暗闇の中に雷鳴が轟く。
一瞬の稲光が魔王タエロンの獰猛な顔を映し出した。巨大な黄色い眼球。飴色に鈍く光る。
後頭部まで繋がっているかと思わせる大きな口。その口からオオカミの爪のような鋭い牙がはみ出ている。真っ赤なナマコのような舌ベロが公園のブランコのようにゆらゆらと揺れていた。
「死んでもらおうか」
顔半面を栗色ヒゲで覆われたギリス。魔法剣を上段に構えた。袖がめくれる。たくましい筋肉のかたまりが現われる。涼しげな瞳。タエロンを睨みつけた。
ギリスの足もとには、さきほど倒したマッチョな鬼のオーガが倒れている。そのうしろに巨人ゴーレムが哀れにも石ころのようにゴロゴロと転がっていた。
その中には首のない騎士が倒れている。もっともそれはギリスが首をはねたわけでもなんでもない。デュラハンは最初から首が無いモンスターなのだ。
「バカめ!人間族のお前にこのオレが倒せるとでも思っているのか?」
身長三メートルはあるであろう巨体が揺れ動く。濃紺のローブから両肩に拡がるコウモリのような大羽根がハリケーンの波間で揺れ動く小船のように上下に波を打っている。
「それに
「ふん。指令書によるとお前の攻撃レベルは五十そこそこじゃないか。ちなみにわたしは八十を超えている」ギリスのブーツが地面を踏みしめて一歩進む。仄暗い闇の中で砂利の音が
暗闇の中で魔王がカッと眼を見開くのがわかった。
「レベル八十だと・・・・・・魔法剣士のお前がか?」
「そうだ」
「それはすばらしい。たいしたもんだ」
タエロンがケッケッケとオモチャの
「何がおかしい?」
「教えてやろう。お前のところのギルド・・・・・・『ニーサン』と言ったかな」タエロンは笑いをこらえきれず、すでに涙目になっている。「いい加減なやつらだ。ギルド員たちの情報が間違っているんだよ」
「なんだって!?」
「つまり・・・・・・」魔王タエロンが空中高く舞い上がった。濃紺の翼が真夏の入道雲のように空一面を覆い尽くした。「おれの攻撃レベルは百五十だってことさ!」
「!!」
漆黒の中でビキィィン!と魔法剣の折れる音が響き渡った。