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小説を書き始めた最強魔法使いだが、どうやら内容が面白くないらしい。
小説を書き始めた最強魔法使いだが、どうやら内容が面白くないらしい。
せにな
現代ファンタジー都市ファンタジー
2025年05月22日
公開日
2.4万字
連載中
西暦6035年。産業が発展し、人工島が多く増えた日本にとある《最凶》が現れ、日本はほぼ壊滅状態に陥った。 高層ビルは崩され、進んだ産業は衰退し、人工島では魔物の住処。 地獄と化した日本だったが、とある日。6人の”英雄”が現れた。 そのうちの1人である――神東蒼真が救ったのは東京都。 神から与えられた”能力”を巧みに扱う彼の背中は大きく、すべての国民を奮起させた。 もちろん、日本各地から崇められるのは必然のこと、世界最強の魔法使いとして一斉を風靡した。が、ある日。ポツリと姿を表さなくなった。 時は西暦7272年。暖かくも寒くもない微風にオールバックを揺らすのは最高指揮官。 オンボロの家に向かって放たれる言葉は「今すぐ家から出てきなさい」という、引きこもりの息子を引き出すようなセリフ。 言葉を拡張するメガホンを向けるのは、言わずもがなの蒼真の家。 世界最強の魔法使いは、決して死んだわけでもなく、消息不明になったわけでもなく、魔王に囚われたわけでもない。 ただ、家に引きこもって復旧したネット……の中に存在する、《小説サイト》に釘付けだった。 あくる日もあくる日も手にあるのはキーボード。 目に写るのは魔物ではなく小さな地の文とキャラのセリフ。 想像するのは魔法の類ではなく、小説の設定だけ。 小説の虫になってしまった蒼真は、英雄という称号を持ちながらも魔物戦うことを―― 『面白くない』 ――ポロンっと鳴った通知に書かれたアンチコメント。 ピタリと止まったキーボードは、やがて大きな台パンを披露した。 「俺の小説は面白いだろうがー!」 世界最強とは思えない行動に頬を引き攣る自衛隊たちだが、なにを隠そうこの男は世界最強。 それと同時に、小説家。 だが、その内容は赤子も泣くのを忘れてしまうようなつまらない内容。 書き込まれる感想はすべてがアンチコメであり、1話切りがすべて。 そんな蒼真を心配してか成長を促すためにか、最高指揮官はとある提案を持ち出す。 『人の関わりがないんだからギルドでパーティーを作れ』 その言葉をきっかけに、ようやく魔物との戦闘を再開させた蒼真。 そして集まってくる仲間たちは……”すべて魔法使い”。 前代未聞の魔法使いパーティーが完成した今、世界最強の実力を発揮しながらも、面白くない小説を面白くしていく、そんな現代ファンタジー。

第1話 世界最強の魔法使いは、何を血迷ったのか小説を書き始めた

 西暦6035年。産業が発展し、人工島が多く増えた日本。幸福度は最高潮に達し、なんの不便もなく生活出来ていたある日。が現れた。

 平和を具現化したような場所が日本。何百年、何千年前と同じように軍隊など持たず、戦争などせず、悪に触れない。それが日本国民の良いところでもあり、悪いところでもあった。


