【天堂累児視点】
家事と言われて思い浮かぶものは、炊事、洗濯、掃除がパッと出てくるだろう。
食事については、一先ず心配はしてなかった。
そーだがいたから大丈夫だろうと。
基本あまり皆料理が得意ではない。
姉さんに至っては壊滅的だが、そーだは普通に料理が出来る。
なので、油断していた。
「はい、あ~ん♪」
作った後にこんな事が起きるなんて。
俺は今、朝食を食べさせられていた。
そーだによって。
そーだは言った。
「作った人に対して文句言っちゃだめですよ」
と。
その気持ちは分かる。俺は作る側だ。
勿論Vtuberであるみんなの体調を考えると要望は言って欲しいが、文句を言われると傷つくものがある。
まあ、ガガに嫌いなものを食べさせようとした時と、さなぎちゃんが量がちょっと少ないかもですって言われたくらいしかないけど。
でも、一生懸命作ったものだ。文句なんて言うべきじゃない。
けど、
「あのー、この状態はなんとかなりませんかね?」
「もう……作った人に文句言わないでください」
「いや、文句って言っても料理に関してじゃなくて、食べ方に関してなんだけど!」
全部あ~んで食べさせられるなんて聞いてない!
しかも、そーだはめちゃくちゃ箸の使い方が上手で、凄く小さく分けてこともなげに口元まで持ってくる。
いや、もっと大きくてもいいんだよ?
「おいしいですか?」
「おいしい」
「じゃあ、あたま撫でてください」
「おいしいよ」
「うふ」
あれ? これ? おれ、休めてる?
料理も作らなかったし、箸さえも持たなくていいこの状況は確かに楽と言えば楽だ。
だが、その箸を持たなかった手で頭撫でてるんだが?
「あ……あのー、ちょっとお水を……」
「飲ませてあげますね」
「いやいやいや! 流石にむせちゃうから」
「そうですね、あ! じゃあ、口移しなら」
「はい! ライン越えぇえええええええええ!」
多少は俺も見逃す。それでテンションが上がっていい配信が出来るなら。
だが、それは完全にアウトだ。
そーだはしょぼんとしているが、なんで?
「そーですか……でも、なんでも本当にやってあげますからね、そーだはるいじさんの為なら。なーんでも」
そーだが笑っている。だが、目にハイライトがない。
『なーんでも』が怖すぎた。マジでなーんでもしそうでこわい。
そんなこんなでそーだとの朝食を終える。
「あ、そういえば……洗濯」
「あ、洗濯はうてめお義姉様がやるって言ってましたよ」
「はい! ライン越えぇえええええええええええ!」
「ええ!?」
俺は叫びながら二階への階段を上がる。
突然だが、ワルハウスには二階がある。
そして、二階には別に、風呂、洗濯場、トイレがある。
ほぼ俺専用だ。
それは社長が気を利かせて作ってくれた。
流石に俺も風呂やトイレでのエロハプニングとか起きて間違い起こしませんとは言い難い男の子ですみません。
というわけで、コンパクトではあるがそれらが存在する。
その洗濯場に飛び込むと、そこには姉がいた。
愛おしそうに俺のシャツを嗅ぐ姉が。
「はい、ライン越えぇえええええええええええ!」
「る、累児!? ち、違うのこれは!? どれだけ累児臭がするか確認しようと!」
「確認しても洗濯するんだから一緒でしょうが!」
「累児臭がするものは処分するのよ」
「あ、ああ……なるほど、臭すぎるやつはね……ん? 待って。処分ってどうするの?」
「時代は、SDGsだから私の部屋着にするわ」
「はい、ライン越えぇええええええええええ! 累児センシティブゥウウウウウウ!」
「パンツは我慢したのに!?」
「よく我慢しました! じゃねぇええええんよ!」
本当に姉さんが心配になってきた。
まあ、俺もすぐに察してしまったわけなんだけど。
姉さん曰く『間をとって』一緒に洗濯することで少しでもと言っていた。
良く分からないが、もう面倒なので無視した。
「累児」
「今度は何? 姉さん?」
「この格好は趣味じゃなかった?」
俺は冷静になって、姉さんの恰好を見てみる。
なるほど、大きめのダボダボシャツ一枚みたいな格好だ。
「彼シャツじゃなくて! 俺シャツウウウウ!」
気付かんかった! マジで持っているものに意識をとられて気付かんかった!
「そーだがほぼ裸エプロンして元気になってもらうって言ってたから、どうかなって」
「大変可愛いとは思いますが、ツッコむ元気が出てHP削られています!」
「これはまだ累児臭がするの」
「洗ってぇええええええ!」
下にはちゃんと短パンを履いていてくれてよかった。よかった?
