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第5話 ギルド受付嬢はフン臭村の祠を壊した!

 わたしは、お隣のフン臭村の糞害呪いを解くために祠(元鳩小屋)を壊しに出発した。


 フン臭村の屋外では、いつでも鳩の糞が空から降ってくる可能性がある。だから、いつこんな糞害呪いに遭っても大丈夫なように、わたしはレインコートを着込んでいる。レインコートは、ラクダ獣人のラクさんの臭いつば対策以外にも使えるお役立ちアイテムだ。


 わたしは空を飛べるので、馬車や徒歩でチンタラ行くのではなく、空をひとっ飛びした。


 フン臭村に入った途端、空がどんよりと曇っていて空気が淀んでいる感じがした。いかにも呪われている場所のようだ。


 ベチャッ! ベチャッ! ベチャベチャッ!


「ポポー、ポッポッポッポー!!」


 ギャー、糞が降ってきたぁ~!!


 翼をレインコートの中に入れていたら、飛べない。糞はむき出しの翼の上に容赦なくベチャッ、ベチャッと積もっていく。すごく気持ち悪い。間髪入れずに糞はどんどん翼の上に積もっていき、わたしはあまりの糞の重さにしまいには飛べなくなってしまった。


 気持ち悪いから早くどこかで糞を洗い流したいけど、村の家々は固く戸を閉ざしている。人々が出掛ける時に糞を洗い流せる流し場は、村と隣接する街の境界の向こう側にあるし、村の中にいる限り、どうせ糞は降ってくる。わたしは容赦なく糞を浴びながら、トボトボと祠に向かった。


 ようやく祠のある場所に着いて驚いた。


 元鳩小屋を流用した祠とは聞いていたけど、祠とは名ばかりの打ち捨てられた鳩小屋だった。鳩小屋の網も、木を打ち付けただけの粗末な屋根も破れている。その前に申し訳程度の小さな慰霊碑が置かれているが、糞の山に半ば埋もれて倒れ掛かっていた。


 わたしは、相変わらず糞が降ってくるのを我慢して網の穴から薄暗い小屋の中を覗いてみた。意外にも屋根が破れているところから中に糞は落ちてこないようで、小屋内部には糞が堆積していなかった。でも地面の上になにかがパラパラと落ちていた。


 わたしは目を凝らして見てみた。


「……クククーッ!」


 白いものは鳩の骨のようだ。


「ククククク……」


 かわいそうに……知らず知らずのうちにわたしは涙を流していた。


 人々は呪いを恐れて形だけ慰霊する体をとったけど、心がこもっていないから、餓死した鳩の怒りが収まらないんだ。


 わたしは、蝶番が壊れて傾いている小屋の木戸から中に入った。


 どうやって骨を集めようかと思案していたら、小屋の隅に転がっているバケツが目にとまり、その中に骨を拾い集め始めた。骨をバケツに入れるたびに『クククク……』とか『ポポポポ……』とか鳩の声が聞こえた。鳩の霊が感謝してくれているようだった。


 全部骨を拾い集めた後、わたしはバケツを持って小屋の外に出た。小屋の外には、村人が祠壊し用に用意してくれたつるはしやシャベルなどの道具が置いてある。わたしは、小屋の脇にシャベルで穴を掘り始めた。穴が十分な深さになると、ひとつひとつ丁寧に骨を入れていった。


「クックククク……」


 安らかに眠ってね……


 また鳩の声が聞こえた気がした。


 最後の骨を穴に入れた途端、穴の中の骨から光がパァーっと天に昇っていった。


「ポポポ?」


 あれ? そう言えば、外にいるのに糞が落ちてこない。穴掘りと骨の埋葬に必死で気が付かなかったけど、その作業の最中から既に糞は降ってきていなかった。


 わたしは穴の前で手を合わせて餓死した鳩たちの冥福を祈った。それからそっと土をかけて鳩のお墓を完成させた。


 でもこれだけではなにか寂しい。なにか目印になるものと考えていたら、倒れかけていた慰霊碑が目に入った。それを拾ってきて表面についている糞をハンカチで拭い、鳩のお墓の上に置いた。するとまた鳩の声がどこからか聞こえた。


「ポポ? クックククク?」


 え? 鳩小屋だった祠を壊して欲しい?


 苦しかった象徴だから、もう見たくないんだろうな。


 つるはしでガンと小屋の壁を叩くと、小屋はあっけなく倒れた。その途端、風がさぁーっと上空に向かって吹いていった。


 これでフン臭村は元の因習村に戻った。そう感慨深く佇んでいたら……


「ご苦労、ご苦労!」


「??」


 なんか聞いたことがある声がしたと思って振り返ったら、ギルド長のタヌさんだった。


「ポポポポーッ!」


 なんて格好して登場するんですかーっ! せっかくのいい場面が台無しよっ!


 タヌさんは通常運転、アソコ以外は全裸だった。股間のブツを丸ごと巾着に入れて巾着の紐を腰に巻き付けている。どこかの先住民族のペ〇スケースみたいだ。


「僕の大事なタ〇タマが鳩の糞で汚れちゃったら、かわいそうでしょ」


「ポポポポッポー!」


 トゥヤーッ!


 鳩の糞が靴底にこびりついている靴で金的をお見舞いしてやった。


「ぐわぁ~?! 痛いぃ~……いぃぃぃ……」


 タヌさんは、糞が積もっている地面の上をもんどり打って全身糞だらけになった。


「ひ、ひどい、タオベちゃん……せっかく綺麗なタ〇タマケースで保護してたのに汚れちゃったじゃん。僕は次のミッションを早く伝えたかっただけなのに……」


「クックク?」


 次のミッションって何ですか?


「鳩なメイド型転校生として学園に潜入ミッションだよ。『ぷちこん』という依頼者からのクエストだ」


「ククゥ~?! ポッポッポッポ!」


 はぁ~?! わたしは受付嬢だっちゅ~の!


 でもギルド長がボーナス査定5ヶ月分を約束してきたから、してあげることにした。そう、あくまで『検討』よ!


 ギルド長はさらなる報酬増加をむしり取られるとは露知らず、ひたすら汚れたを気にしていた。


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