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第043話 作戦会議をしよう!


 リースとの話が終わり、リースが窓の近くで呆けていると、ミサと東雲姉妹が帰ってきた。


「ただいまー」

「「ロクなおみやげがなかったー」」


 ミサが帰ってきたことを報告すると、東雲姉妹が双子らしく声をそろえる。


「まあ、別にいりませんからいいですよ。それよりも作戦会議です。集合!」


 私が集合をかけると、ミサと東雲姉妹が駆け足で私のベッドの近くまでやってきた。


「ん? リース、どうしたの?」


 ミサがいつまでも呆けて、こっちに来ないリースに聞く。


「別になんでもないです…………ふぅ」


 リースが甘い溜息をつき、窓の外を見た。


 マジで美人だし、無駄に色っぽいな。

 人族に見えるのだが、人間離れした美しさだ。

 高く売れるっていうのがよくわかるわ。


「え? やった?」

「マジでご休憩?」


 東雲姉妹が茶化してくる。


「そんなわけないでしょ。ちゅーしてあげただけ。フユミ、あんたにもしてあげようか?」


 んー?


「いらねーです」

「あっそ。一応、聞くけど、ナツカは?」


 んー?


「マジでいらねーです」


 そんなに嫌がらなくても……

 ヒミコ、ショック!


「リース、いつまで呆けてるんですか! 作戦会議ですよ! エルフを救うんでしょ!」


 私はいつまでも恋する乙女みたいな表情をしているリースを叱責した。


「あ、はい。申し訳ありませんでした。作戦会議ですね。このリースにお任せを!」


 やっと再起動したか……


「ひー様、リースとも合流したし、獣人族も購入しました。後は領主の館に捕まっているエルフを救出したら南部の森に帰還するということでよろしいですか?」


 ミサがまとめてくれる。


「そうなりますね」

「ひー様の転移が使えるようになるのは10日後と考えると、救出作戦はその時ぐらいがよろしいのでは? エルフ救出後は速やかに脱出するべきです」


 ミサが頭の良さそうな事を提案してきた。


 誰だ、こいつ?

 いつものバカなミサはどこに行った?

 私の親友はどこ?


「お前、どうしたんですか? そんな至極まっとうな意見を言うなんて、ミサらしくないですよ?」

「あんたが普段、私のことをどういう風に思っているかよくわかる発言だわ」


 だって、バカじゃん。


「まあまあ。ミサの言うことはもっともです。捕らわれているエルフを待たせることになりますが、万が一のためにもいつでも転移できる状況にしておくべきでしょう。作戦決行は10日後とすべきです」


 それは私にもわかっていたし、そうするつもりだった。


「では、そうします。問題はどうやって救出するかですね? リース、お前は姿を消せる魔法を使っていましたね? それで行けませんか?」


 姿を消して、こっそり行くのが一番安全だろう。


「領主の屋敷となると、そういう対策はしてあります」


 まあ、防犯はしているか……

 普通に魔法がある世界だもんなー。


「こっちにはマシンガンがあるんだし、突っ込めばよくね?」

「さんせー」


 ナツカが突撃を提案すると、フユミが賛同した。


「却下だってば。最悪、エルフを人質に取られたらどうすんのよ?」

「あ、それもそうですね」


 私の却下理由を聞いたナツカはすぐに納得した。


「姉貴はバカだなー」

「お姉ちゃんパンチ!」


 よし!

 この姉妹は放っておこう。


「リース、何かありますか? お前は私達が来る前から動いていたのでしょう?」

「現在、この町では謎の不審死事件が多発しております。これのせいで屋敷の警備が厳重になっているのがネックですね」

「いや、犯人、あんたじゃん」


 すげー他人事のように言ってんな。


「ひー様の敵を処分しておりました」

「はいはい。ご苦労さん」


 頑張った、頑張った。


「しかし、リース、やりすぎでは? 教会は魔法使いを呼んだらしいけど、大丈夫?」


 ミサがとても冷静だ。

 …………わかった。

 こいつ、リースに自分の地位を奪われないように必死なんだな……

 私のナンバー2発言を気にしているのだろう。


「問題ありません。たかが人間の魔法使いに遅れは取りませんよ」


 たかが人間言うな。

 お前、本当に隠す気あるのか?


