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零書《終》不思議な書庫

街灯のない、先ほどよりもまるで異次元な世界に足を踏み入れてしまったかのような感覚。


闇が永遠と続くような風景。

きっと普通は足がすくんでその場で動けなくなったり、先に進むのが怖くなって進めなくなるものだろう。

ただこの時の僕は寧ろ、闇がこっちにおいでと手招きして、その誘いのままに体を動かしていたように思う。


どこまで進んだかもわからない。

歩いても歩いても風景が変わらない。

なんとなくだが、両側は石壁か何かが立っているように思うくらいだ。


そんなことを考えていたら、唐突に「それ」は出てきた。

「出てきた」というのは言葉通り、出てきたのだ。

突然、唐突に、いきなり目の先に、その建物は出てきた。


見た目は少し古びたお店…館のようにも見えるがそれにしては小さい。

だが、その建物からは何か異常な雰囲気がそれにはあった。

でも確実に、なんとなく、僕を手招きしていたのはこの館だと分かった。


今まで住んでいた街でこんな建物は生まれて初めて見た…そう思うと同時に思い出す。

小学、中学時代に思い馳せたあの『都市伝説』。

もしそれが目の前の建物だとしたら…。


乾燥した口の中で生唾を飲み込み、少し怖いと思いながらも恐る恐るその建物に近づき、その扉の取手に手をかける。


本来ならこんな夜遅い時間に開店してる筈はないので開けようとしても開かない筈だが、それは開いた。

まるで「早く、こっちへおいでよ」とその建物が言っているかのように、僕はその館の中に足を踏み入れた。


その館の中に入ってすぐ、目の前の景色に度肝を抜かれた。


本棚だ。目の前に数えきれないほどの本棚がある。


ここで一つ。

僕がさっき外で建物を見た時に感じた印象は「館のようにも見えるがそれにしては小さい」…そう感じた。

小さかったのだ。

だから建物の中も普通はそんなに広くない筈なのだ。


なのに、先が見えない。

先が見えない、というより奥が見えない。

正面も、左右も。

見えるのは一体何冊蔵書されているかも分からないような本棚の数々…

それも部屋全体。何冊もの本がその部屋というより空間を支配していた。


ここで僕に残された選択肢は二つ。

この異様な雰囲気に完全に呑み込まれる前にこの場から離れる。

もしくは、この異様な雰囲気に気圧されながらも好奇心につき動かされるままに奥へ進むか…。

結果は言うまでもない。勿論進むしかないだろう。

忘れかけていた好奇心。

せっかくここまで来たんだ。

これに関しては男性女性関係なくやはりワクワクしてしまう。

尤もその裏の気持ちとしては、今からこの異様な空間を作り出している化物に会いに行くような、そんな気持ちなのだが…


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