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第28話 巨人

 三者による共同戦線の協力関係を確認した後、神藤たち事務室のメンバーは陰の世界の見回りを行っていた。


「今日は池袋周辺の見回りをしていくね~」


 いつもののんびりとした調子で、富士見が言う。しかしどこか落ち着かない様子であることを神藤は感じていた。

 車は首都高速5号池袋線に沿って下道を北に走る。

 そして道中の守国寺しゅこくじの横を通過した時だった。道路の真ん中に霊魂がいたのである。その大きさは人間程度で、淡い橙色をしていた。

 上島はゆっくりとブレーキを踏み、停車させる。


「うん? こんな所にあまり見かけない色の霊魂がいるね」

「この霊魂は通常の霊魂より大きいです。もしかしたら危険な存在かもしれません」

「そうだねぇ。一応力場の変動を確認してみよう」

「はい」


 上島はシフトレバーをパーキングに入れ、サイドブレーキを踏む。その上でタブレットを取り出し、霊的力場の変動を確認する。


「現在、半径50メートル以内の霊的力場は全て正常値。変動値も許容範囲内です」

「にしては色々と思うところがあるけど……。まぁいいや。神藤君、アレ、浄化してきちゃって」

「あ、はい」


 神藤は車から降り、霊魂の近くに行く。霊魂を見れば見るほど、人のような存在に見間違えそうになる。


(この霊魂が人間と決まったわけじゃないだろ……。霊魂はもっと邪悪なものと無害なものに分けられるんだから)


 そんなことを思いながら、神藤は霊魂に向かって手をかざす。

 その時だった。


『貴様はそれでいいのか?』

「……え?」


 神藤の前方から声がする。神藤は辺りを見渡してみるが、声らしい声を発するものはない。


『我のことが見えないと言うのか?』


 再び聞こえる声。その時になって、神藤は声の主が目の前にいる橙色の霊魂であることに気が付く。


「え? 霊魂がしゃべって……」

『そういうこともある世界だ。それはもういい。大事なことだけ話す。よく聞け』


 霊魂は問答無用で神藤に告げる。


『これからが大変な時だ。貴様と敵対している組織が、とんでもないことをするのだからな』

「お前……何を言って……」


 すると橙色の霊魂は、まるで瞬間移動したかのように消える。

 次の瞬間、巨大な縦揺れが発生した。直後咆哮が聞こえる。


「な、なんだ!?」


 咆哮が聞こえた方を見ると、守国寺の敷地に超巨大な霊魂が立っていた。その大きさは近くにある小学校よりも巨大であった。


「神藤君! 急いで乗って!」


 富士見が助手席から顔を出して、神藤のことを呼ぶ。

 神藤は慌てて後部座席に乗り込む。車はそのまま急発進した。


「橙色の霊魂が消えてから、大きな力場の変動を確認したんだ。それがアレさ。アレもそうだけど、霊的力場の変動も見たことないほど大きかった。もしかしたら、前にも言った天皇空位時の霊魂頻出にも関係しているかも」

「それはいいんですけど、アレをどうするつもりですか!?」

「倒せるなら倒したいけど、どうしようもないんだよねぇ……。とにかくある程度開けている場所に出ないと」


 上島は近くにあった横道に入る。その先は霊園のようだ。


「この霊園だったら視界も確保出来るし、いい感じだね。とにかく迎え撃とう」

「戦うんですか!?」

「そうだね。最悪、僕がアレを封印することになるかもしれないけど……」


 そんなことを話しつつ、車は霊園の中にある道路を突き進む。霊園の真ん中辺りで車を停め、神藤たちは車を降りる。


「じゃあ手短に作戦を確認するね。上島君は牽制と本攻撃を、神藤君と僕がアレを分解。分解できたら神藤君が無力化して、僕が封印する。こんな所だね。あとアレの呼び名はデイダラってことにしよう」


 富士見がその話をしていると、超巨大な霊魂のデイダラが首都高を乗り越えてやってくる。


「ありゃりゃ。壊しながら来てるね。こりゃ陽の世界でも影響してくるなぁ」

「そんな呑気にしている場合ですか……」


 神藤はツッコむが、富士見はそれを無視した。


「それじゃあ散開。安全を優先してね」


 ここからは各人が判断して戦闘を優位に進めていかなければならない。とにかく、神藤はデイダラに見つからないように、墓の影に隠れる。

 デイダラは墓石を踏みつけながら、霊園の中をのっそのっそと歩く。人間がアリを探しているように、デイダラも神藤たちのことを探すために地面を見ている。

 するとそんなデイダラに向かって光線が飛ぶ。上島による攻撃だ。極太のレーザー光線を複数回照射している。

 その攻撃が通じたのか、デイダラは腕で防御する。

 その瞬間を狙って、富士見の攻撃が飛んでいく。


「俺も何かしらの攻撃をしなきゃ……」


 しかし相手は巨大で遠い。となれば、やることは一つ。

 神藤は精神を集中させ、祝詞を上げる。


「我が身をば、飛び出したる矢を放つ物、麻迦古と羽々矢を我が手の元に」


 すると神藤の手に光で出来た矢と和弓が出現する。それを手に取り、神藤は矢を弓につがえ、胸を張るようにして弓を引く。


(厳密には弓道の引き方じゃないけど……!)


 それでも、矢が飛べば後はどうにでもなる。

 神藤は弦から手を離した。

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