【業務内容】
本日から、西ウィカテ地区の冒険者ギルドに配属されました。どうぞよろしくお願いします。
初日ということで、教育係のナリーシャさんに業務内容の説明を受けました。実際にナリーシャさんが受付している様子を、後ろから見させてもらいました。何人かの冒険者さんにお声をかけてもらったので、これから皆さんの顔と名前を覚えていきたいと思います。
【特記事項】
特になし
メリーア
「あ、あの、こ、これ、か、書き終わりました」
小刻みに震えながら、うるうるとした瞳を向けるメリーア。茶色みがかった黒くて長い髪はまっすぐ背中の辺りまで伸びている。髪が長い分、体の小ささが強調される。小柄で可愛らしい顔立ち。庇護欲そそる少女だ。ギルドの受付嬢の膝丈の制服がロングスカートになっている。
まるでいじめてるみたいじゃん、と思いながら、軽くため息を吐いたナリーシャが日誌を受け取り、声をかける。
「あ、お疲れ様。じゃあもう上がっていいよ。歓迎会は明後日の予定だけど、大丈夫?」
「は、は、はい」
「……歓迎会、無理にお酒とか飲まなくて大丈夫だからね?」
「あ、ありがとうございます……わ、私、一応、ある程度はお酒、飲めるんです、ご、ごめんなさい。失礼します」
パタパタと音が鳴りそうな様子で逃げるように帰っていくメリーアに、今度こそナリーシャは大きなため息を吐いた。
「ナリーシャ、どうだ? 新人は」
そんなナリーシャの後ろから、ギルド長がぬっと現れた。元A級冒険者だったギルド長は、大きな身体に似合わず、いつも気配なく現れるため、ナリーシャは声を上げた。
「うわ! ギルド長……いつもいきなり声をかけないでくださいって言ってるじゃないですか!?」
「わりぃわりぃ。で、どうだ?」
反省している様子もなくギルド長は問いかける。ナリーシャは、クセの混じった金髪をくしゃりとかきあげながら、身体を後ろに回してギルド長に向き直った。
「今日は挨拶回りに場所や物の位置の説明くらいで終わりましたから、能力まではわからないですけど……すぐに謝ってばかりだし、泣きそうな目でうるうるしてるし、あれじゃ冒険者に舐められますよ。持って一週間じゃないですか?」
「はは! 相変わらず手厳しいな、ナリーシャ先生は! まぁ、いつも当たるナリーシャ予報だが、もしかしたら、今回こそは外れるかもしれないぞ?」
「はぁ? 何言ってるんですか! どうにかあの荒くれ者たちに泣かされないようにしてあげないと……」
ブツブツと呟くナリーシャに、ギルド長は小声で言った。
「あの子は、俺なんかよりよっぽど強いからな」
「精神的にってことですか? ありえませんよ! 今にも泣き出しそうな……ああいう小型の犬っていませんでしたっけ? なんて名前だったかな……」
ブツブツと呟くうちに夜は更け、ナリーシャもギルド長も家に帰って行った。