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第75話 『てぇてぇってぇ、どこまでもてぇてぇ』

「ルイジ、ヤミとケッコンしてくれナイ?」

「「「「「「「「はあ?」」」」」」」」


 観衆の度肝を抜くような圧倒的な声量で歌い、魅了した彼女の一言で、控室は凍り付いた。


 なんで今言う?


 今日は、ワルプルギス主催のVtuberライブ。

 しかも、うてめ様が200万人突破したこともあって、事務所はかなり力を入れていた。

 ゲストも呼んでいた。


 その内の一組が、


「ちょっと、ルイ。コイツは駄目よ。あたし、認めないから」

「だだだだだめですよお! るぅちゃん!」


 個人Vtuberだが滅茶苦茶勢いがあり、ワルプルギスとも非常に繋がりのあるるぅしーど。

 そして、勢いなら一番あるワルプルギスの最近展開し始めた海外支部のエースVtuber。


「これは、ヤミとルイジの話なのデ、ブラジャ? ブガジャ? ブガイシャ! は黙っててくだサイ」


 ヤミ。イギリスからわざわざこの為だけに来日した今一番伸び続けているワールドワイドなVtuberだ。


「ルイジがウテウトだなんて、サイコーです! ルイジが居てくれれば、ワタシはサイコーのVtuberになれマス! それに、うてめ様がオネーサマなんてサイコーです! イッショにカイガイシブもりあげまショー!」


 そう。ワルプルギスは海外進出を果たしたのだが、選ばれたのがとにかく癖の強い人物ばかりで、俺はこれまた相談を受けていた。

 紆余曲折あり、ヤミとは仲良くなったのだが、まさか会って早々にプロポーズされるとは思わんかった。


 そんなヤミと、マリネ、そーだ、さなぎちゃんが向かいあう。


「(英語)ルイジさんもうてめお義姉様も貴方には渡しません。お引き取り下さい」

「(英語)はあ? そちらがお引き取り下さい。このキッズを」

「ききききっずってわたしのこと見て言いました!? てめーらなめんなよお!」

「さなぎどんまい。(英語)おい、ばばあってキッズに言われてるぞ、ばばあ」


 珍しくさなぎちゃんが興奮している。だけど、間違いなく静かに笑いあうヤミとマリネとそーだの方が怖い。よくわかんないけど、多分ライン越えスラングを連発し続けている。


「ひひ、何を下らない話をしてるんだか。ルイジは、最終的にボクを選ぶんだよ。無駄な争いはやめたまえよ」


 出番を終えた小柄な女がパーカーのフードをかぶったまま体育座りでこっちを見ていた。


「いいかい? ボクは彼の幼馴染なんだよ? 圧倒的アドバンテージ! そして、Vtuberにもなった! 諦めて彼を返してくれないかなあ?」


 他事務所【めたばあ】の丸尾るか。

 今日は他事務所でもあるにかかわらず、今回のライブに参加してくれた、俺と姉さんの幼馴染だ。俺も知らなかったんだが、彼女はVtuberを目指していたらしく……いや、ぶっちゃけた話をしよう。俺の気を惹くためにVtuberになったらしい。

 圧倒的なゲームセンスと機械の知識で、【めたばあ】を支えるVtuberに。

 今、ワルプルギスに次いで勢いのある事務所のエースだ。


「返す? 累児は私のものよ。大体、幼馴染よりも姉の方が圧倒的に近い存在なんだから。事務所ごとぶっとばすわよ」

「大体、幼馴染なんて負けフラグビンビンキャラじゃないっすか~? 圧倒的負けフラグ! この前ゲームで勝ったからってチョーシこかないでくださいよお?」


 姉さんとガガが両サイドからるかを挟むとるかは慌てて俺の元へ逃げ込み。


「ひいいいいいい! ルイジ~! アイツらが虐める! あんな奴らの事務所に関わるのはやめてウチに来なよ! キミが居れば勝てる! 大体、幼馴染負けフラグはもう古いんだよ! 幼馴染負けフラグブレイクが今の流れなんだ!」


