目が覚める。
昨日のことがあったから私は布団を被るようにして震えていたが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。あんなに大事に身を守る防具にしていたはずの布団は、眠っているうちに暑くて蹴飛ばしてしまっていたようだ。
もう既に外は明るく窓から見える海は朝焼けを反射して煌めいている。美しい景色に思わず見蕩れるが、同時におじいちゃんの言葉を思い出す。
もう浜には近づくな。
それは至極単純な言葉であったが、あの出来事があったことを考えればそう言われても無理は無いことである。
だがそれ以上に深刻な含みのある言い方だった。
まるで次に行ったら最期かのような……。
そう考えてまたぶるりと身を震わせてしまう。
どうせおじいちゃんの怖がらせに決まっている。
一先ず着替えてしまうことにした。
「おはよう」
着替え終えて階下に降りると既にみんなロビーに集まっていた。
まき姉ちゃんとたけるとその両親であるおじさんとおばさん。おじいちゃんとおばあちゃん、それと私のお母さん。お父さんはいない。なんか忙しいんだって。
「見てこれ」
たけるが玄関の方にあった置物に指をさした。
「きゅうりだ!」
きゅうりに足のつけられた奇妙なオブジェがあった。
「それは精霊馬だよ」
おじさんが答える。
「なにそれ?」
たけるが矢継ぎ早に聞き返した。
「今お盆でしょ?お盆っていうのはね、亡くなった先祖様たちが帰ってくる期間のことなんだけど、そのきゅうりの馬に乗って帰ってくるんだよ」
「へぇ~かっこわるい」
教えてもらった癖にいつも通りの悪態をつく。
「ははは、確かにね。でも帰ってく時なんてナスだからね」
「だっさぁ~」
そう言ってたけるはけらけらと笑った。
「さ、今日はどうする?」
まき姉ちゃんが私とたけるの手を取った。
「海!海いく!」
たけるがはしゃぎだす。
「毎日毎日飽きないもんねぇ。まいっか。それじゃあ……」
まき姉ちゃんが玄関の戸に手をかけようとした時だった。
「しずく!」
突然おじいちゃんが声を上げた。
「しずくは残りなさい」
やはり昨日のことだろう。あまり詳しい話を訊いてなかったため私としても気になっていた。
「……わかった」
「えー、しずくこねぇのー?」
たけるが口を尖らせながらぼやく。
「ん、後で行くから」
まだどうなるかわからないが適当に返しておいた。
それを聞いたたけるは納得したようでまき姉ちゃんの手を引いて外へ出て行った。
「……さて」
玄関の戸がしまったのを確認しておじいちゃんが切り出す。
「ここにいるみんなには聴いて欲しい」
「な、なんですかお義父さん」
重々しく息を吸うとおじいちゃんは語り始める。
「……しずくは、死んだ」