目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
レイチェルはなんでも知っている
レイチェルはなんでも知っている
はじめアキラ
異世界ファンタジー冒険・バトル
2025年05月20日
公開日
4,170字
連載中
「誰が看板猫だい。あたしは立派なここの受付嬢だよ、口のきき方に気をつけな、ボウヤ」  王様に無理やり異世界転移させられて、新米の冒険者になったダン。  ギルドでミッションを探そうとしたところ、受付に座っていたのはなんと猫だった!  口の悪い猫の受付嬢に、低レベルのミッションしか渡してもらえなかったダンは、なんとか見返してやろうと画策していたのだが……。 ※表紙写真は、フリー素材写真サイトぱくたそ様よりお借りしております。 ※表紙作成にはかんたん表紙メーカーさんを使っております。

<前編>

 その顔を見た途端、ダンはぽかーんとなってしまった。

 だってそうだろう。新米冒険者の自分は、仕事を探しにギルドにやってきたはずで。ミッションを検索してもらうために受付カウンターに登録と相談に来たはずで。当たり前だが、カウンターには受付担当の人達がずらずらと座っていて、自分もたった今番号を呼ばれて1番カウンターに来たはずなのだが――。


「えっと……そ、その、看板猫さん?」


 これである。

 目の前にいるのは普通の受付嬢ではなかった。やや大きなサイズの猫――明らかにエキゾチックショートヘアがどすーんと座っているのである。潰れた顔の、しかしそれが愛らしい猫は、ダンをギロリと睨んで言った。


「誰が看板猫だい。あたしは立派なここの受付嬢だよ、口のきき方に気をつけな、ボウヤ」

「しゃ、シャベッタアアアアアアア!?」

「失礼な奴だね!さてはあんた、異世界転移してきた奴だね?どうせ、王様から〝ナイトランクまで上がらないと元の世界に帰れないから頑張れ〟とか言われたクチだろう?」

「うっ」


 鋭い。ダンは冷や汗をかきながらも頷く。

 この広い広い世界で、人間が住めるエリアはごく僅かである。一部の町を除き、広大な森と海と砂漠が広がる世界。それそのものが、人の手に触れられることのない広大なダンジョンと化しているのである。

 なんでも遠い昔、この世界にはダンがいた世界よりもさらに進んだ――いわばサイバーパンクのような文明が存在していたというのだ。ところが人間達はおろかにも戦争によってそれらの町をぶっ壊してしまい、一部の人類しか生き残らなかったがために大幅に文明がロストしてしまったのだという。

 彼らは核汚染から身を護るためにシェルターを作り、長年そこにこもってどうにか生計を立てていた。

 そして千年以上の後、外の世界の汚染度が急激に下がってきた頃合いを見てシェルターの外に出てみたら――まあ、なんというか人の手が入らなくなった世界は、広大な森に変わっていたというわけである。

 森も海も、未知なるモンスターたちの巣窟となっていた。

 シェルター内の町は既に人口が増えすぎて、人が住む場所も食糧も足りなくなっていた頃合いである。人々はどうにか未開の土地を開拓し、町を広げようと考えるようになったわけだ。

 そこで外の森やダンジョンを調査し、資源を持ち帰ることができる人材・冒険者を募り、国で雇うことにしたというわけでる。冒険者たちは命の危険がある代わりに高給取りであり、命知らずの人々が次々志願してギルドに登録し、町を出発していった――というのが今までの流れであるようだ。

 なんで伝聞口調で語るかといえば、ダンは元々この世界の人間ではないからである。

 この国の王様は迷惑なことに、「そうだ、人足らんし、よその世界からも連れてきて冒険者になってもらお」とか考えたそうなのである。で、普通の高校生だったダンも無理やり異世界転生の魔法とやられ令和日本かた連れて来られてしまったのだった。

 元の世界に帰る条件はただ一つ、冒険者の最上級ランクである『ナイトクラス』になること。ナイトランク、という言い方をすることもある。

 そのためにはとにかくたくさんミッションをこなして、ランキングを上げていかなければいけない。そろそろ薬草とキノコを採るばかりの簡単ミッションを卒業して、モンスターを討伐するミッションを始めようと思ったため、端末ではなくカウンターにおすすめのミッションを登録しにきた、というわけだった。

 確かに今までカウンターを利用したことはなかったし、どんな受付嬢がいるかなんて観察したことさえなかった。が、まさか猫の受付嬢がいようとは。しかもエキゾチック。しかもなんていうか、非常に口が悪い。


「あんた、日本って国にいた転移者かい?あたしもだよ。エキゾチックショートヘアなんて猫、この国にはいないからね。その名前が出てくる時点でそういうこった」


 ふんふん、とシッポを振りながら言う彼女。ちなみに顔の半分と耳が焦げ茶の毛をしており、それ以外の体の大部分が白い毛でおおわれている彼女である。


「あの国じゃあ猫はみんな喋れなかった。でもこの国ならおかしなことはなんもない。いちいちみっともないリアクション取るんじゃないよ、冒険者サマ」

「え、ええ……?この国で猫って喋れるの?」

「全部が喋れるわけじゃないようだけどね。この世界に来た異世界人は、みんなそれぞれ異能が使えるようになるだろう?あたしもそれで喋れるようになった、それだけのことさ。まあ、元々ニンゲンの言葉は全部わかってたんだけどね。これで嫌なことは嫌とはっきり言えるようになるし、おかげさまで仕事ももらえてなかなか便利だと思ってるよ」

