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第29話 巨体

 神藤の手から矢が放たれる。その速度は霊的な力によって音速に近かった。

 矢は小さく放物線を描いてデイダラの顔面に向かって飛ぶ。とは言ってもほぼ直線的に飛翔していた。

 デイダラは矢に対処出来なかったのか、そもそも矢の存在を確認出来なかったようで、無抵抗のまま矢の直撃を受けた。

 顔面が抉れ、矢はデイダラを構成する霊魂の奥深くまで突き刺さる。それによってデイダラは激しく全身を振るわせ、痛みを表現する。


『グォォォ!』


 腹に響く咆哮を上げ、顔面の奥から矢を取り出そうとする。だが、その抉れた部分に上島が光線を浴びせていく。


「いいねぇ、神藤君! まだまだ実力を隠してる感じだ!」


 富士見は式神を日本刀に変化させ、デイダラの足元に接近する。そのまま足に対して斬りつけを行う。

 しかしデイダラは巨大だ。足元を斬りつけただけではとてもじゃないが倒せる気がしない。


「これじゃあ駄目か……。ならこれはどうだ!」


 そういって富士見は日本刀を突き刺し、そのまま手を離す。

 そのまま手で印を3個ほど結び、日本刀にかざす。


「我が式神よ、自らの意思で敵を切り刻めっ」


 すると、突き刺した日本刀の式神がひとりでに、デイダラの体表を突き刺したまま斬っていく。

 左足の膝辺りまで登りあがると、そのまま膝の裏に回り、そしてまた切り刻みながら左足の踵に向かって体表を走る。

 踵に到着すると、日本刀は富士見の手元に戻ってくる。デイダラの左足は日本刀の式神によってグチャグチャにされ、体液にも似た霊魂の煙が噴きだす。


『ギャアアア!』


 左足のふくらはぎがズタズタにされたことで、デイダラは体のバランスを崩し、そのまま膝立ちのような状態になる。それに合わせて、上島は左足に向かって十字架を構える。


「サラキエル書第1章第16節から第18節」


 タブレットから音声が流れる。


『彼らには一つずつ輪があった。まるで橄欖かんらん石のように光り輝き、四方に向かってあらゆる叡智を照らしていた。それこそ神の一部であった』


 すると上島の持っている十字架の前面にヘイローが出現し、その中心が光った。短い光線がデイダラの左足に向かって真っすぐ飛び、命中する。

 その瞬間、デイダラの左膝の周辺━━左の太ももからふくらはぎまで━━が一瞬で消失した。誰も確認していないが、デイダラが持つ強力な霊的力場が減少したのだ。

 デイダラはバランスを崩し、左側から崩れ落ちる

 それをチャンスと捉えた神藤は、再び矢を弓につがえて引く。倒れゆくデイダラの右手に狙いを定め、放つ。


(この程度の距離なら当たる)


 その予想通り、矢はデイダラの右手に的中し、そのまま腕の内部まで侵入する。


『オォォ!』


 声にならないが、これまた腹に響く低重音が響き渡る。


「これなら封印出来るかも……!」


 そういって富士見はデイダラに突進する。式神を日本刀からグローブに変化させ、デイダラの体にぶつける。

 その瞬間、富士見は簡単な呪文を唱える。


徒羅三受援あだらみじゅえん!」


 その瞬間、式神からバチバチッと電撃が走り、デイダラの体の一部に球状の半透明な結界のようなものが出来る。

 それが富士見の身長程度まで広がると、その球状にデイダラの体が消滅した。これが富士見の封印術である。


「まずはこれだけ。次!」


 富士見が続けて、拳をデイダラの体にぶつける。連続してデイダラの体を封印させていく。


『ガァァァ!』


 しかしデイダラもただ待っているわけではない。体を仰向けにして、富士見のことを振り落とそうとする。さら左手と使うことも難しい右手も使って、富士見のことを体から振り落とそうとする。


「駄目だよー、封印中は注射と同じで大人しくしないといけないからねー」


 おじいちゃんの医者と同じように優しい口調であるが、やっていることは優しくない。

 しかしそれでも、デイダラは富士見を自身の体から引きはがすことに成功した。それにより富士見は複数ある墓石の一つの叩きつけられる。


「グフッ……。やっぱ一筋縄じゃ行かせてくれないよね……」


 富士見はヨロヨロと立ち上がり、デイダラを見る。


「富士見さん!」


 神藤が富士見に駆け寄る。


「大丈夫ですか!?」

「まぁね……。今はこれの排除が最優先だから」


 そういって富士見は再び攻撃の構えをする。神藤もそれに合わせて弓を構えた。

 デイダラは再び立ち上がろうとして、立ち膝状態になっている。

 戦いはまだ続く。

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