「「「「「「「「「「スティーシお坊ちゃま行ってらっしゃいませ!!」」」」」」」」」」
「クハハハ……まあ、精々俺様のいない3年間を楽しむがいい」
俺様に従順になった家の者達、町の人間に見送られながら学園に入学する年になった俺様は学園へと向かった。
泣いている者はつかの間の平和にうれし涙を流しているのだろう。
恐怖に縛られたのか、金目当てか俺様の従者として学園についてくるという人間が後を絶たないという事件もあったが、強者以外必要ないということを俺様が告げると、武闘大会が開かれたりもした。
結局、最終的に勝ち残ったのは、メイとシヨウ。
まあ、魔鎧を覚えた順番からいっても順当ではあった。ちなみに、悪役の部下らしく血を血で洗う戦いになりけが人が続出した為、全員を治療してやった。
恩を売り手足として働かせるために。
それ以前にも本当に色々あったのだが、思い出すのも面倒な位色々あったし、色々と仕組んだ。
全てはこのクソゲー『スターオブファンタジア』の無自覚チートクソ主人公を亡き者にする為に。
「スティーシー様、学園の者共も『分からせる』のですよね?」
「メイ、その通りだ。お前も俺様の右腕にふさわしくなってきたではないか」
メイの成長は俺様にとっても予想外だった。
この十数年で俺様も恐れるメイド長に認められる程メイドの仕事も極め、料理をすればなんでも作れ、掃除をさせれば完璧に、俺様の邪魔を一切しないように音もなく移動・行動が出来、俺様の動きを先読みし事前に動ける逸材となった。
勿論、悪役貴族のメイドだ。それだけにとどまらない。彼女は暗殺者としても最高に育った。捕らえたものを料理し、死体の掃除は完璧。物音一つ立てず気付けば殺されている。そんな暗殺者に。
まあ、ナリキーン家の治める土地では俺様が分からせた奴らばかりなので殺す必要のある人間はいなかったが、よそからやってきた使えそうもない小悪党共を消すのには本当に役立った。
ちなみに、山賊や盗賊などもやってくることはあったが、そいつらは俺様直々に分からせて子分にした。いかにも悪役顔したやつらで丁度良くナリキーン家の私兵団に組み込んでやった。
『そんな……親に捨てられ復讐だけを生きがいに生きてきた俺達が……』
そんな風に泣いていたが知った事か。俺様は悪役貴族。生きがいを奪うのが生きがい。
金に物を言わせ、ナリキーンの紋章入りの制服を着させてやった。
なにはともあれ、メイ・ドエムは俺様の右腕にふさわしい悪だ。
「そんな……ふふふ……ご主人様に褒められるだなんて嬉しくて出そうです……!」
なんという悪か。ある意味めでたい学園への旅立ちの日に漏らそうとは。
喜びに震えるメイの瞳の闇は深く、俺様にも理解不能な時がある。
だが、彼女は俺様に分からされた一人。絶対に逆らわない。なんだったら、自分から奴隷に付ける隷属紋を求めてきたくらいだ。なんか怖かったから拒否した。
「おい、メイ。主様の従者として恥ずかしい真似はするなよ。それより、主様、学園外の悪党を分からせるのはいかがでしょうか?」
「ふん、お前も分かっているではないか。流石俺の左腕、シヨウだ」
自分で勝手に覚えて魔鎧を使いこなしていたシヨウも俺様直々にトレーニングプランを立ててやり、非常に使える男に成長した。おもらしはしたがそれ以降何一つ失敗をしない、わたし失敗しませんからドクターなエクスな男。
使用人として色んな仕事をこなす男であり、格闘、剣技は勿論ながら魔法も出来、実務にも優れた頭脳明晰男。
「……ふ。やはり僕も未熟ですね。ちょっとこぼしてしまいそうです」
「大丈夫か?」
そう言って天を仰ぐシヨウ。諦めないで!
お前なら領地まで影移動で転移してトイレを済ませてくればいいじゃないか!
