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祟りの里 ―血染めの繭―
祟りの里 ―血染めの繭―
ことのはし
ホラー都市伝説
2025年05月23日
公開日
1.7万字
完結済
【生贄確定】科学信奉の訳アリ考古学女子、恩師を追って入った呪いの村で、イケメン神主に『お前が次の花嫁だ』と宣告される!? 逃げ場なし、頼れるのは己の知恵と――まさかの猫? 絶望的サバイバルホラー開幕!

第1話

また、あの夢や。


暗い森の中、幼い妹・小春の手を引いて逃げてる。何から?背後から迫るのは姿の見えない「何か」。そして小春の手が、ふっと離れる。振り向くと妹は音もなく闇に消えて——。


「はあっ、はあっ……!」


七瀬深冬ななせ みふゆは車のシートで跳ね起きた。心臓が肋骨を内側から叩いてる。まるで中学の時、体育館で倒れた時みたいに。あの時も心臓が変な音を立てていた。


窓の外は茜色の夕闇。いつの間にか眠ってたらしい。ここは恩師・高杉教授が最後の連絡をよこした山岳地帯のはず。


「教授……ほんまに何してはるんやろ」


携帯の画面を見る。最後のメール。『鎮守村しずもりむらで興味深い縄文土器を発見。従来の編年観を覆す可能性が。詳細は後日』——それから一週間、音信不通。


キーを捻る。エンジンは虚しいクランキング音を数回繰り返して沈黙した。


「あかん、エンストや」


スマホは当然圏外。文明の利器なんて、こんな山奥じゃ役立たずの重りでしかあらへん。


ドンッ!


突然、フロントガラスに何かがぶつかった。黒い影が車の前を矢のように横切る。


「今の……何やった?」


鹿にしては動きが異様や。まるで訓練された猟犬みたいな、それでいて人間離れした俊敏さ。嫌な汗がじわりと噴き出す。背中の汗が、なぜか小学校の保健室の匂いを思い出させる。


深冬みふゆはリュックから教授の手書き地図と方位磁石を取り出した。この先進むしかない。教授を見つけるまでは絶対に帰れへん。


「この世に科学で説明できへんことなんて、絶対にあらへん」


自分に言い聞かせた。小春の時だって、そうやったはず。神隠しなんて非科学的な迷信や。教授の失踪にも必ず合理的な理由があるはず。


重いリュックを背負い直し、深冬は霧深い森へ震える一歩を踏み出した。霧が、まるで深冬を拒むように行く手を閉ざしてる。足元の落ち葉が、踏むたびに湿った音を立てる。その音が、なぜか病院の廊下を歩く音に似てて、胸がざわつく。



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