まずは富士見と根本と柴崎が一斉に前に出る。
「せぇい!」
富士見はボクシングの戦い方のように、接近戦で霊魂を排除する。それに続くように、根本と柴崎が富士見の斜め後ろから攻撃する。
そのように道を切り開いた所で、神藤が直刀を持って前進する。
「はぁっ!」
神藤は大きな塊となっている霊魂に対して斬り込みを仕掛ける。霊魂は分裂し、さらに小さな霊魂へと変化する。
そのようになったところへ、神藤は祝詞を上げる。
「この世に蔓延る霊魂よ、根の国向かいて祓いたまえ」
衝撃波に似た半透明の球体が広がり、半径数メートル程度を覆いつくす。するとそこにいた霊魂が浄化され、存在を消す。
そうやって霊魂を排除していくと、赤い霊魂である生霊に存在がバレた。生霊は周囲に漂っていた霊魂をまとめ上げ、一つの巨大な実体のように振舞う。
「面倒なことになったね……!」
巨大な霊魂の塊は、胸の部分に生霊である赤い霊魂が数体、その周りに人型になった白い霊魂が大量にくっついている状態だ。このままでは、以前攻撃を受けたデイダラのような戦いを強いられるだろう。
「神藤君! この間の弓は使える!?」
「はい、使えます!」
「まずは手足の自由を奪ってほしい! 上島君は狙撃に集中して!」
(上島さんが攻撃しないとなると、あの巨人を止めるのは俺の仕事か……!)
そのように判断した神藤は弓を召喚し、思いっきり弦を引く。狙いを巨人の右ふくらはぎに定めると、躊躇なく矢を放った。
矢は音速を超えるスピードで巨人の足に吸い込まれていく。命中した瞬間、白い霊魂が爆発したかのように飛び散った。
だが、飛び散った霊魂は何事もなかったかのように、フヨフヨと巨人の足に集合し、再結合する。
「げぇ! コイツ、合体じゃなくて集合型なのかよ!」
神藤は思わず驚いてしまう。集合型は霊魂同士が緩い繋がりで繋がっているため、破壊は容易でもすぐに再結合してしまう。そのため、単体で浄化封印するよりも厄介なのである。
「こうなったら……」
神藤は再び矢をつがえて、神藤は祝詞を上げる。
「この矢に勅命込めたるは、いかなる御霊も祓うこと。我の願いを聞き届ければ、やがて来たるは安寧の国」
そういって神藤は再び矢を放つ。今放った矢は青色にも似たオーラを纏っていた。矢は同じように右足に命中する。今度は巨人の右足に命中すると同時にオーラが小さく爆発し、巨人を構成していた霊魂が浄化される。
「いいね、神藤君! 僕たちも負けていられないよ!」
そういって富士見たちは巨人に接近する。
それに対応するため、巨人を構成する霊魂が体から飛び出させて、富士見たちに向かって攻撃する。
富士見たちは防戦しながらも、その霊魂を次々と封印させていった。
「柴崎! 道を作ってくれ! 俺と富士見さんで突破する!」
「了解!」
根本が柴崎に指示を出し、柴崎は前進する。
「
呪文を唱え、口をすぼめておもいっきり息を吐く。すると息が火炎と化して霊魂を襲う。
火炎に焼かれた霊魂は次々と焼却され、煙のようになっていった。
これにより、道が切り開かれる。そこに向かって富士見たちが突撃していった。
「
「
富士見と根本はそれぞれ封印の呪文を唱え、巨人の霊魂に触れる。その瞬間、周辺に閃光が走り、霊魂が消滅する。
しかし周辺で漂っていた霊魂が集合し、再度巨人の体を構成した。
「これはこれで厄介だね……! 根本君、柴崎君、一度下がりましょう」
富士見たちは一度神藤のいる所まで下がり、状況を見極める。
「このままでは、生霊のいる所までたどり着けない。けど放置しているわけにもいかないからなぁ……」
富士見は少し考え、神藤のほうを見る。
「神藤君、あの生霊のいる場所を直接狙えるかい?」
「はい。動きが鈍いですし、なんとかなるかもしれません」
「よし。上島君、神藤君が胸の霊魂を排除するのと同時に、生霊の狙撃お願い!」
富士見は上島に対して指示を出す。しかし上島は反応しない。生霊に居場所を知られたら終わりだからだ。
「それじゃあ神藤君、お願いするね」
「はい」
神藤は矢をつがえて、生霊に狙いを定める。霊魂を浄化する祝詞も上げた。
そして狙いを定め、一呼吸置く。
「放ちます!」
上島に聞こえるように叫び、神藤は矢を放った。
矢は一直線に巨人の胸に飛び、命中する。その瞬間、生霊の周りを構成していた霊魂が浄化され、生霊までの道が切り開かれる。
はじけ飛んだ霊魂が再び再集合しようとした時、上島が言葉を発する。
「ケランからの手紙3章24節から25節」
『師は我々に力を与えてくれた。どんな状況であろうとも生き抜く力である』
その瞬間、十字架から極細の光線が照射され、1体の生霊を攻撃する。生霊が破壊されたことで、残っていた生霊も連鎖的に破壊された。
それにより生霊の力が消滅し、霊魂がバラバラになる。
「なんとかなったか……」
神藤は弓を消滅させながら言う。
その時、赤い霊魂の欠片が神藤たちの前に落ちてくる。
『ゥ……ア……』
その生霊は明確な意識を持っているようで、言葉を発していた。
「これまた強い怨念を持っている生霊だね。上島君、処分お願い」
「分かりました」
上島がやってきて、十字架を生霊に向けた時である。
『富士見……先生……』
生霊は富士見のことを呼ぶ。
「今、僕のことを呼んだ……?」
「聞き間違いでなければ」
上島は十字架を構えたまま、その場で立ち止まる。
生霊は言葉を続けた。
『富士見先生……、私、ここまで強くなれました……』
「君は、相田君なのか?」
『富士見先生……。裏で待っています……』
そういって生霊は自ら崩壊し、消えていった。
神藤には、富士見が少し寂しそうな表情をしていたように見える。
「……まぁ、今回は問題なく終わったし、これで撤収しよう」
いつもの調子に戻った富士見は、神藤たちの前を行く。
(なんで相田さんの生霊がこんな所に……)
神藤は少し疑問に思うが、富士見が気にしていないようだったので自分も気にしないことにした。