アーゲンオーブ連邦は、王政コーモス国・教皇が統べるガイア国・共和制メルクリウス国の3国で構成されている。
昔は3国間で国境線を巡る諍いが絶えなかったが、共和制となったメルクリウスが農業の大規模集約化に成功して潤沢な食料を提供できるようになると事情が変わった。
事実上のメルクリウス政府である『メルクリウス商団連合』は穀物の安定供給を武器にコーモス国とガイア国に紛争の解決を要求。さらにすべての国民が崇拝する王よりも強力な存在であるリンドヴルム(竜郷)の『竜神』に和平の仲介を求めたのだ。
折しも国外の海賊による港湾都市への略奪が激しくなりさらにコーモス国内には山賊が跋扈する有様で、実は国境紛争どころではなかったのだ。3国はゆるやかな連邦制を取り、とりあえずの平和を保つことができるようになった。
しかしそれからわずか10年も経たずに、とある事件をきっかけにアーゲンオーブ連邦に軋みが生じ始めた。
3国が崇拝対象としていたリンドヴルムの竜神王が、こともあろうに近郊の村にいた美女にひと目惚れしてしまった。竜神は人に姿を変えて女性の元に忍び込んで愛を交わしてしまう。
どこの者とも知れない男が村一番の美女に手を付けてしまったことで、村の男たちは激怒。再び女に会いに来た竜神王が化けた男を袋叩きにしてしまった。
竜神王はその怪我が元で半年ほどして亡くなり、怒ったリンドヴルムの竜たちはその村を焼き払い住民を皆殺しにしてしまった。さすがに竜神王が手を付けてしまった美女だけは見逃したが。
そして……元々は慈悲深くあった竜神たちは、怒りにまかせて自分たちが為した行いを後になって激しく悔いた。
『もう、人間と関わり合いになってはいけない』
竜神たちはリンドヴルムを魔法で封じて人間界との交流を一切絶った。そのため竜神との疎通がなくなったガイア教は竜神信仰が薄れて無形の神を拝する新教が起こり、国内で宗教対立が起こった。
そこからアーゲンオーブ連邦のコーモス国、メルクリスス国にも混乱は及び、再び3国の対立が深刻化し始めた。
国民の間から再び竜神の力による平和を求める声が上がるが、ガイア国では竜神を拝する旧教はもはや弾圧の対象であり3国の意思統一は困難を極めてさらに亀裂は深まるばかりだった。