あれから東方あんなは、俺の書いた小説の後日談となるアンサー小説を書き上げた。
タイトルは「陽光」。月光と同じ世界線で且つ、それなりに名の知れた作家が書いた小説であるのが売上に拍車をかけ、最終的には両方とも大重版がかかった。俺や喜多方の前作よりも多い売れいきだ。
「……結構売れましたね。小説」
「あぁ。本当にそうだな」
「そういや、最近、喜多方さんはどうしているんですか? あまり、噂を聞きませんが」
確かに最近は喜多方に会っていない。あんなという彼女ができて以来、極力仕事以外で女性と会うことを避けていたのもあるが、それにしても彼女からのアクションがないのは珍しいというか、一周回って不気味さすら感じる。
「そういや、前にアドバイスをもらったとき以来会っていないな。何しているんだろうな」
「電話かけてみましょうか?」
「じゃあ、そうするか」
「プルプル」という呼び出しの音が三回ほど鳴ったところで喜多方は電話に出た。
『……あ? 東方先生か?』
「はい。お久しぶりですね。元気でしたか?」
『まぁな。今はどこにいるんだ?』
「あっ、そうですね。先輩のところです」
『あぁ、そうか。仲良くやっているか?』
「まぁまぁってところですかね。それなりにやっていますよ。喜多方さんはどうですか? 小説書いていますか?」
『まぁ、ちょいちょい書いてはいるよ。でも、前みたいには書けないかな。先輩ほどのスランプではないけど、いまいち感覚が違うっていうか、そんな感じだな』
「そうですか。頑張ってくださいね。あっ、今、先輩が近くにいるので変わりましょうか?」
『そうだな。頼む』
「あ、あ~。もしもし?」
『久しぶり、先輩。お二人さんの月光と陽光、良かったよ。正直、しびれた。それと、重版おめでとう』
「あぁ。ありがとう」
『……センパイ』
「ん? なんだ?」
『書くことは殺し合うことではないと前にいったよな』
「あぁ」
『二人の小説を読んでからそれがわかったよ。書くことは生きることだと』
「!!!」
『でも、それだけじゃまだ、足りない気がするからもう少し自分探しをするよ。いつか誰かを救うそんな小説を書くために』
「……『小説家殺し』は死んだか?」
『かもな。言い替えるなら、生まれ変わったともいうかもな』
「そうか」
『じゃあ、私は少し戦場(げんこう)に向かうよ』
「あぁ。幸運を祈る」
「彼女、少し変わりましたね」
「うん。多分、良い方に」
「じゃあ、私も帰って原稿をします」
「あぁ。頑張って。じゃあ、俺も……!」
斯くして、小説家たちは原稿という名の戦場へと足を運ぶ。
かつて、小説家殺しの名を冠する小説家がいた。
かつて、神の領域へと足を踏み入れた小説家がいた。
そして、恋焦がれる月と太陽のような小説家たちがいた。
彼ら彼女らは戦地を抜けてもなお、物語を紡ぎ続ける。
書くことは殺し合うことではない。
生きることだと誰かがいった。
ならば、呼吸をするように。
体を動かすように。
果てなき物語を描き続けよう。
それが、小説家という氏名であり、使命であるのだから……。