神藤の手から矢が放たれる。その速度は霊的な力によって音速に近かった。
矢は小さく放物線を描いてデイダラの顔面に向かって飛ぶ。とは言ってもほぼ直線的に飛翔していた。
デイダラは矢に対処出来なかったのか、そもそも矢の存在を確認出来なかったようで、無抵抗のまま矢の直撃を受けた。
顔面が抉れ、矢はデイダラを構成する霊魂の奥深くまで突き刺さる。それによってデイダラは激しく全身を振るわせ、痛みを表現する。
『グォォォ!』
腹に響く咆哮を上げ、顔面の奥から矢を取り出そうとする。だが、その抉れた部分に上島が光線を浴びせていく。
「いいねぇ、神藤君! まだまだ実力を隠してる感じだ!」
富士見は式神を日本刀に変化させ、デイダラの足元に接近する。そのまま足に対して斬りつけを行う。
しかしデイダラは巨大だ。足元を斬りつけただけではとてもじゃないが倒せる気がしない。
「これじゃあ駄目か……。ならこれはどうだ!」
そういって富士見は日本刀を突き刺し、そのまま手を離す。
そのまま手で印を3個ほど結び、日本刀にかざす。
「我が式神よ、自らの意思で敵を切り刻めっ」
すると、突き刺した日本刀の式神がひとりでに、デイダラの体表を突き刺したまま斬っていく。
左足の膝辺りまで登りあがると、そのまま膝の裏に回り、そしてまた切り刻みながら左足の踵に向かって体表を走る。
踵に到着すると、日本刀は富士見の手元に戻ってくる。デイダラの左足は日本刀の式神によってグチャグチャにされ、体液にも似た霊魂の煙が噴きだす。
『ギャアアア!』
左足のふくらはぎがズタズタにされたことで、デイダラは体のバランスを崩し、そのまま膝立ちのような状態になる。それに合わせて、上島は左足に向かって十字架を構える。
「サラキエル書第1章第16節から第18節」
タブレットから音声が流れる。
『彼らには一つずつ輪があった。まるで
すると上島の持っている十字架の前面にヘイローが出現し、その中心が光った。短い光線がデイダラの左足に向かって真っすぐ飛び、命中する。
その瞬間、デイダラの左膝の周辺━━左の太ももからふくらはぎまで━━が一瞬で消失した。誰も確認していないが、デイダラが持つ強力な霊的力場が減少したのだ。
デイダラはバランスを崩し、左側から崩れ落ちる
それをチャンスと捉えた神藤は、再び矢を弓につがえて引く。倒れゆくデイダラの右手に狙いを定め、放つ。
(この程度の距離なら当たる)
その予想通り、矢はデイダラの右手に的中し、そのまま腕の内部まで侵入する。
『オォォ!』
声にならないが、これまた腹に響く低重音が響き渡る。
「これなら封印出来るかも……!」
そういって富士見はデイダラに突進する。式神を日本刀からグローブに変化させ、デイダラの体にぶつける。
その瞬間、富士見は簡単な呪文を唱える。
「
その瞬間、式神からバチバチッと電撃が走り、デイダラの体の一部に球状の半透明な結界のようなものが出来る。
それが富士見の身長程度まで広がると、その球状にデイダラの体が消滅した。これが富士見の封印術である。
「まずはこれだけ。次!」
富士見が続けて、拳をデイダラの体にぶつける。連続してデイダラの体を封印させていく。
『ガァァァ!』
しかしデイダラもただ待っているわけではない。体を仰向けにして、富士見のことを振り落とそうとする。さら左手と使うことも難しい右手も使って、富士見のことを体から振り落とそうとする。
「駄目だよー、封印中は注射と同じで大人しくしないといけないからねー」
おじいちゃんの医者と同じように優しい口調であるが、やっていることは優しくない。
しかしそれでも、デイダラは富士見を自身の体から引きはがすことに成功した。それにより富士見は複数ある墓石の一つの叩きつけられる。
「グフッ……。やっぱ一筋縄じゃ行かせてくれないよね……」
富士見はヨロヨロと立ち上がり、デイダラを見る。
「富士見さん!」
神藤が富士見に駆け寄る。
「大丈夫ですか!?」
「まぁね……。今はこれの排除が最優先だから」
そういって富士見は再び攻撃の構えをする。神藤もそれに合わせて弓を構えた。
デイダラは再び立ち上がろうとして、立ち膝状態になっている。
戦いはまだ続く。