「その魔法っていうのがよくわからないけど、何ができるの? あんたの力で転移できない?」


 ミサはリースの失言に気付いていない。

 ミサがバカで良かったね。


「転移は非常に高度な魔法なんです。2人くらいならなんとかできますが、この人数は厳しいですね」


 リースって、転移もできるんだ。

 すごいな。


「私も覚えたら魔法を使える?」

「難しいでしょう。ミサに関係なく、あっちの世界の人間は無理です。例外が女神アテナからスキルをもらった学校関係者でしょうね」

「そっかー…………」


 ミサがへこんだ。


「ひー様は女神アテナみたいに信者にスキルを授けることはできないのでしょうか?」


 ミサと話していたリースが聞いてくる。


「無理よ。神はそれぞれできることが決まっているの。女神アテナは信者にスキルを授ける能力。私は天授と言って、スキルではなく物を授ける能力」


 これはなんとなくだが、わかる。

 お告げや転移はおそらく、神ならば使えるスキルだと思う。

 だから私もそのうち、女神アテナがやっていたような啓示もできるようになるだろう。

 だが、スキルを授けることはどんなに信者を増やして力をつけたとしてもできない。

 逆に言うと、私の天授も女神アテナには使えない。


「まあ、私はこっちの方が良いですね」


 ミサがマシンガンを抱える。


「神としての能力の強さはひー様が上でしょう。どんなに強力な魔法でも戦車や戦闘機には勝てません」


 まあ、そんな感じはする。

 とはいえ、信者の数の差は大きい。

 やはり、神は信者の数で優劣が決まるのだ。


「ひー様、ヘリを出せますか? 私は運転できますし、夜にヘリを使って、奇襲をかけましょう」


 そういえば、リースはヘリも運転できたわ。

 免許?

 知らない。


「具体的には?」

「領主の屋敷には屋上があります。そこに降下し、電撃戦で一気に片付けるのです」

「エルフの居場所はわかっているのですか?」

「すでに屋敷のメイドを買収して屋敷の配置は把握しております。領主の私室や寝室は最上階であり、屋上からも近いです。エルフもそこです」


 リースがそう言いながらどこからともなく屋敷の見取り図を出して、見せてきた。


 ふーん……確かに屋上から近いわね。

 それに下から上がってくる階段は1つ……

 ここを押さえることができれば、敵の増援は来ない。


 本来なら敵が侵入してきても、一番高い所にいれば、それまでに兵士が防いでくれる。

 だが、空から侵入されたら逆に一番手薄となる。

 ましてや、寝室…………警備はそこまでだろう。


「よろしい。その作戦でいきます。リースは私と共にエルフの救出。東雲姉妹は階段で敵を抑えなさい。ミサは屋上に残り、警戒。もしかしたら壁をよじ登ってくる可能性もありますしね」

「わかりました」

「よっしゃ! 乱射パーティーだ!」

「いえい!」


 なんでだろう?

 乱射パーティーって卑猥に聞こえる。

 私だけ?


