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第32話 結界

 泙成31年4月27日。ワタシブネからの情報提供により、神藤たちは隅田川沿いにある浜町公園に来ていた。


「どうも皇居を目指して有象無象の霊魂がこの公園に集結しているみたいなんだ」

「そんなことあるんですか……」


 陰の世界で移動する事務室のメンバー。そこに根本と柴崎も一緒にいた。


「今回の霊魂の動きには少し不可解な点があります」

「不可解な点?」

「神藤さんは、霊魂というのは普段どういう行動をすると思いますか?」


 根本は神藤に質問をする。


「それは……、意味もなく周辺をグルグルとしているようなイメージありますが……」

「確かにそういうイメージがありますね。ですが、今後1週間のうちに霊的力場が変動する大きな出来事がありますね」

「……天皇陛下の退位と、皇太子陛下の即位、ですか?」

「その通りです。今回は普段とは違う、特異な出来事があります。おそらく大量の霊魂は皇居を目指して移動しているのでしょう」


 しかしそこで、根本が難しい顔をする。


「問題は、どうして霊魂が公園に集結しているのかということです。通常なら数の暴力で皇居に押し寄せれば問題ないはずなのに、一度広い場所で集合している。これが少し不可解な点と言うわけです」

「大丈夫。それにはちゃんとした理由があるよ」


 富士見がそのように言う。


「どのような理由でしょうか?」

「根本君は山手線の都市伝説を聞いたことありますか?」

「都市伝説……。もしかして、山手線と太極図の話ですか?」

「えぇ。山手線と中央線を図式化すると、太極図に似ているという話です。神藤君は知っていた?」

「そんな話を小耳に挟んだことあるような……」

「確かに明慈維新前後、江戸城を皇居にすると決まった時に、皇居自体に結界を張る計画と都心全体に結界を張る計画があったのは事実です。しかし実際に決まったのは皇居のみの計画で、都心全体に結界を張る計画は断念されたという記録が残されています」

「ということは、山手線に結界の能力は存在しないのですか?」


 根本が考察する。


「その通り。山手線と中央線には結界としての力は存在しません。しかし、実際には結界抜きでの工事計画となり、結局形としては太極図のようになってしまった。そこから人間の間で都市伝説が生まれてしまい、結果として結界のような効果を生み出すことになりました」

「それって……、本来の機能はなかった話だったのに、あまりにも多くの人々が信用してしまったために、陰の世界も影響を受けたってことですか?」

「ご明察だね、神藤君。陰と陽の世界は互いに影響し合う。今回は陽の世界での信仰やら信用が陰の世界に影響し、疑似結界として現れたということなんだ」

「なんというか……、皮肉な話ですね」

「人の考えることはそれだけ強力ってことでもあるんだ」


 そんな話をしているうちに、一行は浜町公園に到着する。


「まだ入口なのに、ここからでも大量の霊魂が見えるね」

「この数を相手にするんですか……?」

「そういうことになるね。でも大多数の霊魂は無害な存在のはずだよ。そんなに心配しなくても大丈夫」

「はぁ……」


 神藤たちは車を降り、公園に入っていく。霊魂たちは広い運動場に向けて大移動をしていた。


「あっちには運動場があるはずだね。広い所に集まるのかな?」

「その前に、この霊魂たちを無力化しません?」

「いや、その前に一握りの霊魂が集合をかけている可能性がある。それを叩かない限りは、広範囲の霊魂がここに集まってくるはずだ」

(こりゃまた面倒なことになりそう……)


 神藤は心の中でぼやく。

 一行は運動場に向かう。するとそこには、赤い霊魂が数体と、白から灰色の霊魂が多数いた。


「あれは生霊かなぁ……。もしそうなら、これだけの霊魂を操れるほどの強い怨念を持っていることになるね」


 富士見が物陰からこっそり様子を伺う。


「上島君、あの生霊を狙撃することは出来る?」

「この距離なら問題ないですが、周辺にいる多数の霊魂が邪魔と判断します」

「やっぱりそうなるか……」


 富士見は少し考えて、神藤のほうを見る。


「神藤君、前に浄化攻撃を使って集団になった霊魂を浄化させたことあるよね?」

「ありますね」

「今回もそんな感じに出来ない?」

「出来ると思いますけど、結構集まっちゃってますからねぇ。一旦霊魂をある程度バラバラに解体してからじゃないと厳しいかも……」

「となると……」


 富士見はまた考え込み、一つの作戦を立てる。


「それじゃあ、上島君はここで狙撃の準備。僕と根本君と柴崎君で白色の霊魂の解体。神藤君が浄化攻撃で霊魂をあらかた浄化させたところで、上島君が狙撃で生霊を破壊するって感じだね。それで問題ないかな?」


 全員頷く。


「よし」


 そういって富士見はスマホを取り出して、画面に五芒星を表示させる。

 神藤たちもそれぞれ自分の武器を取り出す。


「それじゃあ行こうか」


 富士見の言葉と同時に、神藤たちは各自行動する。

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