洗濯はもうこれ以上何も起きないだろうと一階に下りると掃除機の音。
いつもなら洗濯を終えた俺が配信を聞きながら掃除をしている。
だが、今日はノエ様がやってくれている。
だが、なんでだろう。
「なんでメイド服なんですか?」
ノエ様はメイド服を着ていた。しかも、ちょっとえっちぃ方のスカート短いやつ。
「え!? だって、そーだもほぼ裸エプロンだし、うてめも彼シャツだから、今日は累児が元気になるようコスプレする日なんじゃないの!?」
「そういう日じゃないです」
そもそも心が休まらないんですが。
だが、かわいいです。ありがとうございます。
「まあ、でも、かわいいですし、眼福って感じではあります」
「そ、そう……なら、良かった。あ! でも! パンツは見えないからね。ちゃんと見えないよう履いてるから」
「ありがとうございます。あなたはラインの守り神です」
俺が怒るからじゃなくて自発的に自己防衛してくれるノエ様が輝いて見えた。
あの二人は、なんでもオッケーにしたらマジで即BANな恰好で迫ってきそうで怖い。
「そ、そこまで言われるとなんか怖いんだけど……まあ、とにかくゆっくりしてて」
「はい」
「あ、リビングは終わらせたわよ。これでどう?」
「はい、すごくキレイです」
「……! そ、そう!? 本当にそう思う?」
「は、はい、キレイです」
「ん、んふふふ……じゃ、じゃあ、次キッチン掃除するわ!」
ノエ様は嬉しそうにキッチンの方へ行った。
まあ、料理に限らず自分のやった家事を褒められたらうれしいよな。
「終わったわ!」
「はや!」
ノエ様が息を切らせながらやってくる。
「お、お疲れ様です。ありがとうございます」
「……あ。あの! ちょっとチェックだけしてもらっていい?」
そう言われると、ノエ様に手を引っ張られ連れて行かれる。
キッチンはあの短時間でここまでやったらそれは息も切らすよなってくらいキレイだった。
「ど、どう?」
「すごいキレイです」
「んふふ~、そうでしょそうでしょ! じゃあ、次ね!」
その後も、
「トイレどう!?」
「キレイですね」
「えへ~」
次から次へ
「廊下どう!?」
「とってもキレイです」
「いや~、そうかにゃ~?」
連れ回され
「お風呂どう!?」
「え、と……キレイですね」
「んふふ~ってほんぎゃあああ! 見ちゃ駄目~!」
「ですよね~!」
あ、ちなみに、ノエ様の意見でお風呂と洗濯場だけは交代で女性陣が掃除している。
そして、最後に……
「玄関どうよ!」
「いや、ピッカピカですね」
ノエ様が掃除したところは本当にピカピカで眩しいくらいだった。だが、
「……そ」
ノエ様が不機嫌だった。なぜ!?
「え、あー、えー」
どういうことだ!? 何故急に!?
考えろ、天堂累児! お前は、Vtuber専用神の耳を持つ男!
この声の理由を見つけるんだ。
は!
「ノエ様、(玄関)凄くキレイで惚れ惚れしました」
「……ぁ! そうでしょそうでしょ!」
この人、一番先輩なんだけどな。
後ろに尻尾が見える。ぶんぶん振られている。
『キレイ』って自分が言ってもらってる感覚になれるから頑張れるって……。
俺は思わず笑ってしまう。
「なに笑ってるのよ……」
また不機嫌になるノエ様。いや、不機嫌というか照れたような……。
だから、俺はノエ様を見て口を開く。
「いや、かわいいな、と思って」
「かわ……!」
ノエ様は真っ赤になって照れ始める。
「あーもー! やだー!!!!」
パニくったノエ様は、自分のスカートを持ち上げて顔を隠そうとする。
いや、いくらなんでもそれは!
慌てて俺は背を向ける。すると……
「るいじさん……そーだお皿洗ったんですけど、これどうですか?」
「累児……姉さん、服を洗濯したんだけどどう?」
天堂累児的二大激ヤバ女性二人がハイライトを消して、真っ白な皿とシャツを持って、俺に迫ってきていた。なんのホラゲ? 斬新すぎるんだが。
「そーだ、キレイだよ。姉さん、キレイだよ」
悪霊は消えた。一瞬で消えた。照れ顔の天使が二人いらっしゃいます。
ホラゲとしては駄作かもしれませんが、天堂累児的にはこのくらいの難易度が助かります。
「まあ、でも、本当に三人ともありがとう」
そう言うと、三人は顔を見合わせ、俺に向かって笑って言う。
「ルイジ(さん)も、いつもキレイにしてくれてありがとう」
家事だって大変だ。
でも、こう言ってもらえたら元気も出てくる。また明日からも頑張ろうって思える。
俺の休日、午前はスッキリ晴れ晴れ、そして、キレイな気持ちで終わっていった。