「エルフ救出後はヘリで逃走。そのまま獣人族達と合流し、私の転移を使って、南部に帰還します」

「獣人族やヨモギさんとはどこで合流します?」


 ミサが聞いてきた。


「リース、ヘリが降下できて、獣人族150名を集められる場所はありますか?」


 この町に長く滞在しているリースに聞いてみる。


「奴隷市場の北にゴミ収集場所があります。そこがよろしいかと……」


 ゴミ収集場……

 汚さそうだけど、我慢してもらうか……

 ヨモギちゃん、ごめんね。


「まあ、仕方がないか……ミサ、ヨモギちゃんに作戦を伝えてきて。それとフランツに奴隷集めを急ぐようにとも」

「わかりました」


 私が指示を出すと、ミサは素直に頷いた。


「ナツカとフユミもついていってあげて」

「またあそこに行くの?」

「めんど……」


 こいつらは素直じゃないな。


「どうせ暇でしょ? 行ってきなさい」

「「はーい」」


 めんどくさい姉妹だわ。


「リース、お前は領主の屋敷に案内なさい。ちょっと下見に行きます」

「はい。ご案内します」


 私は宿屋を出ると、ミサ達と別れ、リースと共にこの町の領主の屋敷を目指す。

 そのまま大通りを歩いていると、高さ数メートルはある大きな塀が見えてきた。

 その塀はずっと先まで続いている。


「この塀の向こうに領主の屋敷があります」


 リースが塀を見上げながら教えてくれる。


「広くない?」

「広いです。ここの領主は広大な敷地を持っているんですよ」

「お金持ちねー」


 まあ、エルフを2人も買っているし、ヨモギちゃんを消耗品として買おうと思えるくらいにはお金を持っているのだろう。


「ここの領主はあくどいことで有名なんですよ。良く言えば、やり手なんでしょうが……」

「私はそういう人は嫌いじゃないんだけどね」

「女の敵ですよ?」

「やっぱり嫌いだったわ」


 死ね。

 たとえ、私の信者になろうと、他の信者に迷惑をかけるようなヤツはいらない。


「この先に門があるのですが、兵士がいますからこれ以上は行けません。兵士もロクな兵士じゃないですからね。ひー様なんてすぐに連れ込まれますよ」


 私よりあんたでは?

 めちゃくそ美人じゃん。

 いや、まあ、両方か。


「というか、中が見えないわね……」


 塀は高いし、門は無理。


「難しいかと……魔法で飛べますが、目立ちますよ?」


 だろうね。


「帰りましょう。これ以上は危険です。場所がわかっただけでも良しとします」

「はい」


 私達は道を引き返し、宿屋に戻ることにした。


「しかし、10日も何をしようかね? 観光でもする?」


 私は帰り道を歩きながらリースに聞く。


「やめといた方が良いでしょう。ひー様を知っている人間もいるかもしれません」

「そういえば、他の生徒達は? ヨモギの友人を殺したとは聞いたけど」


 あと数人死んでるんだっけな?


「この辺りに来た者はほぼ処分しました。この町の奴隷市場はこの辺では一番大きいため、そういうことを企む生徒達がたまに来るんですよ。私はそれを狙い討ちです。強力なスキルを持つあいつらは放っておくと危険ですからね」


 多分、判明してないだけで、死体が発見された数以上を殺しているんだろうな。

 町の中なら見つかるけど、町の外では見つけるのも困難だろうし、犯人が人か魔物かわからない。


「篠田さん達は見逃したんですか? 私達は彼女からお前の情報を聞いて、ここに来たんですけど」

「篠田? 女子ですかね?」

「女子4人組です。弱そうな女子」

「ああ、覚えています。放っておいても死にそうだったんで見逃しましたね」


 でも、ちゃんと生き延びたんだよなー。

 あんなに臆病で良く生き残れたもんだわ。

 いや、臆病だから地に足をつけ、無理をしなかったのか。


「その子達は私の信者になりましたよ」

「大丈夫です?」

「村上ちゃんに頼まれましたからね。まあ、大丈夫です。極度の恐怖を味わったようで、今はすっかり従順でかわいい子達ですよ」


 実際、よく働いているらしい。

 人族だが、弱そうなうえ、臆病なため、獣人族やエルフ達からもまったく警戒されていない。

 そのため、わだかまりもなく、協力して仕事をしているらしい。


「問題ないならいいです。ですが、男は信者に加えてはなりません」

「なんで?」

「あいつらのひー様を見る目は腐っています。この前もそういう男共がいました」


 なんだそれ?


「男子なんてそんなもんでしょう? 私は子供の頃、発育が他の子より早かったからよくからかわれもしました」


 中学でも高校でも視線は感じていた。

 でも、まあ、しゃーないことである。

 手を出してきたらダメだけど、見るだけなら許すべき。

 むしろ、それが女の武器なのだ…………って、アケミが言ってた。


「とにかく男は最低です!」


 こいつ、男が嫌いだから私に走ったのかね?


「教団員にも男はいるでしょう?」

「彼らは同志です。共に戦う仲間であり、尊敬すべき友人です」


 絶対にその中には氷室は入っていないんだろうな……

 あと、地味に勝崎は大丈夫かな?

 あいつ、エルフに手を出しちゃったんだけど……

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