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ep2.13 アバター性能の違いが、戦力の決定的な(以下略)

 前回のあらすじ、戦いの火蓋は切って落とされた。


 本エピソードは魔王とマオ、別々に行動する二人の視点を切り替えつつフォーカスして、互いにどの様な考えの基に行動しているのか、心理描写を中心に展開する。そこで、心の声ことモノローグは[角括弧]で、実際に声を出すセリフに関しては今まで通り「鉤括弧」で囲う形で表示するので、留意してもらいたい。


───side:マオ

 戦闘開始の直前になって、唯一の武器であるアサルトライフルがまともに扱えない問題に直面したマオは、不測の事態に多少は驚いたものの、さほど深刻にはとらえていなかった。

 なぜならベテランプレイヤーである彼女は、ゲームの仕様に対する造詣が深く、問題の解決法を既にいくつか思いついていたからである。


 マオは再度アサルトライフルを構えて、すぐに照準が下がっていく事を確認した。

[さて、直立したままでライフルを構えると、保持できる時間がおよそ3秒。繰り返しても再現性があるみたいっすね。となれば、構えてから3秒以内に撃てば問題ないわけっすけど、エイムの遅延問題もあるから、二つ合わさるとちょっと厳しいっすね。まぁこの問題はもっと簡単な解決法があるっすけど。]

 次にマオは右膝をついてしゃがむアクションを取ってから、改めてライフルを構え直した。すると、今度は射撃姿勢を長時間取っても、崩れる事なく維持できたのである。それは片膝をついてしゃがみ、もう片方の立てた膝の上に肘をついてライフルを固定し、リコイルや手振れを抑えて安定射撃を行うためのアクション、いわゆるしゃがみ撃ちである。

[思った通り、しゃがみ撃ちなら照準が下がる問題も解決っすね。予想通り腕力に対してライフルが重すぎるのが照準が下がっていく原因っすから、ライフルの重さを膝で受けたり、カバーアクション中なら障害物を土台として利用すれば問題ないはずっす。射撃姿勢の維持に関しては、ひとまず問題ないっすね。立ち姿勢からの射撃ができないことに目を瞑れば。]

 一つ目の問題の解決策を試行し、その有効性を確認したマオは立ち上がり、開始地点から移動しながらさらに思考を続けた。

 一つ所に長く留まっていては、こちらを索敵しながら動き回る魔王によって、先に発見されるリスクが高まるため、条件をイーブンにするためにこちらも移動し、索敵と並行して考えをまとめる事にしたのである。


[次は、高速でエイムしようとすると、貧弱な肉体に対して過大な慣性が発生して、照準が定まるまでに普通よりも長く制動時間がかかる問題っすね。]

 マオはまずは素早く、次にゆっくりと、そしてまた素早くライフルを左右に振って、その運動の挙動を確認した。

[なるほど。エイム速度に比例する形で慣性が増大するっすけど、同じ速度で振った場合の制動距離と制動時間には再現性が有るみたいっすね。ランダム要素が有ったらどうしようかと思ったっすけど、これなら慣れれば十分制御可能っす。]


 喫緊の課題に一応の解決策を見出したマオは、続いて魔王との対戦における勝ち筋をシミュレートした。

[現在のアバターと装備構成での問題点を改めて確認すると、立ち状態からの射撃ができないのが大問題っすね。不意の遭遇戦になったら何もできずにやられる目算が大きいっす。]

 開始地点からフィールド中央へと向かって静かに歩いていたマオは、石壁からわずかに顔を出して先の様子を見渡し、魔王が視認範囲にはいないことを確認してから、続けて耳を澄まして周囲の音に注意を払いつつシミュレートを続けた。

[正面切っての撃ち合いが不利なのは火を見るより明らかっすから、ルシファーに気付かれ無い様に先に発見して、そのまま奇襲で仕留めるしかないっすね。こっちは見つかったらその時点で負け確定の、特大に不利なハンデキャップ戦って感じっすけど、言うてもルシファーは初心者っすからね。ベテランの索敵スキルを見せてやるっすよ。アバターの性能差が、すなわち勝負を決する絶対条件にはならないと教えてやるっす。]


 考えがまとまったマオは、また少し移動して、盛り土の陰で匍匐前進の姿勢を取って身を隠した。そしてわずかに障害物から顔を出して、先ほど同様に周辺のクリアリングを行った。しかし魔王の発見には至らなかったため、次いで地面に耳を当てて足音による索敵を敢行した。

 音による索敵はFPSゲーム初心者には馴染みがなく、慣れるまでは難しい技術であるが、初心者を脱した中堅以上のプレイヤーにとっては必須技術となる。視覚による索敵が重要なのは当然だが、思考力を持った相手は障害物を活用して、姿を現さない様に忍び寄ってくるのが当たり前なので、視認するより先に足音や物音によって敵の存在を認識する場合が多いのだ。とは言え、音による索敵を行うのはお互い様なので、物音や足音を立てない様に立ち回るのが定石だ。それゆえに、お互いに相手の存在に気付かぬまま、鉢合わせるケースも少なくない。

 ところで、今回の対戦相手である魔王は初心者なので、ゲームのセオリーなど知ったことではなく、大胆に走り回って周囲の探索を行っているのだった。魔王はたまたまマオが進んでいたルートとかち合わない方向に進んでいたため、これまで両者は互いを発見できずにいたが、マオが足音による索敵に集中したことでその均衡は破られた。そう、走り回る魔王の足音をマオが一方的に捉えたのである。


 次回、魔王視点。


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