真っ黄色の視界。目がしょぼつくかと思ったがそのようなことはない。また、このような消化演出がある地形では、アバター消失の現象が起こるはずだった。
なのに溶解デバフは起こらない。最近はリアリティ重視のゲームも増えて来ていて、とあるゲームではアバタークリエイト部門で賞を取ってるくらいだ。
だから、このゲームもそのような機能があってもいい。いや、むしろスリリングさ重視なら、そこを大きく出した方がいい。
こういう空間でこそ、時間制限システムを実装して欲しいくらいだ。私はひたすら泳いだ。もちろんどこへ向かってるかは不明だ。
まっすぐ、ただまっすぐ。黄色の液体を掻きながら進む。上空からの騒音。タイランがなにかを飲み込んだ?
身体が上へ上へと引っ張られる感覚。下には透明な液体が器を作るように流れてきていて、それが海水だと知る。
つまり、水を飲み込んだことで水位が上がったらしい。これでは目的の場所まで……。
「ん? あんなところに……」
見つけてしまった。胃液が薄まったことで視界が開け、出口を発見する。私の勘ではこの近くに電流を発生させるコアがあるはずだ。
泳いで出口に着くと、ようやく休める段階に来た。エネミーと
身体をしっかり伸ばし、感覚の異変がないかを確認すると、近くの膜を剣で引き裂いた。
そこから、別空間への移動をする。出た先は空洞で、照明が何故かあった。ここは生物の体内で、その中に街が形成されている。
歩き回っているのは全てゴブリンだ。魔物の街になってて、自分がここを破壊してるのに気がつくと少し申し訳ない。
まずは状況確認。この照明が電流コアで機能しているのなら、コアを破壊すれば真っ暗だ。
しかし、無闇にこの平穏な空間を壊そうとすると、本当に悪いことをしたと後々後悔する。
「どうすっか……」
思わず本心が漏れる。ここを壊したくない自分と、クエストをクリアしたい自分が、今せめぎ合っている。
こんな状態で戦えるのか? それだけが心配だ。
「おや、お客さん。何しに来たんだい?」
私が少し歩いたところで、一人のゴブリンが話しかけてきた。とても優しそうでスッキリした輪郭の青年ゴブリンだ。
「どうやら君はクエストで来たようだけど。自分たちではそれを可能にする術がないんだ」
これはNPC? それにしても、状況理解がしっかりしている。
「たしかに私はクエストで来たが……」
「そうかいそうかい。自分はここに移り住んでから数年が経過していてね。今移住地を探しているんだ」
「移住地?」
「そうだよ。
「なるほど。まあ、お前たちはゴブリンだし。地上は敵扱いされるかもな」
「そう、そこなんだよ」
受け答えがしっかりしてきた。これはNPCではない。クリムと同じ部類だ。私は、ここに来た理由を全て説明した。
ゴブリンもタイランの体内で生活してる理由を説明してくれた。このゴブリンの名前はどうやらリクというらしい。
偶然なのか、私の兄の名前と一緒だ。それで余計に親近感が湧く。
「リク。お前はどんな場所を希望しているんだ?」
「どんな場所……ねぇ」
「ん?」
「いや、自分はここの外の世界を知らないから、想像もできなくてね……。どうしたものかと。だから新しい土地を探せないでいる。っと説明したらわかるかな?」
「まあな。私がこのゲームの運営だったら、すぐに新エリア開拓するんだが……」
私がそう言うと、リクはハッとしたように走っていった。彼を追いかけると、コンソールのような物を見つける。
リクはこれはもしもの時に使ってくれと、
「もしもの時……か。ちょっと起動するか確認させてもらう」
「お願いします」
私はコンソールの操作を開始する。そこからゲーム改変のページに飛び込んだ。一般プレイヤーにこんなことをさせて平気なのかと、疑問に思う。
次に検索ページを表示させた。そこからプログラミング言語の一覧を開く。
使われているプログラミング言語を手探りで探し出し、ヒットした単語で改変させる。
まずはこの海全体の広さ。そこをゲームの全体容量に合わせた最大数まで上げる。そこから、新しい地形の生成。
私は絵が苦手なので、自作の地形は作らない。実在する地形をベースにカスタマイズを行い、外部空間に投下させた。
次にそこへ繋がるゲートだ。それを生成させると、道が繋がった。
「ルグアさん……。凄いですね……」
「まあな。これでも、数千以上のゲームをプレイしてきたからさ。一応l基本というか大雑把なコードは覚えている」
「そうなんですね。ありがとうございます。これで移住できそうです」
「良かったな。んじゃ、全員が移動できたらクエストの続き入らせてもらおうか」
「それでお願いします! 本当にありがとうございました!」