 コアラのように俺に抱きつきながらガガや姉さんに向かって叫ぶ。

 おい、火に油を注ぐな。他事務所の控室で良くそれだけ騒げるな。


「ああああああああ! またっ! アンタは! オレが目を離した隙に女の子をたぶらかして! 何してんスかあ!?」


 またややこしいのがやってきた。

 黒髪ショートの凛々しい女の子が入ってくる。

 ワルプルギスの新入社員の、榛名千代さん。

 彼女は、オレっ子で基本的に恋愛対象としてどっちでもいけるらしく、ワルハウスの寮父が俺だと知って、見張る為に(あと、己の欲望の為に)ワルハウスに入ってきた。

 取り締まってくれるのはいい。俺としても助かる。だが、彼女には致命的な欠点があって、


「さっさとその子を離すん……どわああああああ!」


 勢いよくこちらにやってきた千代さんが何もない所で転び、俺の方に倒れかかってくる。

 貧弱なるかだと怪我をするかもしれないと慌てて剥がすと、彼女はそのまま飛び込んできて倒れ込んでくる。


「いたたた……あの、ごめんなさああああああ!?」


 彼女は顔を真っ赤にして叫ぶ。それもそのはずだろう。

 彼女は俺の顔面に思い切り胸を押し当てる形になっていた。


 そう。彼女は死ぬほどおっちょこちょい。

 そして、どこのラブコメ主人公のヒロインってくらいエロハプニングを起こしてくる。


 これには参った。エロハプニングも勿論なんだが……。

 千代さんの両脇を抱え力強く持ち上げるノエさんとツノさん。


「おい、エロハプニングはツノ様のモノって言ったでしょうが」

「なんで貴女は毎回毎回ルイジにそうやって、うらやま……じゃない! 馬鹿なの!?」

「も、も、申し訳ないっス~、うへへ」


 千代さんは二人に責められ満更でもない表情を浮かべる。

 マジでカオスだ。年々カオスが酷くなっていく。

 俺は、ただ、Vtuberを応援したいだけなのにぃい!


 でも、海外との絆とか、他事務所との対決とか、スタッフとの協力とか、絶対てぇてぇんだよなあ……。


「ほら! アンタ達はもう出番でしょ! そんなにルイジ君をモノにしたいなら、ちゃんとVtuberとして一番心を奪って見せなさいな! るぅしーどさん達、個人Vtuberさん達よりも、他事務所のめたばあさんよりも、海外勢よりも!」


 社長の一声で空気が変わる。流石社長。だけど、俺を餌にする一本でコントロールしようとするのそろそろやめてくれません?


「行くわ、累児見ててね」


 姉さんがそう言うと、みんなは舞台袖へと向かって行く。


「頑張って。画面の向こうで応援してる!」

「舞台袖でもいいし、関係者席でもいいのに」


 みんなを見送る俺。そして、その横に来た社長が分かってるくせにそう言う。


「俺もみんなと一緒に肩並べて見たいんで」

「根っからのVtuberオタクね」

「……まあ、そういうトコだけは尊敬してまスよ、オレも」


 後ろから服を整えながらボソリと千代さんが呟いた。


「まあ」

「そそそそういうトコだけっすからね!」


 社長に揶揄われた千代さんが慌てて駆け出す。また、何かやらかさなきゃいいけど……。


「貴方達はルイジ君と一緒じゃなくていいの?」

「ルイジとイッショだとシュウチュウ出来そうにないカラ」

「ボクも。それに、ボクらは同じVtuberで、ライバルだから。近くでじっくり勉強させてもらうよ」


 俺は、二人が彼女達を見つめるその熱い瞳にてぇてぇを感じながらみんなを見送り、移動する。


 俺の控室。そこにはパソコンがあるくらい。

 だが、それは俺の魔法の宝箱だ。

 彼女達に会える魔法の。

 開けば、光が溢れ、彼女達が姿を現す。




 さあ、ライブだ!




『つののこお! おめーらのつの立ち上がってんのお!? 神野ツノ様、降臨!』

『あんた達! しょっぺーツラしてんじゃないよお!? 元気出していきなさい! 塩ノエ!』

『きょうもみんなといっしょに自由に……とぶぞー! 十川さなぎです』

『ががががぎぎぎぎぐぐぐぐげげげげごごごご! やっぱり一番、ガガ強―い! 加賀ガガー!』

『みんな一緒に楽しみたそーだね? そーだよ、そーだがそーしてあげる。楚々原そーだです』

『みんなああああ! 宴だ集まりねえええええ! 尾根マリネぇええええええ!』

『てめーら、たかまつてる? 高松うてめです!』


 ドアを閉じていても響いてくる会場の歓声。

 そして、それに負けじとコメントで叫ぶ視聴者たち。


『今日は、このライブ【ワルプルギスの夜】にお集まりいただき本当にありがとうございます。スペシャルゲストとして、海外チームから、ヤミ。そして、他事務所でありながらオファーを受けてくれた丸尾るかさん。また、るぅしーどのお二人も本当にありがとうございました。……どんなお仕事でもそうではあるんですが、私達は、皆さんの声が、心が、魂がないと生き続ける事が出来ません。本当にみんないつもありがとう』

