時は遡ること、ダンジョンが出来る直前。
聖女ジュリエッタは、護衛メイドのエリスと共に日本の高田馬場に転移を果たした。
言語は、しっかりドレスデン王国で翻訳スキルを二人とも身につけている。
手にしたのは、無限に入るマジックバッグただ一つ。そこにはエリスの武器である戦斧なども入っていた。
「宝石の換金が出来て安心しました。こちらのお金がないと買い物が出来ませんですからね」
「そうね、大分買い叩かれた気はするけど――仕方ないわ。本物の宝石には違いないのだし」
ジュリエッタの目的は、転生した第一王子と親衛隊長にある。
元が庶民であるジュリエッタは、聖なる力の持ち主と分かって王族のような扱いにされた。だが貴族マナーなどより、国に迫る瘴気の穢れを払うことを一番に活動し、二人が投獄された時も国境にいてその事を知らなかった。
仕事を終えて、首都に引き返すとそこには処刑された二人の亡骸がジュリエッタを迎えたのだ。
ジュリエッタは、泣いて絶望した。――何故こんなことをしたのか。
国王を問い詰めるとその体から呪いの残滓が残っている。
処刑に関わった貴族や役人、もれなく全員から呪いは植え付けられていて、ジュリエッタが解除すると誰もが嘆いた。
――どうして、こんな事になったのかと。
国の民だけでは無い。密かにジュリエッタは彼を慕っていた。
親友である賢者セリオン・ドラグノフによると、二人の魂はもう別の世界に転生が始まっているという。
急いでジュリエッタは国中の呪いを払いながら、瘴気を消して行った。
追いかけたとしても、今の彼はジュリエッタの事などきっと覚えていない。
そうと分かっていても、恋しくて恋しくて仕方なかった。
相談に乗ってくれた賢者セリオンは、呪いの残穢を追えばどこに行ったか突き止めて、ジュリエッタをそこに送ることは可能だと言った。
加えてそこに、次代の聖女の力を持つ赤子が生まれてきたのだ。
大方の瘴気はジュリエッタが祓った。その子が育つ間、国に瘴気は訪れない。
「許してくれとは言わない――ただ、すまなかったと伝えてくれないか」
ジュリエッタが、彼を追うと伝えると国王は責めなかった。ただ、愛する息子を狂気のまま殺してしまった事に、
「ええ、きっと――きっと伝えます」
許してくれるかどうかは、ジュリエッタにはわからない。けれど、脳内には苦笑いする第一王子の顔が浮かぶ。
国からは沢山の宝石、いくつかの武器、一番レベルの高いマジックバッグなどを渡された。
そんなジュリエッタに付いていくと言い張ったのが、護衛メイドのエリスだった。元々瘴気を祓う際も、ジュリエッタに同行しており信頼は厚い。
エリスは元々女騎士だったのが、殺気の気取りの早さと男爵家の令嬢としてマナーの高さで護衛とメイドを担っていた。
ジュリエッタ付きになった際に、騎士から降格のようなことをさせたのを気にしていた。しかしエリスとしてはなまじ男より強い騎士として仲間から浮いていたのだとこぼし、ジュリエッタについていけるなら身分はなんでもいいのだと言う。
そうして、セリオンの賢者の力に助けられて一年。日本の世界の勉強や偽造の身分証、魔法世界ディステリアと繋がるイヤリングなどを用意して、準備万端で転移した。
「市役所に寄って良かったですね、D端末とかいうすまーとふぉんが貰えました」
「そうね。セリオンの説明だとお店で買わないといけない気がしたのだけど、国の施設なら間違いないわよね」
ジュリエッタはここでは
貰ったDマークのスマホは、市の職員がD端末と呼んでいた。
「ただ――気になるわ。市役所の方々、洗脳型の呪いにかかっていたの」
「こちらの世界に呪いはないはずでは?!」
呪いの力に気づけるのは、ジュリエッタの聖女としての力だ。
エリスは、D端末を手から取り落とす。
アスファルトにD端末は放り出されて、重い音を立てた。
「ジュリエッタ様、わたしも呪われましたか?!」
「いいえ、
「声や文字を送り合うのですから、魔道具でしょう?」
「しっかりして、エリス。こちらの世界では確かええと、電気を使うのよ、科学の力が魔法の代わりをしていたはず」
ジュリエッタは、一見ポシェットにしか見えないマジックバッグから、セリオン手作りの教科書を取り出そうとする。
エリスは、怖々とD端末を拾いあげたがどこにもヒビはなかった。
次の瞬間、
大気に痛いほどの魔力を浴びて、ジュリエッタがふらつく。
すぐさま、エリスがジュリエッタを庇うように立ったが、その衝撃に立て膝をついた。
一秒前には存在しなかった魔素の存在が、広がりうねる。
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――@管理人
ダンジョンが誕生しました。
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