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第4話

 インノ祭が終わり静けさが村を包み込む。見張り番もうたた寝をしている時間帯ルフは村を出ていった。


アランを探すためだ。


 薄く氷が張っている川に沿って歩いていけば、明かりが見えてきた。


 時々獣がエサをおびき寄せる為に発光器官をもつ存在もいる。短剣に手をかけてゆっくりと近づくと人の形が見えてきたので武器から手を放す。


「よぉ、ケラーの人」


 黒を纏う男をルフが見間違うことはなかった。男は村から離れた場所にいる自覚があるのか驚いた表情を見せ、ルフを見ていた。


「何故ここにいる」


「あんたに会いたかったから」


 よいしょっと声を漏らしながら男の隣に座ると男はなんとも言えなさそうな顔をするも追い出すことをしない辺り優しいのだろう。ルフは男の方を見て声をかける。


「今度こそ名前教えてもらうぞ。いつまでもケラーの人とは言いたくないからな」


 男とルフの間に暫く沈黙が居座っていた。ランタンの明かりだけが二人を見守っている。沈黙に負けたのは男の方であり、深いため息を吐くと口を開いた。


「アラン。アランだ」


「アランっていうのか! よろしくなアラン」


 漸く命の恩人である男の名を知れたルフは嬉しそうに目を細めて笑うが、アランは笑うことはなかった。


「アランの武器見たことないけど、ケラーの技術なのか? すげーな」


「ん? あぁ、そうだ。オレが作った武器だ。グロームという普段は二又槍だが、電気を使うことで三叉槍になる。他にも色々あるが、使わなくて済む状況がいい」


「すっげぇ! なんか電気ってのは分からないけどこんなのが作れるのか」


 ルフの発言にアランは少し考える。そして、先ほどで興味を示したのかルフの方を見る。


「オマエのとこは電気はないのか」


「あぁ、火がメインだ。イグニス神は火の神様だから火を大事にする。あとはヒカリクサを使うぞ」


「そちらの神はそうだったな。ヒカリクサを使うのは一緒だな。昨日は騒がしかったが祭りだったのか」


「インノ祭があったんだよ。イグニス神を崇める祭り。そうだ! 祭りのご飯もってきたんだ。よかったら食うか?」


 ルフは獣の皮で作った肩掛けカバンから大きな葉っぱで包まれた干し肉と赤く甘酸っぱい香りがする果物をアランに渡す。


「この果物らしきものはなんだ?」


「それはロベリーっていう果物だよ。ここらじゃよく取れるし、育てやすいんだ。甘酸っぱくて美味しい」


「そうか。じゃあ、いただこう」


 アランはロベリーが気になるのか摘まんだ後、一粒口の中へと入れると甘酸っぱく花のように華やかな香りが広がってく。乾いた口が潤っていき心地よい。こくりと喉へと通っていけば、余韻に浸る。


「このロベリー美味しいな」


「だろう? 俺も好きなんだ」


 村の農作物を褒められてルフは嬉しそうに口を上げる。貰ったご飯が美味しいものだから会話が弾んでいく。


「力はイグニス教ではモイラというのか。神の箱っていうのに入ると授かると」


「七歳になったらとある洞窟に入るんだ。そこにいる神の使者に魅入られると箱に入れる」


「オレの村じゃそんなものなかったな。あるかもだがケラー教では神の箱についての話は聞かない。ケラー教では鉄の悪魔を機械というしな」


 ルフはアランから聞く話を子供のように無邪気に聞いていた。閉鎖された村では得られなかった情報が宝物のように輝いている。退屈な日々が非日常の香りを漂わせているのだ。しかし、楽しい時間は過ぎていく。


「やばい。もうそろそろ村に帰らないと。また来てもいいか?」


「……暫くはここら辺にいるから構わない。久しぶりに人と話せて楽しかった」


「ありがとう! またなアラン!」


 アランに手を振りルフは村へと早足で帰っていく。アランは獣の皮で作ったテントの中へと入ると眠りについた。

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