僕の住んでる街では密かに囁かれてる噂話がある。
『夜にだけ開店する図書館がある』
その話を僕が聞いたのはおそらく中学生の頃。
友達の友達から流れてきた噂。
小学生、中学生というのはそういった噂話が特に好きなものだと思う。
その歳くらいというものは好奇心旺盛、小さなことでもすぐに興味を惹かれる。
僕もそんなどこにでもいる子供の仲間だった。
少し気持ち的にも大きくなっていた中学2年生の頃、少しだけ外で晩くまで遊んでおり、友達とその噂を確かめようとしたものだ。
もっとも、結局見つけることはできなかったのだが…いや、そもそもそんなものは最初から実在していなかったのだろう。
噂は噂でしかない。
でも、あの時はたとえ何も無かったとしても、あの時間が楽しかった。
その事実が今の僕の宝だ。
そんな思い出に浸りながら、僕は夜中に家からすぐ近くのコンビニで買った炭酸を外で飲んでいた。
冒頭で語っていたあいくるしい僕も、今や大学生。
大人の道に片足…いや両足突っ込んでいる。
今は毎回毎回大量の大学からの課題に追われる日々…。
大学生になるタイミングで実家から出て、今は大学の単位を落とさないよう課題をこなしつつ、アルバイトで少しでもお小遣いを貯める生活だ。
今日も大学の後、友人たちが輝かしいキャンパスライフを謳歌している中、僕はバイトに勤しみやっと解放されたところだ。
バイトが終わる頃には外はもう辺り夜一辺。
空気も冷え、交通量の多い都心から郊外まで来れば、騒がしかった喧騒とは打って変わって少ない街灯に照らされた道、あれだけ騒がしかった夜の外には自分の靴音くらいしか響かない静かな日常に変わる。
僕はわりとこの時間が好きだ。
夜中に出歩くと思い出が頭の中で駆け巡る。
好奇心旺盛で、どんなことにも興味を惹かれ、友人たちと遊び尽くしていたあの頃を。
そんなことを思いながら時折炭酸を飲みつつ歩いていると、妙な違和感に襲われた。
それがどんな違和感なのか自分でも最初は説明しづらかったのだが、その正体を突き止めるべく辺りを見回してすぐにわかった。
知っている道なのに、知らない道なのだ。
今歩いている道はいつも僕がバイト終わり、自宅に帰るために使用している『見慣れた道』…の筈だ。
筈だ…と何故そんな曖昧な表現を使うかというと、いつも直線に続いているその道に、『脇道』があった。
もう長い期間、この道は歩いてると思っているが…こんな道の記憶は全くない。
そもそも今まであったのか…皆目検討もつかない。
その脇道の先は、この街灯の少ない道なんかよりもずっと濃厚な闇が続いているように思える。
見る限り街灯なんていう物も立っているようには見えない。
今思えば、僕は何故この時点で素通りして自宅に帰らなかったのかと思う。
いや、考えるまでもない。
この歳になって、あまりもう衝動的に駆られなくなった「好奇心」というやつだ。
僕はこの時に強烈な好奇心に背中を押されるように、その暗い闇が広がる道に歩みを進めた。