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第071話 ホントに魚? 長靴じゃない?


 朝に目を覚ました私は部屋の窓から見える海をリースが淹れてくれたコーヒーを飲みながら眺めている。


「海ねー」

「というか、海しか見えませんね」


 同じく起きたばかりでリースが淹れてくれたコーヒーを飲みながら海を眺めているミサがツッコんでくる。


「ホントね。朝起きて5分で海に飽きてきたわ」

「何もないですからねー。世界一周とかで船に乗っている人って飽きないんですかね?」

「さあ? カジノとか出し物があるんじゃない?」

「陸でやればいいのでは?」


 私もそう思う。

 私もミサも庶民すぎて豪華客船とか乗れんな……


「ひー様、朝食にしましょう」


 リースがテーブルに着き、朝食を催促してきた。

 私とミサはコーヒーを片手に席に着くと、私が出したパンを皆で食べ始める。


「ナツカとフユミは? まだ寝てる?」


 私は早起きだったリースに聞く。


「いえ、朝釣りに行くって言ってました。今日こそは大物を釣るそうです」

「あっそ。あいつら、いい加減、エサをつけないと釣れないことに気付きなさいよ」


 虫が嫌らしい。

 ルアーを出してあげたいが、私は触ったことがないので出せない。


「あの人たちは放っておきましょうよ。どうせ、何を考えているかわかりませんし。それより、あと3日もありますけど、何をしましょうか?」


 ミサは東雲姉妹を完全に諦めているっぽい。

 中学の時も散々、振り回されてたしなー。


「まずはエルナと色々話さないとね。あとは…………休みね」


 船でやることなんてない。


「ですかー……泳ぐのは無理ですよね?」

「海には魔物がいるみたいだし、危ないわよ。というか、どうやって海まで行くのよ。結構、高さがあるでしょ」

「あー……落ちたら上がれませんね」


 船から海に落ちたらヤバいと思う。

 あとでナツカとフユミに注意しておかないとね。

 あいつら、どうせメイド服だろうし、布が多いから水を吸ったら浮かない。


「気を付けてね。まあ、適当にゴロゴロしてればいいんじゃない?」

「そうしますか……」

「私、お風呂に入ってもいいですかね? 昨日は暗くて外が見えなかったし」


 リースはお風呂が好きだなー。

 温泉旅行に行った時もずっと入ってたし。


「いってらっしゃい。ミサ、それを食べたらエルナを呼んできてくれる?」

「いいですけど、その寝ぐせをどうにかしてくださいよ」

「わかってるわよ」


 私達はパンを食べ終えると、各自が着替えたりし、準備をする。

 なお、リースは浴室に向かった。


 着替えを終え、当然、寝ぐせも直し、いつもの金の髪飾りを頭につけると、ミサがエルナを呼びにいく。

 しばらくすると、ミサがエルナとミルカを連れて戻ってきた。


「おはよう。ミルカも来たんですね。イルは?」


 私は挨拶をすると、旦那がいない事に気付き、ミルカに聞く。


「おはようございます。それなんですが、実はイルが朝から体調を崩しまして……」

「イルだけじゃないんだよ。結構な人が体調を崩しているんだよ」


 あー……やっぱりそうなったか。


「気持ち悪くなって、吐き気がするんでしょ?」

「そうそう!」

「わかるんですか?」


 そらね。

 船酔いでしょ。

 ハーフリングは海に近づかないって言ってたし、船に乗ったことがないのだろう。

 懸念はしていたが、予想通りだったわ。


「ハァ……ほら、船って揺れるでしょう? それで気持ち悪くなっただけよ。病気じゃないから安心しなさい」

「そうなの?」

「慣れてない人は酔います。薬を出しましょう。ミルカ、気持ち悪くなった人にこれを渡してください。ただし、副作用で眠くなるので注意して」


 私はスキルを使って、酔い止めの薬を大量に出し、袋に入れて、ミルカに渡す。


「ありがとうございます。エルナ様、皆に渡してきます」

「うん、お願い」


 ミルカはエルナと私に頭を下げると、薬が入った袋を持って部屋を出ていった。


「いやー、君らの世界にはそういう薬もあるんだねー」

「この世界よりかは発展してますからね」

「だろうね。あのヘリもだし、この船はヤバいよ」


 こっちの世界の船はまだ見たことがないが、木製の帆船だろう。

 それに比べて、この東雲丸は鉄(かな?)でできている。

 まあ、どっちにしろ、私達では動かせないけど。


「エルナ、お前は船酔いがないんですか?」

「ボクは神だよ? 酔うわけないじゃん」


 と言われても、子供にしか見えないんだけどね。


「そこです。お前は何故、実体があるんです? 私は生きたまま神になりましたので実体がありますが、女神アテナがそうであるようにお前はハーフリングの祈りで生まれた神でしょう?」

「あー、それね。ボクも最初から実体があったわけじゃないよ。これは現形っていうスキル。実体を作るスキルだね。この姿はボクの初代巫女なんだよ! かわいいでしょ!」


 かわいいね。

 お人形さんみたい。


「そういうスキルがあるんですね……お前のスキルを全部教えてください。できたらいつ使えるようになったかもです。私のスキルとの差を知りたい」

「いいよ。えーっと、最初はお告げを持ってたね。信者が増えてくると、憑依や姿を消すスキル、あと、宙に浮くやつだね。それらが神通力ってやつ。そんでもって、信者が500人を超えたらさっき言った現形を覚えた」

「最初の信者の数は何人だったんです?」

「1人だよ」


 え?