〈こちらこそだよ!〉

〈いつもありがとー!〉

〈888888888〉


『そして、私達の身体を支えてくれるスタッフのみんな、ママやパパ、いつもありがとう』

〈ワルスタッフの皆さんありがとう!〉

〈ママー! うんでくれてありがとー!〉

〈パパのお陰でうてめは今日も元気いっぱい動けます!〉


『そして、仲間? 友達? 親友? 家族? 先輩後輩? ライバル? 敵? 赤の他人? とにかく、Vtuberのみんな、ありがとう』

〈ありがとー!〉

〈赤の他人w〉

〈みんな最高やで〉


『そして、ウテウト。ありがとう』

〈ウテウト!〉

〈ウテウト様!〉

〈ウテウト神!〉


『魂があり続ければ、続ける事は出来るかもしれないけれど、魂は削られることも傷つくことも弱らされることもあります。一人ぼっちになった気になって、夜の中、在り続ける意味を探したこともあります。でも、絶対に一人じゃない。一人じゃないから、一人じゃないなら、小さくても弱くても輝き続ける意味を信じて。輝く星と星が繋がって神話が生まれたように、私の輝きと誰かの輝きが繋がって新しい素敵な物語が生まれることを信じて。みんなと繋がって生きていたい。そう、思っています』


 色んな人の愛によって生まれた身体で、顔で、魂で、みんなはそこに立っていた。

リアルな人間よりも表情は乏しいかもしれない。

 だからこそ、みんなはそこに自分と彼女だけの感情を、輝きを、物語を、見出す。


『Vtuberは不自由で自由な存在です。みんながいないとなんにも出来ない。でも、みんながいればなんでも出来る。だから……一緒に生きていこうね。聞いてください、【エプタ・ペタル】』


― ♪花咲く日を夢見続けて 暗い土の中もがき続けていた ―


 高松うてめの歌【つぼみ】のようで少し違う歌とメロディーが流れる。

 どん! という音が鳴り響き、会場で光と花びら、そして、彼女達が舞い踊り始める。


 ワルハウスの彼女達とそれを支えるみんなの歌が世界に流れていく。


 この曲は、世界的大ヒットとなった【Te-Te】のアーティストであるヤミの兄が作ってくれた最高の曲だ。

 そして、歌詞は……ある意味俺が作った。

 実際には、ワルメンバーのファン達から歌詞を募集して、俺があーだこーだ考えながら並べて繋げて作ったものだ。

 だから、作詞は、ウテウトwithファンとなっている。なんでだよ。

 ただ! ただ! 話題にはなったらしい。ならいいけど。


 それに彼女達の事を考え、彼女達を応援するファン達が作ってくれた言葉を歌う彼女達は本当に嬉しそうだった。


 マリネが本当に嬉しそうに大きく口を開けて大声で歌っている。


― ♪私のキモチの高まり ねえ、届いてる? じゃあ、言葉にして伝えるね ―


 ノエさんが何度も何度も映像には映っていないはずなのに見えてくる涙を拭っている。


― ♪あなたの笑顔がわたしのしあわせ あなたの涙がわたしのかなしみ ―


 ガガが来てくれた観衆一人一人、そして、カメラを見つめながら悪戯っぽく笑う。


― ♪わたしが頑張る事で 力になれるなら ―


 ツノ様が手を大きく振り上げて、もっと盛り上がれと立ち上がれと煽り叫んでいる。


― ♪何度だって諦めずに 立つの ―


 そーだが今ある幸せをかみしめるように胸元を押さえながら微笑んでいる。


― ♪明日もきっといい日になりそうだ  だから、がんばれV! ―


 コメントを打つ指がとれそうだ。

 目じゃ追えない程の速さ、画面から溢れるんじゃないかというコメントの嵐が巻き起こり、意味分からない涙があふれてくる!


― ♪そう! ―


 感情が爆発する! てぇてぇ!


 さなぎちゃんが号泣しながら歌っている。


― ♪一人で越えられない壁なんて みんなでさ、薙ぎ倒していけばいいんだから ―


 そんなさなぎちゃんをマリネやそーだ、ガガが支えながら笑いあいながら声を合わせて歌う。


― ♪そう! ―


 姉さんが愛おしそうな目で世界を見つめながら言葉を届ける。


― ♪自由に何でも出来てしまいそう てめーらのさ、愛がおしてくれてるんだから ―


 ノエさんとツノ様がうてめ様に肩をぶつけてきて笑いあっている。


― ♪ワルプルギスの夜を越えて あり得んほどの力を得て―


 みんなが声を合わせて精一杯叫ぶ 世界の隅っこで泣いてる人にも届くように。


― ♪さあ、行こう最高に明るい自由な空へと 一緒に ―


 最後のフレーズは変えてほしかった。まあ、気付く人はいないだろうけど。

 画面の向こうで彼女達が笑っている。

 喉に良いドリンクを用意しておくか。

 俺はパソコンを切って立ち上がろうとする。

 そこには決して男前ではないけれど、とても良い笑顔をした普通の男が電源の落ちた画面に映っていた。



 さあてと、今日もVtuber支えるために頑張りますか!






『クビになったVtuberオタ、ライバル事務所の姉の家政夫に転職し気付けばざまぁ完了~人気爆上がりVtuber達に言い寄られてますがそういうのいいので元気にてぇてぇ配信してください~』

 第二部 寮父になったVtuberオタ、Vtuberの応援を全力でし気付けばてぇてぇ増量   完

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