神藤と富士見が合流したのを確認した上島は、デイダラの意識を神藤たちからそらすために牽制攻撃を行う。
しかしそれだけではデイダラの意識は外れない。
神藤は矢を召喚し、弓を引く。
「ふぅー……」
息を吐き、丁寧に狙いを定める。今度の狙いはデイダラの右手だ。
(この一撃で右手を完全に排除する……!)
ギリギリと張り詰めた弦を全力で引き、そして離した。
矢はソニックブームを発しながら、デイダラの右手に向かって飛翔する。右手の手首に命中すると、その勢いとすでに攻撃していたこともあって命中した辺りがはじけ飛ぶ。そのまま右手は落下し、消失した。
『ウォォォ!』
痛みを感じているのか、腹に響く咆哮を上げるデイダラ。
しかしこれによって、デイダラは右手、胴体の一部、左足、顔面の一部を喪失した。もう満足に体を動かすことも困難だろう。
「神藤君、援護お願い!」
そういって富士見は再びデイダラの体を封印するために走る。その言葉に従い、神藤は矢を放ってヘイトを集める。
その様子を見て、上島も富士見のことを援護するために攻撃を行う。
富士見は残っている右足の先に向かって走る。
「せいっ!」
富士見は拳を思いっきり振るい、霊魂の内部に拳を無理やりぶち込む。
その状態で富士見は封印を行う。
「
先ほど使った封印術式よりもかなり広範囲に半透明の球体が広がり、バチバチッと電撃が走る。
そしてデイダラの右足の先端が覆われるほど大きくなり、次の瞬間には球体とその中にあった右足が消滅する。
『ヴォォォ!』
デイダラは酷く鈍い声を上げ、残っている右足で地団駄を踏む。それに踏みつぶされないように、富士見はさっさと後退する。
その右足に対して、神藤と上島が攻撃を加える。上島の強力な攻撃で霊魂の一部を切り離す直前まで損耗させ、最終的に神藤が霊魂の一部を切り離しつつ浄化させていく。
これにより右足は膝までなくなった。すでに立つことすら困難なデイダラは、崩れるように体を横たわらせる。
「今だ! 全力で攻撃!」
富士見の指示により、神藤と上島もデイダラに向かって走る。この間に神藤は弓から直刀に持ち替え、攻撃をさせていく。
富士見は一部封印した胴体を再び封印させていき、上島は未だ残っている左手を無力化するために攻撃。神藤は足の先端から順番に切り刻むと同時に浄化させていった。
「オォォォ……!」
デイダラは次第に衰弱しているようで、咆哮にも覇気を感じられなくなっていた。
それでも、体を無理やり捩れば地面が揺れる程度は余力が残っている。
「ハァ! ハァ! ハァ!」
富士見は胴体を横で真っ二つにするために、霊魂をどんどん封印させていく。体力的にも相当疲れる行為で、額や背中には大量の汗が滲んでいる。
それでもデイダラの排除を最優先としているため、とにかくどんどん巨体を封印させていく。
それを援護するように、神藤と上島も無力化を進めていく。
やがて左手が消滅し、左足も太ももの大部分が浄化された。それとほぼ同時に、富士見は胴体を封印を進めることで、鳩尾辺りで上下を分断することに成功する。
「神藤君!」
「了解です!」
神藤は直刀を下半身の霊魂に突き刺し、祝詞を上げる。
「この
すると、分断された下半身が白く輝き、そのまま煙になって消えていった。大部分の霊魂を浄化させたことにより、神藤は反動でしばらく動けなくなる。
だがその時には、デイダラはすでに動かなくなっていた。頭はぐったりと地面に落ち、腕もピクピクと動いているだけで反応はない。
「よし……。ここまで来たら、あとは上島君がなんとかしてくれるよね?」
「はい。問題ありません」
そういって上島は十字架を掲げる。
「アリントへの第二の手紙14章51節から53節」
『神は我々に勝利を賜った。この地こそ我々の聖地であり、我々が住むべき場所なのである。師のための千年王国はこの地に誕生したのだ』
十字架の上に二重のヘイローが出現し、そこから四方八方に光が放たれる。
それにより、デイダラの霊魂は徐々に消滅していく。
数分しない間にデイダラの霊魂は完全に消滅し、周辺は暴れた痕跡が残るのみであった。
「ふぅ……。今回も大変だったねぇ」
富士見が体を伸ばしながら言う。
「しかし、デイダラって結局なんだったのでしょう?」
「じゃあ、瘴気が残ってるかもしれないから、調べてみよう」
「承知しました」
上島がタブレットを取り出し、周辺に残っていたデイダラの瘴気を調べる。
色々なパラメータが変動し、最終的な結果が表示された。
「どうやら、人間の怨念と人間以外の霊魂が融合して出来上がった複合性異能体霊魂と推定されます」
「うーん、これも天皇陛下の空位による影響なのかもしれないね」
そのように推察する富士見。
「とにかく今後は、陰の世界の見回りを強化しないとね。こんな霊魂が複数体出てきた日には、それこそ陽の世界でも大規模な影響を残すかもしれないし」
「では、ワタシブネの千里眼にも連絡をしておきます」
「そうだね。よろしく」
こうして陰の世界での見回りは続く。