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第61話 『ゲームってぇ、難しいもんなんだってぇ』

【十川さなぎ視点】




「すみませんすみません!」


 わたし、十川さなぎはとにかく謝り続けた。


『おっけおっけ、気にしないでー』

『そ。大丈夫。気にする必要ないわ』


 わたし達は、今、話題のゲームを一緒にやっていた。

 ファンタジー系のFPS。プレイヤーは魔法使いとなって敵プレイヤーを倒していく。

 ただ、今わたしたちがやっているこれはただ楽しむためのゲームではなくなっている。


 Vtuber達が集まって戦う大会に【ワルプルギス】代表チームのひとつとして出場するのだ。


 わたし達のチームメンバーは、わたしと、


『ちょっとあたしの指示も甘かったですねー。もう少し予測しっかりやっていきます』


 ゲームが得意で神動画も生み出しているガガちゃん。そして、


『二人の癖大分掴んだから次はもっと合わせられると思う』


 すぐに学習してモノにする天才として話題だったピカタさんが転生したマリネさん。

 この二人は分かる。ゲームが物凄くお上手だ。


 だけど、わたしは、正直ゲームがうまくない。

 何故選ばれたんだろう……。




 それは突然の話だった。

 会社に呼び出され、


『今度ね、Vtuber達のゲーム大会があって、さなぎにもチームに参加して欲しいの』


 新人のわたしに断る理由はない。

 けれど、断りたい理由はたくさんだった。


 反射神経が鈍い。ゲームがうまくない。人とのコミュニケーションがうまくない。

 失敗するのが怖い。大会というものが怖い。なにより……


 なのに、わたしはやっぱりその場で意見を言えず、ただただ頷くだけだった。


 ワルハウスに帰り、すぐにゲームをダウンロードし、やってみる。

 大会では、3人組となって、4チームが戦うバトルロワイアル方式で予選、3チームでの準決勝、決勝となる。

 つまり、味方、敵が入り混じり忙しない戦闘になってしまうのだ。

 試しに複数のCPUとの個人戦をやってみるが、視点がぐるぐる切り替わるし、360度そして、上下全方位に意識を張り巡らせないといけなくてついていけなくなる。


 しかも、これでチームプレイもしながら?


 わたしはとにかく戸惑い続けた。

 そして、初のチーム練習の日に、わたしは自分の実力不足を実感していた。


「すみませんすみません!」

『おっけおっけ、気にしないでー』

『そ。大丈夫。気にする必要ないわ』


 ガガちゃんとマリネさんはそう言ってくれている。

 けれど、気にしないなんて絶対無理だ。


『ちょっとあたしの指示も甘かったですねー。もう少し予測しっかりやっていきます』

『二人の癖大分掴んだから次はもっと合わせられると思う』


 ガガちゃんの指示は的確だった。わたしにすべきことをしっかり指示してくれているし、その上でフォローまでしてくれていた。

 前に、ソロプレイしていたガガちゃんのアーカイブを見たけど、ものすごく上手くて、今日は完全にわたしが足を引っ張っていた。

 マリネさんはスタートこそわたしよりちょっとうまいくらいだったがすぐに感覚を掴み始め、徐々にわたしのフォローをし始めてくれていた。


 わたしが邪魔をしている。

 なんとかしなきゃなんとかしなきゃと思えば思う程、頭が回らない、手が動かない。

 ただただ、意味不明な動きを繰り返し、二人に庇ってもらう始末。

 どうして……。


『……う~ん、さなぎがパニくってるみたいですし、ちょっと休憩しましょっか』

『そうね。さなぎちゃん、ちょっと落ち着きましょう』


 二人はそう言ってくれる。

 けど、落ち着けと言われて落ち着ける人間とより落ち着けない人間がいる。

 わたしは完全に後者だ。

 自分の頭の中で濁流が渦巻いて、何も考えられない。


「はい……」


 わたしは、パソコンから離れ、ベッドへと倒れ込む。

 そして、わたしはぐっちゃぐちゃの意識を手放し、少しだけ眠ることにした。

 はずだったのに! 


 気付けば、凄い時間が経っていて、配信もすぐに準備を始めなきゃいけない時間!

 やばい! 二人は……とメッセージを開くと、


『大分お疲れみたいだったし、次回の練習はまたにしましょー☆』

『今日はお疲れ様。また、次回一緒に頑張りましょう』


 そんなメッセージが届いていて……ふたりともとっても優しいのにわたしは……!

 ひとまず謝罪の言葉を送り、わたしは配信の準備を始めたけど、その日の配信は、何もかもがうまくいかずよりわたしを落ち込ませた。


 今日はいつもなら配信前に食べる夕食も遅くなってしまった。いや、遅くしてしまった。

 今なら、ガガちゃんはお出かけだし、マリネさんも配信している時間だから。

 わたしは卑怯だ。ふたりと顔を合わせたくないから、わざわざ時間を遅らせた。


 ルイジさんはいつもより遅くなるので、置いておいてくださいとお願いしておいた。

 なんだかルイジさんとも顔を合わせたくなかったから。

 なのに、


「あ、おつかれ。さなぎちゃん。今日はごはん、小盛? 並盛? 大盛?」


 エプロン姿のルイジさんが、マリネさんの配信を見ながら、ごはんを温めなおしてくれていた。


「もし、邪魔なら部屋に戻るけど、よかったらマリネの配信見ながら、一緒に食べない?」


 いやだいやだいやだ、今日のわたしはいやだ。

 ルイジさんが嫌なんじゃなくて、今日のわたしを見せたくない。

 なのに、わたしは


「はい……」


 あったかそうな湯気の向こうでやさしく笑っているルイジさんを見て、思わず頷いてしまっていた。

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