二階のほぼ俺専用風呂から上がりそのまま部屋に帰ろうとすると、
「ルイジ」
後ろから声をかけられ振り返る。
マリネだ。
配信が終わったであろう彼女が紙を持って立っていた。
「どした? マリネ?」
「あの、手紙を書きました」
手紙。
マリネは本当に手紙にハマった。
何かと手紙にしたがる。
で、みんなに渡す。
みんなも手紙なんか貰うと喜ぶから大切そうにしている。
それを見て、マリネはまた手紙を書く。
そんなマリネの手紙。
俺も有難く受け取ろうと、手を伸ばすと、すっと下がられた。
何故?
「今日の手紙は読みます」
読むらしい。
「前略」
前略から入るんだ。
「ルイジへ。いつもおいしいごはんをありがとう。きれいにお掃除ありがとう。話を聞いてくれてありがとう。今日はゆっくり休めましたか。休めていたらなによりです。ワタシは、ルイジともっともっと一緒にいたいです。みんなと一緒に、ルイジと一緒に。だから、長生きしてほしいです。だから、疲れたら無理せず休んでください。ワタシも気を付けるので、ルイジも気を付けてください。いつもありがとう。……で」
「……で?」
そこでマリネは止まってしまった。
まだ何か続きはあるようなのだが、口がもにゃもにゃしてるだけで開かれない。
何か言いづらいことなんだろうか。
「あの、マリネ。無理して言わなくても。気持ちは伝わってるから。心配してくれてありがとう」
「ちがう」
違うらしい。
違うの?
「あのー、そのー」
マリネにしては歯切れが悪い。
手紙にしても言いづらいことこととは。
「その、あの、ですね。えー……あの、だ。えー、だ」
「だ?」
マリネは手紙で顔を隠してしまう。そして、
「だいすき、です……」
そう言った。
俺でなくても声で分かる。
手紙の向こうにいるマリネは真っ赤だろう。
「敬具!」
敬具で終わるんだ。
「つ、伝えたかっただけだからあ! あの、おやすみなさい」
マリネが手紙を持ったまま、走り去っていく。
俺は、その手紙くれないんだと宙ぶらりんになった右手を頭に持っていきポリポリと掻いた。
勿論Vtuberとしての彼女達は大好きだ。
それに、普段の彼女達もかわいいのは間違いない。
ただ、もし一人の女性として愛を俺が返すことが出来るかというと不安しかなかった。
だから、愛されることが怖かった。
だけど。
もしかしたら、家族のような、仲間のような、友達のような、そんな愛も含まれているのかもしれない。
マリネの声を聞いて、はっきり声に出した愛の言葉を聞いて、そう思った。
勿論ちゃんとした答えを出さなきゃいけないけれど、一先ず、今日はことばに出来ないあたたかい気持ちを抱いてゆっくり眠った。
姉さんが何故か待ち構えていたけどもう無視して寝た。
まあ、姉さんも疲れていたからすぐ寝たけど。
俺は、一日中しあわせな気持ちで休日を過ごし、また明日から頑張ろうと思うのだった。
そして、その数日後、姉さんが、倒れた。