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第7話 エピローグ ――「また今夜、きっと来る」

 スマートフォンの電源を切り、引き出しにしまう。

 浴室の扉にはバリケード。すべての鏡は処分し、テレビはもう部屋にはない。

 阿川真司は、その夜も――いや、もはや毎晩、明け方まで眠れぬままベッドで天井を見つめている。


 窓の外で風が吹き、街灯の明かりがカーテン越しに揺れる。

 (今夜こそ、何も起きないよな……)

 祈るような気持ちで目を閉じ、ようやく浅い眠りに落ちた、その時だった。


 ――リン、リン、リン……

 聞き覚えのない着信音が、部屋に響く。


「……は?」


 枕元のスマホが、なぜか煌々と画面を照らしている。

 画面には、“非通知”の代わりに、

 “■■■悪霊■■■”

 と文字化けした名前と、意味不明な記号の羅列。


「……マジかよ……」


 恐る恐る、画面をタップする。

 深夜の静寂に、不気味なノイズが混ざる。


『……また今夜いく……契りをむすぼうぞ……』


 囁くような、あの女の声。


 次の瞬間、着信は切れ、

 画面には“また来るね”というメッセージが、無数にスクロールしていく。


 ぞわり、と全身に冷たい汗が浮かぶ。

 真司は、言葉もなくスマホを閉じ、ふたたびベッドに潜り込む。


 だが、部屋のどこか、いや耳元で――


『きっと来る、きっと来る、きっと来る……』


 あの女のかすれ声が、永遠に囁き続けていた。


 もしかしたら、次は――あなたの部屋にも、“あの女”がやって来るかもしれない。




【終】



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