その日のご飯は終わりを告げ、それぞれテントに戻った。女用テントの中、明日の準備をしているベルにソフィアは話しかける。
「ねぇ、どうして太陽見に行こうと思ったの?」
「ソフィアなら分かるでしょう」
振り返らずにベルの手は止まらず、荷物の確認をし続ける。
ベルの答えにソフィアは暗い顔をして俯く。
「……ルフちゃんは知っているの? ベルちゃんの寿命があと少しなこと」
「言ってないから、知らないと思うわ」
「ベルちゃんはいいの? ルフちゃんに言わなくて」
「いいの。知ったらまたクヨクヨ考えるから。アイツ変なところで躓いたりするから。アタシのせいで変なこと言い出して欲しくないの」
「……そっか」
ソフィアは色々とこみ上げてきた言葉をぐっと飲み込んで頷いた。
ベルは自分の死期を悟っている。
病は見受けられなかったことから、恐らく寿命を使うモイラだと気付いたので、あまり使いすぎるなと言ったがベルは使い続けた。
それは、仲間を、ルフを守りたかったからだろう。
ルフがもしベルの寿命を知っていたならば、ソフィア以上に止めにかかっていただろう。
いや、きっと村に置いていくなんてこともしていたはずだ。
お互いに大事に思っているからこそ、突き放す節がある。
美しくも危うい関係にソフィアは密かに心配をしていた。
「ねぇ、ソフィア。お願いがあるの」
「なにベルちゃん」
「ソフィアは地上に行かないで欲しいの。もし、皆行くってなったらアランが一人になっちゃうじゃない。ソフィアが太陽見たいかもなのに、こういうのずるいよね。ごめんね」
「いいよ。確かに一人ぼっちが寂しいからね。ベルちゃんの願いなら叶えてあげる」
「ありがとう」
了承してくれたソフィアに振り返り、頭を下げるベルに対して出会いたての時よりも、周りに優しく出来るようになってきているとソフィアは感じた。
成長を喜ばしく思う反面、目の前の少女は今いる旅の仲間の中で死が最も近い存在だという事実が、胸を締め付けてくる。
どうして神様はいい人を自分の元に置きたがるのだろう。
その人を心の支えにしている人がいるのに、可愛いからって連れていく神様はきっと誰よりも我儘だ。
もうすぐ来るであろう別れに、ソフィアは神様に渡したくない想いで、ベルを優しく抱きしめる。
「忘れないでね。私はずっとベルちゃんの味方だからね」
「うん、ありがとう」
ソフィアの言葉にベルは顔を見せないようにしながら、小さな声で答える。ベルから聞こえる鼓動が消えないことを願い続けた。