スマートフォンの電源を切り、引き出しにしまう。
浴室の扉にはバリケード。すべての鏡は処分し、テレビはもう部屋にはない。
阿川真司は、その夜も――いや、もはや毎晩、明け方まで眠れぬままベッドで天井を見つめている。
窓の外で風が吹き、街灯の明かりがカーテン越しに揺れる。
(今夜こそ、何も起きないよな……)
祈るような気持ちで目を閉じ、ようやく浅い眠りに落ちた、その時だった。
――リン、リン、リン……
聞き覚えのない着信音が、部屋に響く。
「……は?」
枕元のスマホが、なぜか煌々と画面を照らしている。
画面には、“非通知”の代わりに、
“■■■悪霊■■■”
と文字化けした名前と、意味不明な記号の羅列。
「……マジかよ……」
恐る恐る、画面をタップする。
深夜の静寂に、不気味なノイズが混ざる。
『……また今夜いく……契りをむすぼうぞ……』
囁くような、あの女の声。
次の瞬間、着信は切れ、
画面には“また来るね”というメッセージが、無数にスクロールしていく。
ぞわり、と全身に冷たい汗が浮かぶ。
真司は、言葉もなくスマホを閉じ、ふたたびベッドに潜り込む。
だが、部屋のどこか、いや耳元で――
『きっと来る、きっと来る、きっと来る……』
あの女のかすれ声が、永遠に囁き続けていた。
もしかしたら、次は――あなたの部屋にも、“あの女”がやって来るかもしれない。
【終】