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第34話

「ベルくん! ベルくん!」


 ローの声にベルに何かあったのかと思い、ルフはそちらに駆け寄る。


 すると、口の端から赤い血を流し、眠るように横たわるベルの姿があった。


「ソフィア! ベルが! 早く治療を!」


「……ルフちゃん。これはね、私でも治せない。死を覆すことはできない」


 ソフィアは首を振って治せないと伝える。


 ルフはそんなわけないと信じたかった。


 ベルの柔らかい手を握った。だんだんと奪われていく熱。動かない身体。


 死だと脳が察するとルフの瞳から大粒の涙が流れてくる。


「ベル……?」


 ルフの声に返事はない。駆け付けたアランもベルの死を察して帽子を深く被る。


「う、うわぁぁぁぁぁぁ!」


 ルフの哀哭が響き渡る。太陽を見たいと言った幼馴染の約束は果たされることはなかった。


 無念の亡霊がルフの背後にへばりついて離れない。


 暫くの間、悲しみが世界を支配したのであった。


 それから、一日が過ぎた頃だろうか。ルフはベルから離れようとしなかったので、皆でベルの葬儀をした。


 ランタンに火を灯し、ベルに捧げる鎮魂歌を奏でて終わった頃。


 ルフはアランの元に訪れていた。


「アラン。一緒の地上に行きたい」


「いいが、大丈夫なのか?」


「うん、もう決めた。俺、ベルと一緒に眠るよ。ベルが見れなかった太陽を見て、空にいるベルに話してあげるんだ」


「……そうか。ソフィア達にも伝えよう」


 ルフとアランはソフィア達がいる所へと向かった。


 ソフィア達は近づいてきたのに、気付いたようでそちらを向く。


「どうしたの?」


「今からルフと地上に出るが、ソフィアとローはどうする」


「私はベルちゃんとの約束があるから、地上には行かないよ」


「ソフィアくんが行かないなら、ぼくがソフィアくんを守らなきゃだから行かない」


 その答えを聞いてルフは、寂しそうにしながらもローに紫色のナイフを授ける。


「ソフィア、ロー今までありがとう。これからも生きてくれ。ローは立派な戦士になるんだぞ」


「勿論! 貴方達がびっくりするぐらい長生きしちゃうから」


「うん、ぼくルフくんやアランくん、ベルくんみたいにみんなを守れる存在になるよ!」


 最後の別れだというように三人は抱きしめ合って別れを惜しむ。


 太陽を見なくても、これまでの旅は輝かしいものだった。


 どうか、願うならば自分やベルを忘れないで欲しいとルフは強く願い、名残惜しそうに二人から離れた。


「アランちゃんはまただね。帰ってこなかったら、殴るからね!」


「分かっている。ルフ行こう」


 ソフィアに脅されても相変わらず無表情に近いアランに、変わらないなと思いつつベルの遺体をルフは背負った。


「いってきます」


 泣きそうな顔で手を振る二人に手を振り返して、ルフとアランはエレベーターへと向かって行った。

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