『中二病』―――。
主に思春期、特に中学校二年生頃に見られる、自己を過剰に特別視したり、独自のファンタジー的な世界観や自己像に浸る傾向を指す日本のスラングである。
1990年代後半から2000年代初頭にかけて、ラジオ番組やインターネット文化を通じて広まったこの言葉は、若者が現実を離れ、空想的な言動や劇的な自己演出に没頭する様子を、時に愛情を込めて、時に揶揄する形で表現する。
例えば、異世界の勇者や闇の支配者を自称し、教室で大仰な台詞を吐いたり、ノートに魔法陣を書き殴ったりする姿がその典型だ。
だが、そんな「中二病」が尋常ならざる形で花開くこともある。
ある高校のクラス、40人。
全員が、いつか必ず来ると盲信する「武装集団」の襲撃に備え、ただの妄想に留まらずガチの対策を重ねていた。
ある者は自らを強化すべく怪しげな改造手術を受け、機械の腕や強化された視覚を手にし、ある者は古の呪術書を掘り当て、夜通し呪文を唱える修行に励んだ。
またある者は、異世界への転生を果たし、チート級の能力を授かって現代に舞い
戻ってきた。
そう――すべては、教室を占拠する武装集団を返り討ちにするためだ。
だが、皮肉にも、その日は永遠に来なかった。
武装集団は現れず、彼らはそれぞれの「中二病」を胸に抱えたまま卒業し、散り散りに去っていった。
この物語の主人公もまた、その集団の一人にすぎなかった。
ただ一つ、他の者と異なる点がある――。
他の仲間たちが、いまだにどこかで『その日』を待ち続けているのに対し、留年した彼だけは現実を受け入れ、普通の高校生活へ踏み出そうとしていたのだ。