(……静寂)
(パチッ)
エデン「……ん……?」
(目を開けると、天井が見える。だが、それは見慣れたものではなかった)
エデン「ここは……?」
???「やっと目覚めたか」
(スッ、と椅子に腰かけた男がこちらを見る)
エデン「お前……誰だ!?どこだよ、ここは!」
???「質問が多いな。まずは、助けてくれた俺に礼くらい言ってほしいもんだ」
エデン「礼?ふざけるな!俺のじいちゃんはどこだ!?」
(グッ、と男の襟を掴む)
???「……やれやれ。これだから子供は嫌なんだ」
(バシッ!)
(エデンの顔が床に叩きつけられる)
???「落ち着け。今のお前じゃ、何も守れない」
エデン「くっ……!」
???「名前は、シュン。お前を救った張本人だ」
シュン「その代わり、条件がある」
エデン「条件……?」
シュン「あの怪物たちに復讐したいなら——俺と来い。そして、『GODSゴッズ』の試験を受けろ」
エデン「試験……?勉強とか、そういうのは無理だ」
シュン「心配するな。普通の学校じゃない。そこは……神になるための学校だ」
(ビュウゥゥゥ……風が窓から吹き込む)
エデン「神……?まさか、嘘だろ?」
シュン「お前が見たあの化け物……あれが嘘だったか?」
(……沈黙)
エデン「……いいだろ。俺は行く。強くなって、アイツらをぶっ潰す」
(ギュッ)
(シュンが手を差し出す)
シュン「それでこそ、だ」
エデン「エデン・ヨミだ。よろしくな、シュン」
(パアアァァァ……)
(2人の後ろで、光と闇のようなオーラが交錯する)
——物語は、ここから動き出す。