「は、はあ……」


 なんだろう。異世界あるある、言われてしまえばもう突っ込むのも野暮なような気がしている。とりあえずこの猫も元日本の猫というのなら、少し話は通じる、のかもしれない。猫に、どれだけ人間の常識がわかるのかは定かではないが。

 なんて思っていたのが透けたのだろうか。


「ほら、後ろがつかえてるんだ。さっさと用件を言いな!手間かけさせんじゃないよ!」

「あでっ!」


 額に衝撃。思い切り猫パンチを食らったのである。爪が出ていないだけ優しいが、それでも地味に痛い。ダンは額をさすりながら「えっとお」と口を開いた。


「その、俺まだここにきて一か月の新米冒険者なんですけど。そろそろいつもよりワンランク上の仕事を受けてみたくてですね……」

「フルネームとIDを言いな。あとランクも」

「あ、えっと……ダン・サワタリ。IDは5992431。ランクはポーン、です」


 冒険者のランクは大体チェスの駒で例えられる。

 新米は必ずポーンランクから始まり、次にルークランクへ昇格する。その次がビショップであり、最終的にナイトランクになるができるのだ。ちなみにナイトランクの中で王様に認められたごく一部の精鋭だけがクイーンランクを与えられ、王様の護衛任務に就くことができるという話である。そこまで行ける者はごくごく一部のベテランだけであるようだが、王様直属の精鋭兵はかなりの高給取りだという噂があるので、憧れる者は多いらしい。

 ダンの場合は、ナイトランクまで行けばいいとのことなので、クイーンを目指す必要はない。

 何にせよいつまでも薬草とキノコばっかり収穫していてはちっともポイントがたまらないし、上に行けないのも事実だった。なおポーンランクであっても最上級ミッションを受けること自体は可能だが、その場合は受注時に『死んでも訴えません』という誓約書を書か冴えるともっぱら噂されている。はっきり言って怖すぎる。

 ランクが上がればそれだけ基本給も増える。ポーンランクで食べていくのは厳しいので、ポーンランクで仕事をしながら他のアルバイトと掛け持ちをする者もいるらしい。バイトをせずに食べていきたいなら、最低でもルークランクまで上がる必要があるそうな。


「はい、ダン・サワタリね。……ああ、あんた本当にちまちましたミッションばっかりやってきたんだね。Eクラスのやつばっかりだ。唯一やったDクラスは、ミニラプトス五体討伐任務か」

「あー……はい」


 仕事の履歴は全てギルドで一括管理されている。履歴を見れば、ダンが今まで本当にみみっちい任務ばかりしてきたことがわかるだろう。

 ちなみにミニラプトスというのは、ちっちゃな恐竜型モンスターである。体調140cm程度。肉食だが臆病な性格であり、その牙もさほど鋭いものではない。五体討伐するだけならば、ダンのような下っ端でも充分可能だったのだ。

 まあ、要領が悪すぎて、五体討伐するだけで半日かかってしまったしょっぱい記憶があるが――。


「ミニラプトスの討伐に六時間もかかってるじゃないか。一体何でそんなに手間かかったんだい?」

「そ、その。すぐ逃げられちゃって、なかなか見つけられなくて……」

「あんた、ちゃんとミニラプトスの事前情報調べてから行った?あいつらすばしっこいけど弱点は多いから、ちゃんと情報知ってれば対処できたはずだよ」


 いいかい?と姉後気質な猫の受付嬢は、びしっと右前足を出して言ってきた。


「おすすめのミッションは出してやる。でも、ちゃんと下調べしてから出発すること。せめてそこの端末にモンスターの情報とか今日の天気とかフィールドの状況とかいろいろ出てるから、頭に叩き込んでから行くんだよ。必要ならば他のメンバーに合同ミッションの依頼もかけること、いいね?」

「は、はい……」


 言ってることは間違ってはいない。しかし、あまりにも上から目線の態度に思わずダンはむっとしてしまう。

 相手は猫だ。喋れるようになったところで猫は猫――寿命はそう長いものではあるまい。見たところ毛並みも悪くないし、十歳にも満たない年齢だろう。人間の十歳と猫の十歳は違うなんてことも言われるが、それでもダンの方は今年で十六歳なのである。年下の猫に、こうも横柄な態度で命令されるのは癪善としない。

 これがペットの猫や野良猫だったら可愛いなと思って終わるのに、口を開いた途端可愛らしさが半減するのは何故なのだろう。やはり、昔苦手だった先生を思い出してしまうからだろうか。


――調べてから行けって言われたって……結構情報がごっちゃりしてて調べるの大変なのに。それに、一つでも多くこなさないと大したお金にならないから、下調べなんぞで時間かけてらんないんだけどな。


 彼女は冒険者ではなくただの受付嬢ならぬ受付猫だ。あまりそういう事情はわかっていないのかもしれなかった。

 とはいえ、ここでぐだぐだ言ったら話が進まないし、これ以上説教されるのもごめんだ。ひとまず納得して頷いたふりをすることにする。


「あんたはまだモンスター討伐に慣れてないようだ。なら……ミニラプトス十体討伐くらいが妥当なところだね」

「ちょ、それまだDランクのミッションじゃないですか!この間やった五体討伐と内容大して変わらないし……!」

「馬鹿だね、その五体討伐に半日もかけてるボウヤに、もっと強いモンスターの討伐任務なんか渡せるわけないじゃないか!」


 ふざけんじゃないよ!と言わんばかりに彼女はニャーと鳴いた。


「とにかく、その十体討伐を三時間でこなすこと。それができるようになるまで、Cランク以上のミッションはやらせないから。もうちょっと気合いれて頑張りな!」

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?