「アラン。今までありがとう。始まりはアランとの出会いだったよな」
だんだんと小さく遠くなっていく世界を見下ろしながら、ルフは静かにお礼を告げる。
アランは返事をしなかった。いや、出来なかった。
返事をすると別れが辛くなってしまうから。
それをルフも分かっていたから、それ以降会話はなかった。
チンと場違いのベルが鳴る。扉が開いたのを見れば、まずはアランから降りて周りを確認した後にルフが降りる。
周りはまだ暗く、全てが白に包まれていた。
「見てアラン。空に大きくて丸いものが浮かんでいる。あれがローが言っていた月かな」
「そうかもしれないな。意外とでかい」
ルフは右手で初めて見る満月に目を輝かせた。
地上には暗くても照らしてくれる光があるだなんて、羨ましい。
月でもこんなに明るいのに。太陽はどれだけ明るいのだろう。
アランは、地下にいるソフィアやローの為に写真を撮る。出てきた写真には月と星が綺麗に映っている。
「にしても誰もいないね。オーケアヌス族の人は何処に行ったのだろう」
「オレらを置いて空に行ったかもな」
「なにそれずるい。俺も行きたかった」
それからこの世界について語りだす。この白くて冷たいものは何だろう。
茶色くて太くて緑色のいい香りがする。これは植物の一つなのかな。
あの四角で大きなものは建物かな。朝が来るまで語り続けた。
「もうすぐかも。明るくなってきた」
「……お別れだな」
「また会えるよ。皆死んだらさ、今度は太陽の先を見に行こう」
「そうだな。見に行こう」
ベルを木にもたれ掛かけて、ルフも座り手を強く握った。
空は一の間にか藍色から、空色に変わろうとしている。
少しずつ世界に光が注がれていく。白い地面は反射をし、鏡のように輝いている。
呼吸がままならなくなってきた。
それでも最後までルフは目を開き続け、見えたのはあの日、始まりの洞窟で見た温かくて丸い太陽。
「ルフ、ベル、おやすみ」
ルフは眠るように旅立った。
アランは太陽の写真ともう一つ、ルフとベルの写真を撮る。
どうか羽ばたいた彼らが、次の世界でも一緒に過ごせるようにと願いを込めて。