 1人?

 ハーフリングの祈りで生まれたんじゃないの?


「1人だったんですか?」

「そうだよ。その1人がこの姿をした女の子。ハーフリングは平穏の神を望んだけど、実際に神を誕生させたのはこの子なんだ。ボクはそこから始めたんだよ。まあ、ハーフリングは素直だったし、皆、すぐに信者になったけど」


 信者1人の時に持っていたスキルがお告げ。

 そこから少しずつ、信者が増えていき、さっきのスキルを覚えたわけか。


「私は最初は100人程度でした。あっちの世界には1万人いるんですけど、カウントされていませんね」

「何かのルールがあるのかもね。それはちょっとわかんないや。ヒミコは何のスキルがあったの?」


 逆にエルナが私のスキルを聞いてきた。


「私が最初に持っていたのは天授です。過去に触れた物を出すスキルですね。それと神通力が転移とお告げです」

「最初からボクとは違うね。やっぱりその天授がヤバいよ。破格すぎ」

「とはいえ、神通力のお告げは一緒ですね。女神アテナの啓示もお告げの一種でしょうし、これは共通なんですかね?」

「多分、そうじゃないかな? 憑依も共通しているし、神通力はある程度、共通なんじゃない?」


 私が他に使えるのは誰が信者かを把握できるのと、信者の状況を診断できるスキルだ。


「エルナは誰が信者かを把握できます?」

「できるよ。あ、そうだ! 確認してほしいんだけど、ウチの子達は君の信者になってる?」


 私はエルナにそう言われたので、確認してみる。


「えーっと…………あー、見たことがない名前が微妙に増えてますね。あ、ミルカ発見…………なのに、イルはいない……離婚させようか……」


 というか、100人ぐらいしか増えていない。


「やめなよ。昨日、皆に説明したんだけどね。まあ、まだ納得できない子もいるだろうし、この船やヘリを見て、軽くパニックになっている子もいる。もうちょっと待ってよ」


 まあ、昨日の今日だし、苦手な海の上で船酔いしているしで大変なんだろう。

 南部に着いたら落ち着くだろうからゆっくりでいいかな。


「いいでしょう。まだ心の整理の時間が必要でしょうしね」


 文句も言わず、大人しくついてきただけで十分だろう。


「特に断る理由もないし、命を助けてくれたり、ご飯をもらった恩があるからね。そのうち、信者になるんじゃない?」

「お前も私の信者になっていいんですよ?」


 お姉ちゃんって呼んでもいいよ?


「神が神の信者になるわけないじゃん。それにボクには君が見えている」

「そら、見えてるでしょ」


 このボク娘は何を言っているんだ?


「見えているのは君の心の内だよ。君、自分のことしか頭にないでしょ? 人を幸福にするなんてきれいごとを言っているけど、君が本当に欲しいのは他人の幸福じゃなくて、自分の幸福。女神アテナを潰すのも自分より上の存在がいるのが許せないだけだね」


 このガキ……


「すごい! 当たってる! 子供だけど、さすがは神様!」


 ミサ……

 友人をそんな風に思ってたんだ……


「それの何が悪いんです? 皆も幸せ、私も幸せ。何も問題ありません」

「別に悪くはないよ。君は神だし、君が好きなように信者を導けばいい。でも、平穏の神であるボクがそんな君の信者にはなれないよ」


 そらそうだ。


「まあ、お前はそれでいいです。それよりもお前は自分の信者を集めないんですか?」

「ハーフリング以外の種族は無理でしょ。それよりかも、世界各地に散らばっているハーフリングを集合させることにするよ」


 エルナもお告げが使えるから世界各地にいるハーフリングを呼ぶことができる。

 そうしてもらえると、私もありがたい。


「それが良いでしょう。車か何かを貸しましょうか?」

「車って、あの君らが寝泊まりしてたやつだろ? ボクらが使えるもんなの?」


 子供が車に乗って、運転をする…………あれ? 足が届くかな?


「無理かもしれませんね……」

「だったら地道に南部を目指してもらうよ。時間はかかるだろうけど、焦ることもない」

「最悪は運転手を出します。たくさんの人を乗せられる乗り物もありますから」


 バスを出せば、体格が小さいハーフリングならかなりの人数を乗ることができる。


「じゃあ、何かあったら頼むよ」

「任せなさい」

「よろしくねー。あ、そうそう、釣竿を出してくれない? ボクも魚釣りがしたい。君のところの双子メイドが魚を釣ってて楽しそうだった」


 な、なんだと……!?

 あの姉妹、エサなしで釣りおった……

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