次から次へとやってくる冒険者を、ミケは次から次へと捌いていた。
疲労は貯まってきているが、仕事を依頼した以上、報告を聞くことはミケの責任だ。
「おネコ様。お疲れでしたら、残りは明日でも」
「にゃー(いいや、今日やる)」
冒険者ギルドの職員たちはミケを心配するも、ミケはひたすら仕事をこなしていく。
朝は疲れるとすぐに休むことが許されている分、夜は疲れても働くのがミケなりの帳尻あわせだ。
(もう少しじゃ)
太陽はとっくに落ち、冒険者たちはとっくに夜の町へ繰り出して酒を酌み交わしている夕食時。
突然、冒険者ギルドの扉が乱舞に開かれた。
慌てた様子でギルドに入って来た冒険者の装備は傷と汚れだらけで、ギルド内を見渡し、目が合った職員に向かって叫んだ。
「た、助けてくれ! 仲間が! 仲間がダンジョンに取り残されたんだ!」
ダンジョンは、魔物の生息地。
冒険者たちは、安全を確保したうえで冒険をしてはいるが、怏々としてこういった事故が起きる。
仕事終わりが近づいていた冒険者ギルドの職員たちの表情が、一気に引き締まる。
「落ち着いてください。どこのダンジョンですか? 何があったんですか?」
「ドラゴンが出たんだ!」
受付の一人が冒険者の元へ向かうと、冒険者はまくし立てて話し始めた。
ミケは、飛び込んで来た冒険者の話を聞きながら、受付台からぴょんと飛び下りた。
そして冒険者の元へ行き、鞄に入っていた仕事の依頼書をひったくる。
(このダンジョンは確か……あやつか。吾輩としたことが、うかつじゃったな。僅かな確率とは言え、ドラゴンが出ることを失念したまま仕事を振ってしもうた。これは、吾輩のミスじゃな)
ミケは、誰に何の依頼書を渡したか、すべてを覚えている。
故に、当時の自分の考えを容易に思い出し、自責の念で胃がキリキリと痛んだ。
「なあ、頼むよ! 今でも仲間が、ダンジョンで助けを待ってんだ!」
「少々お待ちください! 今動ける冒険者は……マスター! マスター!」
冒険者にとって不幸なのは、帰還が遅かったこと。
凄腕の冒険者たちはとっくに酒をくらった後で、戦力としてカウントするには難しい。
受付たちはてんやわんやで、急いですぐに行動できる冒険者を探していく。
「うぅ……」
そんな受付たちの間をすり抜け、ミケは泣きながら床にうずくまる冒険者の肩に手を置いた。
「にゃあ」
「お、おネコ様?」
「にゃああん!」
「……え?」
ミケの言葉は、人間に通じない。
だから、ミケの言葉は、うずくまる冒険者に理解ができない。
しかし確かに、冒険者にはミケの言ったことが伝わった。
(吾輩に任せろ)
言うが早いか、ミケは床を蹴って、一直線に冒険者ギルドの扉へと向かった。
「おネコ様!?」
受付たちが慌てるが、もう遅い。
扉の下部に設置されたミケ専用通路を通り、ミケは冒険者ギルドの外へと出た。
人々の驚く声の中、メインストリートを駆け抜ける。
馬車など必要ない。
他人の手など必要ない。
この世界で最も早いのは、ミケなのだから。
「おネコ様あああああ!!」
「にゃああああん!!」
ミケを追って冒険者ギルドから飛び出したギルドマスターの声にも振り向くことなく、ミケはダンジョンに向かって一心に駆け抜けた。