平成中期。
私は、おーい、と叫べば、こだまが10往復するくらい山奥の、限界集落に住んでいた。
教員である両親は揃ってハードワーカー。
山を下りねば子供はおらず、いつも教員住宅で一人ぼっち。
庭の隅で、石ころ相手におままごとをしたり、空想の動物たちを愛でたり。
時折、遥か下にある国道を眺め、
「あの車の中には人間がいる……人間が……うう、人間……」
とつぶやきながら唇をかむ。
齢6歳にして、私は人との関わりに飢えていた。
そんなある日の昼下がり、眼の前に5人の男児が現れた。
「お前が先生の娘か。全然似てねーな」
「ゴリラの娘にしちゃー可愛いのう」
庭にいた私を取り囲んだ、いかにもわんぱくそうな父の教え子たち。
いがぐり頭のタケシ君がボスで、それ以外は取り巻きだろう。
彼らの醸し出す空気からは明確なヒエラルキーが漂っており、かすかな違和感を覚えてしまう。
しかしそれも一瞬だった。
タケシ君が言ったのだ。
膝を曲げて、私と視線を合わせて。
「俺らと遊ぶか?」
……と。
のちに、私はこう振り返る。
それは一筋の光だった、と。