私は小切手を取り、有佳の前でそれを引き裂いた。
有佳はその光景を見て、「やっぱりそうなった」の顔で私に向けた。
「有佳、この10億円は私のものではない。最初から彼とは、ただ一緒にいたい気持ちで結婚した、悔いはない」
「あなた、どうしてそんなに頑固なの?」
有佳は私の額を突き、どうしようもないと思いながら私に言った。
「私は頑固じゃない。ただ……自分のものでないと欲しくないだけ」
私は淡々と笑った。
「愛子、彼のことを忘れて、新しい人生を始めよう」
有佳は私の肩を掴み、真剣な顔で言った。
「うん……」
「愛子、君は何て冷たい人間だ、どうしてお母さんの電話に出ないの?何回も電話をかけたのに、何て酷いことを……自分の母親にこんなことをするとは……」
私が答えようとした瞬間、ドアが一足先に蹴飛ばされ、母が木の棒を持って私に向かって罵声を浴びせながら振り回してきた。
「おばさん、何をするの!?」
母が木の棒で振りかけるのを見て、打たれないように私は後ろに避けた。有佳は私の前に立ち、母が持っていた棒を掴んで、母に向かって厳しく警告した。
「どきなさい!これは私たち家のこと!」
「ここは病院です!もし乱暴するつもりならすぐに警察を呼ぶ!」
「警察を呼ぶ?いいわ、呼んでみなさい。警察に、この人でなしの娘を逮捕してもらうように頼むわ」
「人でなし?彼女は何年もあなたたちにお金を渡してるよね?あなたたちが男尊女卑の価値観持つあげく、娘を人間だと扱わない。そっちこそ血も涙もない悪魔だ」
「私は彼女の母親よ。彼女を育てたんだから、彼女がお金を渡すのは当たり前でしょ?私たちはこんなに苦しんで、使うお金もない、なのに彼女は私たちに嘘をついて、誠人と離婚したと言って一銭ももらってないって。お金を隠して使おうとしてたくせに、誠人がこんなにお金持ちだったことも教えなかった。しかも自分のお兄さんも売ったんだでしょう?天野グループにお金を要求するようにそそのかし、結果、自分の兄が罪をかぶる羽目に。何という娘だ……!」
「私の人生はもう終わりだ!こんな人でなしの娘を産んで、正光の身に何かあったら私も生きていられない!」
母は私の鼻を指差し、大声で罵った後、その場に座り込んで胸を叩いて泣き始めた。
私は母を見て、心の中で自分が憐れだと感じずにはいられなかった。
彼らは、お金以外のものは一切見ようとしていない。
「兄が自分で馬鹿なことをして、天野家で騒ぎを起こした。私に全てを押し付けないで。私は誠人から一銭も受け取っていない。もう信じるかどうかはあなたたちの勝手」
私はあまりにも疲れすぎて、母と議論する気力さえ失っていた。
有佳は私の疲れた様子を見て、眉をひそめながら前に出て、母の腕を力強く掴んで追い出そうとした。しかし、母は一歩も動かず、私の手を強く握りしめながら、泣き叫んだ。
「愛子、さっきはママが本当に言い過ぎた、言い方がきつかったんだ。お願いだから、正光を助けて!」
私は母を見つめ、その瞬間、胸の奥から抑えきれない怒りが湧き上がった。二人の息子のために、彼女はずっと私を搾取してきた。その事実が、どうしても許せなかった。
「もう関わるつもりはない!兄が会社の前で騒ぐのは違法行為。私は何の権力もなく、何もできない」
そう言って、私は母の手を振り払い、無感情に言い放った。
「正光もあなたのためじゃない!?どうしてそんなに冷たいの?」
私のため? 彼はお金のためでしょう!世論を利用して、お金を強引に手に入れようとしているだけ。こんな家族はまるで吸血鬼そのもの。私からお金を搾り取ろうと、必死にかかってくる。
「言ったでしょう?私にそんな権力はない、誠人さんとも何の関係もない。」
私は感情を押し殺し、母に背を向けて冷徹に言い放った。
「もし正光を助けないなら、私はここで頭をぶつけて死ぬわ!」
「愛子、まさか君がこんなに冷たい人間だとは思わなかった。母親の命すら気にしないんだね!」
母は私の態度に驚き、悲鳴をあげた後、地面から立ち上がり、壁にぶつけようとした。
私は胸が締め付けられるような痛みを感じ、悲しみが込み上げてきた。無能な息子のために、母は命を捨てるつもりなのか。
「もういい、私……誠人さんに頼む」
私は拳を握りしめ、涙をこらえながら、怒声をあげた。
目の前で母親が死ぬのを見過ごすことなんてできない。たとえ彼女が私を道具として使い、男尊女卑の価値観を押しつけてきたとしても、最後には母が死ぬのを黙って見ていられなかった。
「愛子……」
有佳は私に兄を助けるべきではないと反対した。
「有佳、私が自分の母親の死を黙って見ていると思う?」
私は有佳の腕をしっかりつかみ、あえて泣きそうな顔で彼女に問いかけた。有佳は黙り込んだ。
「愛子、どうか正光を助けて、お願い」
その間、母が私に飛び込んできて、涙を流しながら必死に言った。
私はその姿を見つめ、胸が締め付けられるような痛みを感じた。
「できるかどうかはわからない。でも、私は試してみる」
「絶対大丈夫よ。あなたたちは夫婦だったんだから、きっと正光を許してくれるわ。ダメなら、彼と一晩仕えばいいのよ。」
「母さん、自分が一体何を言っているのか知っているの!?」
母の言葉に私は全身が震え、有佳は母の鼻を指差しながら怒鳴り、強引に追い出した。
「愛子の家族、ほんとにおかしいわ。本当に頭がおかしいわ!」
母を追い出した後、有佳は怒りを隠しきれずに言った。
「もういい、私は慣れた。母にとっては二人の息子が全てで、私はただそのための道具。」
「山極正光のことはもう放っておいて。あんな男、生きているだけで空気と食料の無駄よ」
「でも結局……私たちは血の繋りがある家族」