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ep2.12 幼女と機関銃

 演習場の受付で施設利用申請を済ませた魔王とマオの二人は、対戦モードへと移行し、決戦のバトルフィールドへとワープ移動していた。


―――補足説明 読まなくてもいいよん

 リアル志向のゲームである『マーセナリー』で、ワープなどと言うファンタジー機能が在ってよいのかと疑義を呼ぶところだが、マーセナリーにおける『リアル』とは戦闘フィールドにおける物理的な挙動や、各実在兵器並びに武装の性能再現、そしてアバターの見た目通りの身体スペックの実現など、戦闘時に限った話である。

 片や非戦闘パートとなればリアル志向はむしろ害悪でしかなく、移動やら装備の着脱に現実的な時間を労していたらストレスが半端ではないことは想像に難くないだろう。、どれだけプレイヤーが快適にプレイできるか、要するにユーザーフレンドリーが最優先されており、先述の装備変更時の早や着替えや、都市内でのファストトラベル機能など、できる限りストレスを感じない設計がなされているのだ。

 戦闘時のリアル志向は、没入感を増してユーザーに納得感のあるゲーム体験を提供する効果が期待できる他、現実と乖離した理不尽な挙動がほとんどなく、同一条件下における物理現象の再現性が極めて高いので、運に左右されない腕前を競い合う競技シーンでの利用にも最適とのお墨付きを頂いている。さらには実際に軍隊での戦略・戦術シミュレーションに利用されるなど、副次的な利益も産んでいる。

 なお軍事利用可能な技術と言うことで、一時は民生向けの発売が禁止になりかけた事実はあまり知られていない。


―――さらに補足

 演習場における戦闘フィールドは、生成条件をプレイヤーが指定しない場合、人工的な盛り土と石壁の障害物が随所に設置されただけの、平坦かつ整った土床の平地となり、時間帯は昼間、天気は快晴で、いかにもな新人向けのチュートリアル用ステージが採用される。

 今回マオは何も指定しなかったので、そのままズバリのチュートリアルステージが生成されている。


―――もう一発補足

 魔王とマオは同室内で席を隣り合わせているため関係ないが、対戦中は味方以外とのボイスチャットは遮断される仕様となっている。

 また味方との通信も常時チーム全体通信が開通しているわけではなく、全体あるいは個別に通信相手を切り替えて一方通行の言葉を手短に送り合う、トランシーバー的な運用がデフォルト設定となっている。

 ちなみに全体通信を常時繋げる事自体は設定変更で可能だが、相手チームに電子戦を行う工兵が居る場合、繋ぎっぱなしの全体通信は傍受されるリスクが高いため推奨されない。ソロ対戦やデュオ対戦でその辺の心配をする必要はないが、一事が万事、普段からの癖は重要な場面でこそ出てしまうモノなので、常在戦場の心意気を忘れてはならない。

―――


 余談はさておき、戦闘フィールドへと転送された二人に話を戻そう。

 チュートリアルステージは、広さ約300坪で、平易に言い換えると一辺が30mほどの正方形になっている。

 魔王とマオは20mほど離れた、概ね対角上にある石壁の裏にそれぞれ転送されて、互いの姿は見えない状態で配置され、戦闘フィールドの生成と通信の同期が完了次第、戦闘開始のカウントダウンが始まった。ちなみにカウントは10秒だ。この10秒間は攻撃的な行動ができないが、武器の持ち替えや徒歩移動は可能なので、ベテランともなれば戦闘開始の宣言を座して待つのではなく、様々な行動を行い有利状況を作り出すのが定石だ。

 と言うわけで、ベテランプレイヤーたるマオは、自身のアバターの戦闘フィールド上におけるリアル物理エンジンが作動した状態での動作確認、並びに周囲の状況確認を行っていたのだが、ここでさっそく問題に直面していた。何も操作していないのに徐々に視線が落ちていくのである。

「うん?なんすかねこれ。」

 その状況はゲームに慣れ親しんだマオにとっても初めての経験だったので、一瞬何が起きたのか理解できなかったが、マウスを動かしてエイム動作のチェックに移った段階で問題点が発覚した。

 なんと彼女のアバターは貧弱すぎて、アサルトライフルの重量4㎏に腕力が負けていたのである。具体的にはライフルを構えた際の保持姿勢が3秒ほどしか保てず、重さに負けて徐々に腕が下がっていく、また照準を振ると慣性が強く働き制動に時間を要するといった具合で、要するにライフルをまともに扱えないのである。

「これはひどい。」

 ひとりごちるマオの声は、戦闘開始を黙って待っていた魔王の耳に入り、魔王はそのただならぬ様子が気になって視線をゲーム画面からマオへと向けつつ声を掛けた。

「どうかしたのか?」

「えーっと……いや大丈夫っす。もう戦闘が始まるっすから、とりあえず終わった後で話すっす。」

 マオは唯一の武器がまともに扱えない事実を正直に話すべきか迷ったが、魔王との初対戦に水を差したくなかったので、ひとまず状況を隠して対戦に臨むことにしたのだった。

「そうか。」

 これを受けて魔王の方もひとまず戦闘に集中することにし、ゲーム画面へと視線を戻したのだった。


 そして終に、戦闘開始のゴングが鳴り響いたのだった。


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