ちなみに、ナリキーン領の下水道は俺様が整えた。立派な悪役貴族になる為に環境整備は重要だ。疫病や貧困でいざという時に悪役として力が発揮できないのは以ての外。
なので、ちょっと残念なを今付け加えた天才シヨウと一緒に改善し続けたナリキーン領の経済状況や領内環境は王国でも最も優れていると言える。奴隷の暮らす場所でさえ最低限の保証をするよう厳しい条例を立ててある。
誰であれそれに従わなければ奴隷の没収。ナリキーン家の預かりとなった。
そして、その奴隷に十分な教育を与え、手に職を付かせ金を稼がせ、条例違反を行った奴らを跪かせるのはなんとも悪役冥利に尽きた。
その元奴隷共の教育システムを確立させたのもシヨウと共におこなった。
最強の領にする為には優秀な民を育てることが必須。
であれば、最も力を入れるべきは教育だ。現在、ナリキーン領の教育水準は王国一となっており、王都や他領からも学ばせてほしいと来る始末。
なので、王都にある学園も結局はナリキーン領にある学校のシステムを取り入れ始めており、既に俺様の配下たちを学園の職員として潜り込ませている。
「クハハハ、実に気分がいい。この学園でも悪の限りを尽くしてやろうではないか」
「「……はい、主(ご主人)様! もう準備は整っております!」」
クソ主人公の存在をどうやって消すか、そして、その為に俺様はどうやって最強の悪役貴族になるか考えるだけでワクワクしてくる!
『リュート~? って、きゃ! またアンタ、魔の森で狩りをしてたの!? アンタ、弱いんだから一人で行っちゃ駄目って……! アンタ、あのおっきなトカゲ一匹倒すのにも苦労するくらいなのに』
『ごめん、アイリ。でも、ぼく、村のみんなよりすっごく弱いから。……うん、決めたよ、アイリ。ぼくはやっぱり王都にいってもっともっと強くなってかえってくるよ!』
『やっぱりそうなのね……も、もー仕方ないわね! 幼馴染で領主の娘のあたしが一緒に学園に入学してあげるからいきましょ!』
『いいの!? アイリも一緒に?』
『……だって、学園でかわいい子にリュートが捕まったらあたしやだもん……』
『え? なんだって?』
『なんでもなーい。リュート、学園で一緒に、一緒に頑張ろうね』
的なクソゲーのオープニング映像をそろそろ済ませているであろうクソ主人公にな……。
「クハハハハハ! 実に楽しみだ……あのクソ主人公も、それに従うヒロイン達も、あの学園で全員潰せると思うと……!!!」
俺様は邪悪な笑みを浮かべながら学園へと向かうのであった。
だが、そんな俺様は知らなかった。
「アタシも早く訓練を終えて、スティーシ―様達に追いつくんだ! なんたって、アタシはスティーシ―様のもの、なんだからね」
本来はクソ主人公に拾われるはずだったのに、豊かになったナリキーン領にやってきて育ち進化を続ける魔武両道の天才少女が学園を目指していることを。
「我々を救う事も何もしなかったクソ神ではなく、多くを与えて下さったスティー神様が学園に入学されるそうです。であるならば、聖女である私も感謝の祈りを捧げに、もしくは私自身を捧げに行かねばなりませんね。早く大聖像を完成させないと……」
本来は教会内の派閥争いを避けるために学園へと逃げ込むように入学してきてクソ主人公になんかいい事言われてなんか惚れる聖女が今現在、信仰しているのがスティー神なる新しい神であることを。
「税として全てを奪われかけてたウチらを救ってくれた……あのクソ領主を殺してくれた黒装束の主様へのお礼の品はたっぷり準備出来てるんやろうなあ!? 学園への賄賂もばっちりやからウチも今年入学出来てよかったわ……とはいえ、ちょっと入学式には間に合わんなあ。ああ~……外国との大商いやからしゃあないけど~!」
本来は貧乏商人として学園に潜り込んで、なんやかんやでモンスターを殺して得た素材を沢山持っている主人公に恵んでもらってなんか惚れてまうやろーになる女商人が大商会の女社長になっていることを。
「エルフの森を救ってくださったあの方に世界樹の秘薬を渡す為に」
「ドワーフに十分な支援をしてくれたあの者の為に作った剣を届ける為に」
「ワシのような超強い竜をたおしたアイツにりべんじする為に」
「王国の平和の為になんとしても婚約を結びに」
なんか色々動き始めていることに。
そして、
「この学園のルールを知っているか? 新入生よ! 決闘というものがある! それは『敗者が勝者のものになる』という実にシンプルなものだ! だが、この決闘のシステムによって大きく進化を遂げた土地があることを! さあ、決闘だ!!!」
学園で決闘が流行っていることを。
俺様はまだ知らなかった。