王様は執事を紹介してくれました。
マッド、ミスターマッドと呼びなさいと。
艶々した白髪の背の高い痩せた老人で。
しかし、身のこなしも話す内容も、極めて洗練されていて、
それでいて、事務的な冷たさは無く、
要子は大好きになってしまいました。
ミスターマッドを。
何を尋ねても、丁寧に日本語で教えてくれます。
王様が生まれた以前からイギリスの王様の家に執事として勤めていたとかで。
ミスターマッドはやんちゃな王様の担当になり、日本へ留学した4年間は王様に付いて日本にいたらしく、それで日本語が話せるとか。
王様はミスターマッドは非常に勉強家で自分より、よほど日本語を理解していると話してくれましたが、
それは事実のようでした。
ミスターマッドは東京都内の複雑な交通網についても詳しく、
要子は驚き、また、尊敬しました。
着ている洋服も、雑誌などで見る執事そのもののいでたちで、
結婚することもなく、王様の一族の為に生きてきた様に、
要子は厳格で清く生きてきた人の素晴らしい姿を見るようでした。
城を案内してくれ、要子は4階の王妃の間のドアを開け中に足を踏み入れ、
すっかり目を丸くしてしまいました。
東京の要子の部屋は六畳間、王妃の間は5倍か6倍はある。
いくつかドアがあり、ミスターマッドは、ひとつひとつドアを開けて、説明してくれました。
部屋の中にトイレもバスルームもあるなんて、ホテルのようで、
また一つのドアを開けるとウォークインクロゼットで、
洋服も靴もびっしりでした。
不思議がる要子にミスターマッドは王様が要子のサイズに合わせて世界中から取り揃えたと話してくれました。
この王国は年中夏のような気候なので、夏服だけでよいとか。
そして奥にハンガーに掛けられた真っ白のドレスにうっとりしてしまいました。
ミスターマッドは明日のウェディングドレスと言い、
それはそれは素晴らしいドレスでした。
布地にパールを縫い込んで刺繍してあり、
洋裁や刺繍など全く出来ない要子でも、特別に手のかかったものと知れました。
部屋が広すぎ、こんなに沢山の洋服も靴も、いらない、お風呂が広すぎ、、
要子は、自分にはもったいない、、
そう言いながら、驚いていました。
マッドは謙虚な要子を王様の祖母と重ねていました。
王様の祖母は日本人で、王様は母親より祖母に懐いていたのです。
祖母と要子は似ています。
(つづく)