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前回までのあらすじ
魔王は的中率100%の占い魔法『今日の占い』を使い、この世界の情報を聞くのに適した人物を探したのだった。
そして魔法によって導かれた先で出会ったのが、引きこもりでニートでゲーマーの望月真央である。
しかし自身の魔法に絶対の自信を持っている魔王としては、知啓に富んだ賢者が選ばれたと思っているのだった。
これでは的中率100%の魔法が外れているのではないか?と訝しむ方もおられるであろう。もちろんこれには相応の理由があるのだが、今はまだ語るべき時ではない。
一方真央は魔王の事を父が送り込んだ刺客だと思い込んでいる。
というのも彼女は引きこもりなので滅多に外出しないのだが、その身を案じた父によって何度か部屋から連れ出すための役者が送り込まれていたのである。
つまりは双方勘違いした状態なのだ。
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「それじゃあ早速プレイしてみるっすよ。」
ゲームに興味があると言う魔王に、実際にゲームを体験してもらおうと考えたマオは、ひとまず椅子から立ち上がると自身の倍近い背丈の魔王の顔を見上げながらそう言った。
ところが魔王はその提案にすぐには答えず、腕を組んでしばし何か考える様子を見せた後に、ようやく口を開いたのだった。
「ゲームとやらには興味があるのだが、その前に少し質問してもよいか?」
「いいっすよ。なんすか?」
翻ってマオの方は何も考えずに即答したのだった。
「うむ。それでは1つ目の質問だ。マオはこの屋敷ではどういった立場なのだ?この部屋に幽閉されているわけではないのか?」
「私はこの屋敷の主人の娘っすよ。それと部屋に引きこもってるのは強制されているわけじゃないっす。」
ある程度予想していた通りの答えがマオから返って来たので、魔王は続けて質問した。
「ほう?それならば何か研究のために部屋に籠っていたというわけか?」
「え?まあゲームしてるだけっすけど、研究と言えば研究っすかね。」
マオは引きこもっている間はもっぱらゲームプレイに心血を注いで過ごしていが、彼女がプレイしているのはインターネットを介して対人対戦を行うのがメインコンテンツのFPSゲームであり、対戦環境の変化を追ったり、新たな戦術を編み出す過程は、ある種の研究と呼べなくもないので、そのように答えたのだ。
これを受けて魔王は色々と勘違いしたままで勝手に納得し、マオの素性をすっかり把握したつもりになって独り言を呟いた。
「なるほど合点がいった。余の配下の賢者もよく自室に籠って研究していたものだが、賢者とは得てして俗世を厭い、孤独を愛するものであるな。」
「えーっと、賢者の人は引きこもりなんすか?なんだか私と気が合いそうっすね。」
「であれば、いずれ二人を引き合わせるとしようか。」
「うーん、まぁ私としてはそれほど興味ないんで、気が向いたらでいいっすよ。」
マオは割と人見知りするタイプのコミュ障なので、見ず知らずの他人と会う機会を設けるという魔王の提案には難色を示し、やんわりとお断りの言葉を告げたのだった。
「承知した。さて、2つ目の質問というか、これは勧誘なのだが……」
魔王は何やら改まった様子で襟袖を正し、ともすれば威圧的とも言えるオーラを纏いながら言葉を続けた。
「賢者マオよ。余の配下に加わる気はないか?」
魔王の威圧的なオーラを受けたマオは、意外にも物怖じせずに平気な顔でこれに応えた。
「いいっすよ。」
「なんと?てっきり断られるものと覚悟していたのだが、二つ返事で決めてよいのか?」
なぜか断られる前提で勧誘したと正直に語る魔王に、マオは逆に聞き返した。
「断ってもよかったんすか?」
「いや、どうあっても配下に引き入れるつもりではあったがな。なるほど、それを見越して快諾したというわけか。」
「え?うん、まあそんなところっすね。」
(ロールプレイ気分でうっかり承諾しちゃったっすけど、このままだとお父さんの思惑通り部屋から連れ出されちゃうっすね。でもルシファーはちょっと面白いし、たまには外出するのもいいかもしれないっすね。)
魔王の堂に入った演技に釣られてしまった事と、魔王の外見がマオの嗜好に突き刺さっていた事が重なり、引きこもりゲーマーとしての矜持が揺らいでうっかり怪しい勧誘に引っかかったマオなのだった。
「さて、質問は以上だ。改めてゲームとやらをやってみることにしよう。」
「あれ?私を部屋から連れ出すつもりじゃないんすか?」
「なぜだ?今はゲームについて話をしていたところであろう?」
「え?まあそうっすね。」
(なんだか話が噛み合ってないっすね。私を連れ出す気がないなら、この人何が目的なんすかね?)
事ここに至ってようやく、目の前の大男が父の送り込んだ刺客ではない可能性に勘づいたマオだったが、時すでに遅し。
何も考えずに魔王の配下に加わってしまった後なのだった。
「しかしルシファーはでかいっすね。私の椅子には座れそうもないっす。」
マオは自身の倍以上はありそうな魔王のデカいケツと椅子とを見比べて言った。
「ならば魔王の奥義が一つ空気椅子を使うとしよう。」
魔王は無造作に魔力を練りあげると、あっという間に見えない椅子を作り出して座ったのである。
それは傍から見ると本当に空気椅子をしているようで滑稽なのだが、魔王はあまり客観的に自分を見ることができないのだった。
「そのままでゲームをするつもりなんすか?」
「ああ。問題ない。」
魔王は言葉の通り平気な顔で座っているので、マオはひとまず空気椅子のことは忘れて話を続けた。
「まあルシファーがそれでいいならいいっすけど。それじゃあゲームの操作法を説明するっすよ。」
異世界から降臨した魔王はもちろんパソコンなど触れた事も無いが、高い知力を持っているのでゲームの操作をすぐに覚えたのだった。
ちなみに魔王がプレイしようとしているゲームは、現代の戦争をテーマにした、ネットワーク対応の対人対戦がメインのFPSゲームで、実際の兵器の性能を忠実に再現しており、ダメージによる行動制限なども無駄にリアルだと好評なシリーズの最新作だ。
「飲み込みが早いっすね。本当に初心者なんすか?これならすぐプレイできるっすよ。」
「魔王の力をもってすれば容易いことだ。練習はこの辺にして早速本番と行こうではないか。」
「了解っす。とは言え初プレイっすからね。とりあえずお試しってことで、新規アカウントは作らずに、このまま私のアカウントを使ってもらうっすよ。相手も人間が操作するプレイヤーキャラっすから、初心者のルシファーは負けちゃうかもしれないっすけど気軽に挑戦あるのみっす。」
「フッフッフ……余を侮るなよ。遊びとは言え勝負であれば手を抜かぬのが魔王だ。格の違いというものを見せてやろう。」
あからさまに敗北フラグを建築している魔王なのだった。