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第32話

 ルフの目覚めは最悪であった。太陽とベルのことについて考えて、ろくに寝ることが出来なかった。


 貴重な睡眠時間も悪夢に魘されて、寝た気にならなかった。


 青色の悪さにローは心配しているようで、大丈夫と聞かれたから小さく笑いながら、大丈夫と言ったけど、まだ心配そうな目をしている。


 何処までも変わらない灰色の世界が、地下だったという事実をどれだけの人が知っているのだろうか。


 きっと知らずに生きて、死んでいる。


 太陽を見ず、月も見ず、鉄の悪魔と獣に怯え、暗い世界にいる。


 だが、事実を知ることもまた残酷なことだ。


 きっと五人だけの秘密になるのだろうなと、ルフは現実逃避をする。


 そうこうしている間に、今日の休憩地点に辿り着いた。


 ベルとソフィアが料理をし、ローはお薬の調整をしており、アランは槍型の武器グロームのメンテナンスをしている。


 ルフはたき火の管理を任されていた。燃える姿を見ながら、太陽を見に行くか未だルフは決めかねている。


 ソフィアやローが行くのか聞きたいが、聞いたのがベルにバレたら殴られかねない。ベルの拳は痛いのだ。


 その後、皆でご飯を食べて、見張り番のルフ以外皆テントに潜っていく。


 ルフは電球と言われた星空を眺める。自分が太陽を探し求めているのは、探求心からだろう。


 誰も見たことのない太陽を探したかった。


 だが、探した後のことをルフは考えていなかった。


 太陽を見つけた先にあるのが死といきなり突きつけられたことにより、恐怖を感じ、怖気づいてしまった。


 自分の探求心はそんなものだったのかなと落ち込んでいると、背後から影が伸びる。


「隣いいか?」


「いいけど、起きて大丈夫?」


「慣れている」


 後ろを振り返ればアランが立っていた。まだ時間的には起きる時間じゃないのにと思って寝ないのかと聞いたら、心配はないようでルフの隣にアランは座った。


「どうしたんだ。何か用があったのか?」


「……太陽探しについて悩んでいそうだから聞きに来ただけだ」


「そっか」


 暫くの間、無言が続いた。パチパチと火が燃える様子を二人で眺めていた。


 息も凍りそうなぐらい寒い世界は、瞬きすることすらも苦しい。


 はーっと息を吐きかけてルフは温もりが消えない内に言葉を零す。


「俺さ、最初太陽を探す理由の1つが、つまらない日常が変わればという軽い気持ちだったんだ。それがいつしか、太陽を探す旅が楽しくて、あの太陽を見たら何か変わるんじゃないかと信じていた」


「……あぁ」


「だけど、実際は外だと信じていたのは、太陽も月もない地下だった。しかも、外に出たら死んじゃうかもしれないって。それを知った時怖くなったんだ。自分から言い出した事なのに。怖気づいている自分が情けないなって」


 ルフは身体を小さく丸まらせながら、震える声で心を曝け出していく。


 死は外よりも冷たくて、怖いものだ。もう二度と歩き出すことが出来ない。


 だが、太陽は見たい。矛盾した二つの思いに、ルフはどうしたらいいのか分からなかった。


「……死を恐れるのは何も悪くない。むしろ、正常だと思う。オレも死にたくないし。ルフは難しく考えすぎなのかもしれない。シンプルに太陽見たいか、見たくないかを考えてみたらどうだ?」


「見たいか、見たくないか?」


「そうだ。もし見たいなら行けばいい。どうせオレラは死んじまうんだ。だったら、早く死んだとしても、やり遂げたなら後悔はないと思う」


 アランの言葉にルフは顔を上げる。


 こんがらがっていた頭が少しずつ片付いていく。


 シンプルに考えたらいい。自分が太陽を見に行きたいのか。それとも、見に行きたくないのか。


 暗かった洞窟の中を彷徨い続けていたルフに、出口の光が見えてきた。


「ありがとうアラン。漸く自分の答えが見えてきたよ」


「気にするな。流石にエレベーターに辿り着いた時、ベルはさっさと行こうとして待たなさそうだからな」


「あはは、言えてる」


 アランの言葉に、ルフは子供らしく笑った。明けない夜はもうすぐ終わる。


 どんな結果になったとしても、もう後悔はない。そう、確信をした。

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