祠が壊されてから、数日が経った。
そのような事実は誰の耳にも届くことなく、ある中学校では卒業式が執り行われていた。
卒業生153名、在校生447名、教職員33名、保護者251名、そして来賓10名。
計904名。
華やかなはずの卒業式に、不穏な空気が忍び寄ったのは、式典が始まってから3時間半後のことだった。
一人の生徒が、体育館の隅に目をやると、自分の影が不自然にゆがんでいることに気づく。
同時に、微かな硫黄の匂いがした。
「ねぇ、なんか変……」と隣の友人に小声で告げる。
他の生徒たちも異変に気づき、互いの顔を見合わせる。
次第に鉄と腐肉の悪臭が鼻腔を突き刺し、吐き気を催すほどに濃くなっていく。
天井の照明が心臓の鼓動のごとく明滅を繰り返す。
悲鳴が上がり始めるまでに、それほど時間はかからなかった。
体育館の扉が開き、血相を変えた教師たちが我先にと、渡り廊下へと走り込む。
続けざまに、顔に深い傷をおった親たちが数名、それと、腕のとれかけた男児がよろめきながら現れた。
その後ろには、誰もいなかった。
空っぽの椅子と、剥がれ落ちた天井の漆喰のみ。
まるで蒸発したかのように、忽然と人が消えたのだ。
翌日――――。
「近くの中学校で、神隠しがあったようだ」と誰かが言った。
「またか」と、誰かが無気力に返した。
ただの『神災』。
日常の一部。
古来より神々が試練として与えてきたこの現象に、人々はもはや慣れきっていた。
世間はこの出来事を「不幸だった」と片付け、すぐに別の話題へと移っていく。
テレビニュースでは、この事件は数分のローカルニュースで片付けられ、すぐに人気ドラマの宣伝映像が流れ始めた。
――――――
―――――――
ふと外界に足を踏み入れてみれば、浦島太郎状態とはこのことか。
人の世もだいぶ変わった。
祠にこびり付いた苔と共に、この儂もまた、時代に取り残されてしまったようだ。
それにしても。
「……900。やりすぎだ」
薄汚れたアニメTシャツにヨレヨレのジャージ姿の青年がテレビのニュース映像を睨みつけながら、
「そこらの神も欲深くなったものだな。それか、単に頭がおかしくなったか……連れていくなら一人で十分……なぁ、お前もそう思うだろ?」
モニターに映る自分に、ひとりごちる。
ここに一人、いや、一柱。
殺した
現代の片隅に、人知れず生きることを良しとする祟り神。
名を、