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朱雀15

文明が行き渡ったと錯覚する昨今であるが、現代であろうと、山奥の夜は暗い。


深夜の真っ暗な山奥、懐中電灯の小さな明かりだけを頼りに、必死になって穴を掘っている一人の男。


穴を掘りながら男はずっと考えていた。

私は何をやっているのか。どうしてこうなってしまったのか。

人生のどこで間違いがあったのか。


この穴を掘るという行為そのものは、本当に正しい行為なのか。


しかし、そんな堂々巡りの思考を遮るように、男は黙々と身体を動かし、穴を掘り続ける。

息が切れる、汗が滴る。


時々休憩する。空を見上げる。月明かりがぼんやり見える。

その月明かりに照らされて、くしゃくしゃになったブルーシートが、その存在を主張する。

男はそれを見なかったことにする。ただただ、掘り進める。一心不乱に、掘り進める。


そして穴は、ようやく、人一人入れるくらいの大きさになった。


男は一息つく。ブルーシートを見つめる

正確には、ブルーシートの横にある、穴を掘った後の土の山を見つめる。


男は気合を入れると、掘った穴に土を戻し始めた。


ひたすらに人生を顧みながら穴を掘り、特に穴に何か埋めるわけでなく、穴に土を入れて元通りにする。


精神修養の一種だと男は言い張る。


そう言われるならば、特にこちらが返す言葉はない。


穴を元通りにした後、穴掘り用の道具をブルーシートにくるみ、それをトランクに入れ、男は帰宅する。

明日もまた穴を掘りに来るのだろう。通報されたことは幾度となくあるらしいが、今のところ辞める予定はないらしい。


【穴を掘る】

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