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第3話 ギルド受付嬢はキューピッド!?

 綺羅綺羅ちゃんとハムくんのねずみ魔獣退治の日、わたしは同僚の猫獣人のギルド受付嬢みゃおちゃんに受付を任せて2人のクエスト先に向かった。


 綺羅綺羅ちゃんとハムくんに気付かれないように鳩に変身してから、2人の少し後ろの上空を飛んでいく。


 そう、獣人族は、ベースになっている動物に変身することもできる。わたしは鳩に変身しなくても飛べるけど、キューピッド・ミッションの調査対象にこっそり付いていくなら鳩の姿のほうが目立たない。


 今回のねずみ魔獣退治の場所は、わたし達のギルドのある街から少し離れたネズミータウンという小さな街だ。街一番の繁華街がねずみ魔獣にほぼ占拠されてしまい、食べ物も片っ端から食べられてしまうので、住民は飢えに苦しんでいる。


 この街は小さな街なので、独自の冒険者ギルドがない。住民も魔法を使えない人族がほとんどなので、わたし達のギルドにねずみ魔獣退治を依頼してきた。


 ネズミータウンの繁華街の上空に差し掛かると、道を真っ黒に覆うウギャーなブツの方々がワラワラと動いているのが空からでも見える!! あ、ご安心を(?)Gではありません!


 実際のねずみ魔獣の色は濃い灰色だけど、上空から見ると大量のねずみ魔獣軍団は真っ黒に見える。これはマズイかもしれない。思ったよりもずっと多い。


 綺羅綺羅ちゃんは、よけきれずに既にねずみ魔獣を踏みつぶしている状態のよう。ハムくんは……どこ?!


 真っ黒な集団の中で白いモノが動いているのが見える。ハムくんだ! ねずみ魔獣の上を次から次へとポンポンと胴上げのように飛ばされている。完全に遊ばれているようだ。


「うわー!? 助けてくれぇー!」


「ハムくん! うわっ!?」


 綺羅綺羅ちゃんがハムくんを助け出そうとしようと近づいたら、ねずみ魔獣がワラワラと綺羅綺羅ちゃんの脚を登ってきて噛んだ。


「ウォー!!」


 綺羅綺羅ちゃんは雄たけびを上げながら、火の魔法でドカンと攻撃した。魔法が直撃した所には、丸焦げのねずみ魔獣が折り重なった。


 でも綺羅綺羅ちゃんは自分の身体に火の魔法を当てるわけにいかないから、噛みついているねずみ魔獣はそのままだ。脚をブンブン振り回しても、身体を激しく動かしても、ねずみ魔獣はしぶとく綺羅綺羅ちゃんの脚にかじりついている。


「キャー! 痛い!!」


 ゾッとする光景だけど、助太刀しよう。本当は、クエストに参加していない者、それもギルド職員が冒険者のクエストに干渉するのは良くないとされている。だけど、これはキューピッド・ミッションなのだ! 綺羅綺羅ちゃんとハムくんをくっつけるためなら許される!


 わたしは急降下して綺羅綺羅ちゃんの脚にかじりついているねずみ魔獣を嘴でつついた。その時に稲妻を流してねずみ魔獣を感電させた。面白いようにボロボロとねずみ魔獣が綺羅綺羅ちゃんの身体から落ちていく。


 わたしが魔法で稲妻を流せるのは、接触しているものに限定されているので、わたしの魔法は魔獣退治には向かない。今回も弱いねずみ魔獣だからなんとかなっているだけで、それでもたまに噛みつかれそうになった。だから冒険者にならずにギルド受付嬢になったのだ。


 ねずみ魔獣が綺羅綺羅ちゃんの身体からだいたい落ちたのを確認して、わたしは彼女の頭のすぐ上を飛んでささやいた。


「ポッポッポ!」


 早くハムくんを救出して!


 綺羅綺羅ちゃんはわたしをハッと見た。彼女は火の魔法をうまく調節しながら、ハムくんの近くまでねずみ魔獣を燃やしていく。ねずみ魔獣が綺羅綺羅ちゃんにかじりつこうとする都度、わたしはつついて稲妻を流した。わたし達の攻撃のたびに肉の焦げる不快な匂いと煙が周囲に充満していったが、わたし達は確実にハムくんに近づいていた。


「ハムくん! わたしに飛び乗って!」


「おう! ありがとう!」


 ハムくんは綺羅綺羅ちゃんの頭の上にぴょんと飛び乗った。それを見てわたしは現場を離れて近くの街路樹の枝にとまった。


 その間にも綺羅綺羅ちゃんは近くのねずみ魔獣を踏みつぶし、遠くのねずみ魔獣には火を放って黒焦げにしていった。でも最期のあがきでねずみ魔獣がわらわらと綺羅綺羅ちゃんの身体に噛みついてきた。


「ハムくん、花火を放って!」


「え、でも?!」


「ハムくんなら、うまく調節できるよね。それにちょっとぐらいわたしに当たっても大丈夫。心配しないで!」


「お、おう、分かった!」


 ハムくんは、綺羅綺羅ちゃんの身体の上を器用に移動して花火をねずみ魔獣に放っていった。花火がねずみ魔獣に当たるたびにバチバチッと音がして落ちていく。その都度、綺羅綺羅ちゃんは落ちたねずみ魔獣をしっかりと踏みつぶし、遠くのねずみ魔獣には火の魔法を放った。


 でもねずみ魔獣も全くのバカではないから、縦横無尽に動き回る。それで時々ハムくんの花火が綺羅綺羅ちゃんの身体に当たってしまう。


「ッ!」


「すまん!」


「大丈夫! わたしは丈夫だから、遠慮しないでどんどんやって!」


 綺羅綺羅ちゃんとハムくんの周りには、黒焦げのねずみ魔獣の山がどんどん折り重なっていき、煙が充満して肉の焼ける匂いが鼻をつく。


 路上のねずみ魔獣がようやく全部黒焦げになった後、2人は力を振り絞ってねずみ魔獣の巣らしき場所まで歩いていった。わたしも上空から彼らの後を付いていく。


 大部分のねずみ魔獣が攻撃を受けている間、巣に隠れた個体も結構いるはずだから、いくら疲れていても巣への攻撃はさぼれない。


 巣の入口でハムくんが花火を放ち、綺羅綺羅ちゃんが反対側の出口で驚いて出てきたねずみ魔獣を待ち受けて火の魔法か踏みつぶしで退治する。2人はいつものコンビネーションで最後のねずみ魔獣まで駆逐した。


 力を使い切った2人は地面にバタンと倒れて寝転がった。もちろん、黒焦げねずみ魔獣が落ちていない所を選んでいる。


「ハァー、今回は大変だった……」


「うん、今回は今までよりも多かったね。ハムくんがいて助かったよ」


「お、おう、そうか?!」


「うん、これからもよろしく」


「あ、ああ、こちらこそ」


綺羅綺羅ちゃんはハムくんに手を差し出し、ハムくんは彼女の手の上にちょこんと乗った。ハムくんは照れ隠しなのか、頭をポリポリと掻いている。


 いつもだったら、ハムくんは綺羅綺羅ちゃんの感謝を素直に受け取らないか、逆に助かっただろうと威張りくさるかどっちかだ。


「クク、クク、クックック」


 うん、うん、亀の歩みだけど、ちょっとは前進ね。一気に進展は無理だろうから、今日のところはこれで満足するとしよう。


 わたしは2人の様子を見てから、ギルドに向かって飛び立った。


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