 そんな日本の悪いところが仇となったのだろう。

 最凶の対抗手段がまるでわからない日本はあっという間に壊滅。唯一残った秋田、東京、大阪、鳥取、香川、長崎は自衛隊によって守られているが、それもほぼ壊滅状態。


 食に飢える人間は発狂し、争い、暴力なんて日常茶飯事。

 女は道具として扱われ、子どもはサンドバックにされ、男は己のために暴力を振るう。


 悪に触れない日本などどこかへ消え去り、それは日本だけに留まることはなく、瞬く間に世界へと飛び放たれ、混沌の時代を訪れた。


 まるで歯が立たない人間に呆れ果てたのか、はたまた人間の願いが届いたのか。

 とある日、人類にはあるが与えられた。


 ――剣技。スキル。そして、魔法。


 剣の扱いなどまるで知らない人間がそれぞれの流派を極意で扱う日々。


 存在しなかったはずの。見たことも聞いたこともなかったはずのスキルが身に纏う日々。


 扱いも操作も慣れない魔力が全身に宿り、もはや覚えていたかのように脳内に焼きつけられた魔力操作を扱う日々。


 非現実なはずなのに、まるで現実のように振る舞う人々は流暢そのもの。

 そして、その現実はやがてぶつ――もとい、を討伐するようになった。


 それからの日本は平穏……とはかけ離れているものの、混沌から逃れたのは事実。

 農業も発達し、それぞれの家庭に分け隔てなく配り与え、それぞれの県で法律を制定して暴力が減った。


 最凶が訪れた数年間よりもよっぽどの平和が訪れた今、人々は勝機を悟っていた。


 理由なんて単純。

 西暦7272年現在。この日本には、最凶を制圧した6がいるのだから。


 そして、この東京には世界最強と歌われている魔法使いがいた。


神東しんとう蒼真そうま。今すぐ家から出てきなさい」


 オンボロが目立つ一軒家にメガホンを向けるのは自衛隊のお偉いさん。

 白いヒゲをなびかせ、オールバックにされた髪からはただならぬオーラが溢れ出る。


 2メートルにも達するその身長を取り囲むのは、ライフルを手に持つ迷彩カラーが目立つ自衛隊。この人の正体を知れば、ざっと50を超える数の自衛隊を囲えるのも、頷けるだろう。


「聞いているのか神東蒼真。今この日本は君の力を必要としているのだ」


 なんたって、メガホンを持つこの年老いた男は、この日本を背負う最高指揮官なのだから。


 抑揚のない声が何度もオンボロの家を揺らす。

 それでも返事がないのは寝ているからだろうか?

 答えは否だ。


 ――ピコンッ


 畳が目立つ部屋に響き渡るのはパソコンから知らされるメール音。

 ピタリとタイピングをやめるのは、今もなお名前を呼び続けられる神東蒼真。


 マウスを握り、タスクバーで『1』を目立たせるアプリをクリックしてやれば、とあるサイトからの連絡が来ているのが目に入る。


「来た……!キタキタキタ……!!ついに感想が来たぞ……!!!」


 グッと力強く握りこぶしを作るのは青藍の髪を靡かせる青年。

 年齢にして20歳になる男は、を見せていた。


 そして、喜びそのままに満面の笑みで綴られた文字に目を通す。

 相変わらずに家を揺らす最高指揮官の言葉なんかに耳は傾けず、満面の笑みが――崩れた。


「『今の時代夢オチは面白くない』だと……?『せっかく魔法の扱いにリアリティーがあってそれなりに面白かったのにもったいない』だと……?『というか無理に入れ込んだ恋愛シーンが童貞すぎて見てて痛い』だと……!?おいこいつ見る目ないだろ!!は!?夢オチが1番平和的でこの世界の設定にも合ってるだろ!!なーにがこの時代にだ!!この時代だからこそいいんだろ!!」


 パソコン画面いっぱいに映り込んだのは褒め称えるとは程遠い品物。

『面白くない』という言葉がひどく胸に突き刺さり、『もったいない』という言葉が目に止まり、『見てて痛い』という言葉が心にとどめを刺す。


 結果、小説家はなにをするだろう。

 萎える。病む。小説から離れる。


 基本的な小説家ならそうだろう。だが、この小説家は世界最強。

 ただの感想1つで病むこともなければ萎えることもない。ただ、猛烈に苛立ちを覚えるだけだ。


 ――バンッ!


 ドカドカと大きな足音を立て、勢いよく窓を開く。

 広がる青空の中にポツンとあるのは真っ赤な太陽。そんな太陽の下で、世界最強は叫んだ。


「俺の作品はおもろいだろクソがーー!!!!!!」


 ビクンと肩を跳ねさせるのは柄にもなく最高指揮官。続けて目を見開く自衛隊達は、すぐさまライフルを構えた。

 だが発泡することはなく、害はないと言わんばかりに伏せた目とともに最高指揮官がライフルを降ろさせた。


「あいつが本当に世界最強なのか……?」


 ポツリとひとりの自衛隊員が紡ぐ。

 続くように『自分も思ってました』と言わんばかりに節々に声を上げる自衛隊員。


 そうして、深々とため息を吐き捨てたのは最高指揮官。


「……私も信じたくはないが、あれが世界最強の男だ。なにを血迷ったのかは知らんが、ネット環境が復活してからあいつは……」


 未だ日本に蔓延る魔物を討伐するでもなく、己の力を振る舞うわけでもなく、世界最強は小説を書き始めた。


「俺の小説は面白いんだーーー!!!!!」


 胸を張り上げ、天高くに叫び散らかす神東蒼真だが、断言しよう。

 蒼真が作り出す小説はとんでもなく”面白くない”ということを。

 想像力はあれど、設定がとんでもなくつまらないということを。


 これは、日本を救った6人の英雄のうち、世界最強の魔法使いという名の英雄に焦点を当てた現代ファンタジーのお話。

 小説を書くのはもちろんのこと、蒼真は持ち前ので、2つの意味で世界に名を轟かせることになる。

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