泙成31年4月23日。
神藤たち事務室のメンバーと警視庁公安第一課の予備班二人、そしてワタシブネの根本と柴崎が、合同庁舎4号館の共用会議室に集結していた。
「はぁ、ワタシブネですか……」
予備班の二人は、興味深そうにワタシブネの話を聞く。
「そんな組織がいるなんて、本当に知らなかった……」
「当然でしょう。我々の本部は陰と陽の世界の狭間に存在しています。事務室の方ならまだしも、異能を使用していない公安の方々には感知できないはずです」
「一応僕も異能は使えなくもないんだけどなぁ」
根本の解説に、原田がボソッと呟く。
その話を富士見が切り上げる。
「とりあえず、今度の話をいたしましょう」
そういって富士見はプロジェクターで資料を投影させる。それは、事務室を取り巻く環境であった。
「まず神智戦略対策事務室の出向先として公安予備班があり、この二つの敵対組織として神無月機関があります。そしてつい先日まで中立を宣言していたものの、状況が変化したため我々に味方することになったワタシブネ。現在はこの四つの組織が動いていることになります」
資料の次のページを開き、これまでの事件の時系列を列挙したページを表示させる。
「そして今月上旬から神無月機関による事件が連続で発生しています。まず我々が神無月機関が活動していることを確認したのが4月10日。それから最初の事件が発生したのが4月15日。それから16日、17日、18日と連続で発生しています。これはまだ始まりに過ぎず、同日18日に浅草で騒動を発生させました。この日の夜に事務室のメンバーは常駐するように指示されます。そして翌日19日、皇居の坂下門に神無月機関の職員が突入するテロが発生、このテロで宮内庁の職員が複数人被害を受けました。その事態を受けて、陰の世界にて都内の巡回を行いました。そしてワタシブネと遭遇したという次第です」
富士見が淡々と説明する。
「私たちも神無月機関による八幡神社の御祭神の略奪事件は把握していました。しかしそれを陽の世界に近いところで暴走させるとは思いませんでした。これは宗教上、とても許されるものではありません。神無月機関には我々の報復と共に、陽の世界でも法的に罰する必要があると考えます」
「しかし、何か法に触れるような活動をしているのでしょうか?」
柴崎の言葉に、原田が質問する。
「すでに皇居に突入した時点で公安認定のテロ組織なのでは? それを使えば、神無月機関に法的な罰則を与えることが出来るでしょう」
柴崎の思考に、原田は少し引いた。
「確かにそれでしょっぴくことは可能だと思います。実際、公安が動いていますし」
加藤が腕を組んでそのように答える。
「警視庁が全力で神無月機関のことを調べているのであれば、陽の世界では我々の出番はないでしょう。しかし、陰の世界では我々がなんとかするしかありません。なので引き続き協力体制を敷く必要があると思います」
「ですね。しかし、陰の世界で起きたことを陽の世界で感知するのは難しいでしょう?」
原田が富士見に聞く。
「それに関しては、ワタシブネの皆さんにお願いしたと考えています」
富士見は根本と柴崎の方を見る。
「おそらくですが、ワタシブネには陰と陽の世界を監視する仕組みが備わっているのでしょう? それを使用すれば、陰の世界でも神無月機関の動向を探ることが出来るはずです」
「さすが、事務室の室長を任されているだけの人物ですね」
そう根本が言う。
「富士見さんの言う通りです。ワタシブネには千里眼と呼ばれるシステムが備わっています。陰と陽の世界を見比べ、怪異や霊魂による被害を食い止めたりしています」
「ですが、千里眼のシステムは巨大なため、気軽に誰でも千里眼を使うことは出来ません。出来るとすれば、千里眼を監視している職員から通報を受けることくらいでしょう。これでも数分から一時間ものラグが発生していまい、即効性に欠けるところはありますが……」
根元の解説に、柴崎がデメリットを付け加える。
「いえ、それで問題はありません。我々に必要なのは、陰の世界における神無月機関の行動の把握が最優先事項ですから」
陰の世界では、目撃者も通報者もいない。そのため、陰の世界で何かしらの問題が発生してしまったら、今までなら初期対応が遅れることもある。
しかしワタシブネの千里眼を使えば、初動対応が早まる可能性がある。それはすなわち、陰と陽の世界を守ることに繋がるのだ。
富士見はそこまで考えていた。
「では、ワタシブネのお二人は千里眼の監視員に話を通してきてください。その間に、我々はメールアドレスの交換でもしておきましょう」
こうして、事務室、予備班、ワタシブネの三者による共同戦線が張られようとしていた。